嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ

文字の大きさ
12 / 46
出会い編

12, 愚者の贈り物

しおりを挟む
「だから2m以内に近づかないでくださいねって申し上げましたのに。」

研究室に籠城かました伯爵をどうにも出来ず、またフリフリの部屋に戻ってルパートさんの小言を聞く。

「すみません。馴れ馴れしく近づいて不快に思わせてしまったようで……。」

「違いますよ。奥様にお会いしていっぱいいっぱいになってしまったんですよ。」

「内気な方なんですか?」

「いえ、そういう訳ではないんですが……」

ルパートさんが語尾を濁す。
そうか。自分が仕える当主が内気とか人が苦手なんて言いづらいよな。

自分の右手の指先に視線を落とした。
さっき伯爵にキスされた感触を思い出す。
外では大体営業を兼ねて女装してるし、その時は会った人に挨拶でキスされることもある。
でも、この素の姿の時にあんな風に触られたのは初めてかもしれない。
そう思うと何だか落ち着かない気分になった。

男の姿で来たのはその方が話がしやすいだろうと思ったからなんだけど、一体伯爵はどういうつもりで僕の手にキスなんてしたんだろう。
貴族のマナー?男同士でも挨拶で手にキスするものなの?宮廷で見かけたことはないけど、男性しかいない場には行けなかったからな。
あっ、そんな習慣が貴族にあるなら次の舞台の演出で考慮しないと……

「……奥様、それでよろしいですね?」

「はい……?」

「かしこまりました。」

しまった、考え事に気を取られててルパートさんの話聞いてなかった。

「えっと、何の話でしょう?」

「今日は旦那様もうダメだと思うので、明日仕切り直しでも?」

「あっ、じゃあ明日また来ます。場所も覚えたし自分で来るので迎えは不要です。」

「来る?奥様のお家はここですよ?貴方はリリック伯爵夫人でいらっしゃいますから。他所に住むのは旦那様の許可がないと……。」

「それも貴族典範ですか?」

「左様でございます。」

「最悪な法律ですね……。」

そんなのが今時残ってるなんてどうかしてるよ。
追放された後がこんなに不自由だなんて聞いてない。エドヴァル様、分かってて黙ってたんじゃないだろうな!?

深いため息がでた。けど、法律なんて調べたらわかるんだから人に任せきりで迂闊に結婚してしまった自分の落ち度でもあるよな。

今下手に動いて逮捕されたら舞台どころじゃない。
ただでさえ旬を逃さないためって信じられないくらい短い準備期間での公演なのに。

「分かりました。でも、何の用意もしてません。肌のお手入れとかあるし、稽古もしないといけないし……。」

今日の手荷物なんて財布と台本くらいだ。
流石に舞台前だから、毎日のスキンケアはしておきたい。大きなニキビや隈なんて出来たら化粧でも誤魔化せないからね。

「ご心配いりません。奥様御用達の日用品は全てご用意してございますよ。お洋服も、男性ものと女性ものをそれぞれ用意してございます。」

「は?どういう……。」

「サイズは合わせてありますが、デザインや着心地などございましたら直しますので何なりとお知らせください。」

ルパートさんがにっこり笑って言った。

「待ってください!僕が使ってるもの?」

「左様でございます。ジュリーのお化粧品に、キャネルのお香水でお変わりないですよね?サイズも宮廷で最後に仕立てたドレスに合わせてありますので概ね大丈夫かと。」

「な、何でそれを知って……」

「?宮廷でお使いの物は全て旦那様からお送りしていましたでしょう?ご存知なかったですか?」

きょとんとした顔で見つめられる。
ないないない!エドヴァル様が用意してたんだと思ってた!!

嫌な奴を装うために贅沢してる方がいいってことで、結構高いものじゃんじゃん頼んでたんだけど!?
エドヴァル様の計画の必要経費だと思ったから遠慮してなかったのに、なんで何も関係ないリリック伯爵がそれを買ってるわけ……?

「サイズって、まさかドレスも……?」

「はい。もちろん。奥様のご生活の面倒を見るのが旦那様の務めですから。」

な、なんだって……。服は僕に対する報酬じゃなかったのか?エドヴァル様……自分では僕のした事に何も返してなかったってこと?
なのにさも自分が出してるような顔して、あの野郎どういうつもりで!?

「奥様?」

「え、あの、すみませんが、用意いただいたものは使えません。それは宮廷にいたから使ってただけで、普段は市場で売ってる安物使ってるんです。」

「そうでしたか……思い至らず申し訳ございませんっ!」

ルパートさんが慌ててすまなさそうに頭を下げた。

「あ、あの!貴方が謝ることじゃないです。僕、これ以上伯爵に借りは作れません。だから使わないんです。今まで頂いた分も、残ってるものはお返ししますし、返せないものは弁償するので。」

やっぱり返さなきゃだよなぁ。
あれ、何か忘れてる気が……?

「奥様、申し訳ありませんがその話は私は承れません。どうか旦那様として下さいまし。」

「はい。」

「ありがとうございます。それと今日はこちらでお過ごしいただけますね?」

ルパートさんにそう言われて、散々お金を使わせてしまった負い目から断れずその日は泊まる事にした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

処理中です...