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出会い編
16, 第7区で朝食を
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次の朝、テーブルに並べられた朝食の中から細かく切ったハムをムギュッと口に押し込む。
きっと本来はいい豚肉を使っていて美味しいだろうに今は味がしない。
原因はベッドで食事を摂る伯爵にさっきから睨まれまくってるからだ。
な、何だろう。食べ方が変だからかな。
宮廷でもマナーが粗野な方が反感買うからってエドヴァル様が言ったからあえて直さなかった。
それでも他の人の振る舞いを見て正しいものを覚えはしたから、今はその通りにしてるんだけど。
伯爵が気になって全然落ち着いて食事できない。
立派なコンティネンタル式の朝ご飯なのに味もよくわからない。
あーあ。ショコラボウルにクロワッサンひたひたに浸けたやつをアリスちゃんと一緒に頬張りたいなぁ。
ルパートさんに提案されて一緒に朝ご飯食べに伯爵の部屋に来たけど、さっきから会話も全く無く気まずすぎる時間が過ぎていた。
「あの、リリック伯爵、やはり左手だと食べ辛いですか?」
僕もあまり減ってないけど、それより更に手が止まってる伯爵に聞いてみる。
「む、いや、そんな事はない。」
言われてようやく彼は自分の皿に乗った蒸しポテトにフォークを突き刺さした。
けど利き手じゃなくて加減がわからないからか、刺したところからポテトが割れて少し持ち上げただけでころりとフォークから落ちる。
「む。」
うーん、やっぱりさっきから進んでないのは食べ辛いからか。
気がつかなくて悪いことしちゃった。
席を立って彼の朝食が並べられたベッドテーブルの脇に腰掛ける。
僕が近づくだけで伯爵の表情が険しくなり体がこわばるのが分かった。
昨夜の今日で警戒してるのかな。
そんなに嫌ならご飯も断ればいいのにと思うけど、僕がお見舞いしたいって言ったから断らないでくれたのかもしれない。
「お手伝いします。フォークをお貸しください。」
伯爵の前に手を差し出す。
「いっ、いや、いい。君は自分のご飯を食べなさい。」
「僕がお手伝いしたら迷惑ですか……?」
わざと弱々しい声で言って、少し顎を引いた顔の角度で伯爵を見上げる。
「いや、そうではないが……。」
尚も見つめると、眉間にシワが三本くらい寄った顔ですす、とフォークを渡された。
うん、やっぱり怖い外見に似合わずこの人結構お願いに弱い。
「ふふっ、ありがとうございます。」
思わずにんまり笑ってしまった。
「っ、あ、ああ……」
低いうなり声みたいな声色。
不味いな。茶化してるように思われたかも。
慌てて表情を引き締めて、割れたポテトのカケラにフォークを立てる。
「はい、あーん。」
伯爵は僕が差し出した口元のポテトを鬼みたいな形相で見つめた後、ギギギギっと音がしててもおかしくない動きで口を開いてポテトを食べた。
その後は大人しく食べてくれたので、次々料理を口に運ぶ。
食べさせている間も特に会話はない。
「ペースとか早くないですか?誰かにこうやってご飯をあげるの、義父が死ぬ前に看病して以来だから久しぶりで。」
「ああ。」
大丈夫って事かな。
何か会話が欲しくて話しかけたんだけど、また沈黙がやってきてしまった。
「伯爵、何で男の僕の住民登録が女になってるのか不思議に思いませんでした?」
とりあえず僕が初対面でする鉄板の話題を切り出してみる。
伯爵は何も言わなかったけど、チラリとこちらを見る様子に何となく続けて話していい気がした。
「その義父の所為なんですよ。義父さんの娘さん生まれてすぐ亡くなって、奥さんもその時亡くなってるんです。
それで落ち込んでる時に馴染みのキャバレーのゴミ捨て場に捨てられてた僕を見つけて、手続きが面倒だから奥さんだけ死亡届出して娘さんとして僕を育てたんです。」
話しても特にリアクションはない。
大抵の人は僕に同情するか義父に呆れるかするんだけど。
「その義父も10年前の流行病で死にまして、独りぼっちのところをガロ座長に引き取られて役者になりました。おかげで売れっ子になれたから、悪い人生じゃないですね。」
「……。」
やっぱり返事はない。
うーん、あんまり好きな話じゃなかったかな。
きっと本来はいい豚肉を使っていて美味しいだろうに今は味がしない。
原因はベッドで食事を摂る伯爵にさっきから睨まれまくってるからだ。
な、何だろう。食べ方が変だからかな。
宮廷でもマナーが粗野な方が反感買うからってエドヴァル様が言ったからあえて直さなかった。
それでも他の人の振る舞いを見て正しいものを覚えはしたから、今はその通りにしてるんだけど。
伯爵が気になって全然落ち着いて食事できない。
立派なコンティネンタル式の朝ご飯なのに味もよくわからない。
あーあ。ショコラボウルにクロワッサンひたひたに浸けたやつをアリスちゃんと一緒に頬張りたいなぁ。
ルパートさんに提案されて一緒に朝ご飯食べに伯爵の部屋に来たけど、さっきから会話も全く無く気まずすぎる時間が過ぎていた。
「あの、リリック伯爵、やはり左手だと食べ辛いですか?」
僕もあまり減ってないけど、それより更に手が止まってる伯爵に聞いてみる。
「む、いや、そんな事はない。」
言われてようやく彼は自分の皿に乗った蒸しポテトにフォークを突き刺さした。
けど利き手じゃなくて加減がわからないからか、刺したところからポテトが割れて少し持ち上げただけでころりとフォークから落ちる。
「む。」
うーん、やっぱりさっきから進んでないのは食べ辛いからか。
気がつかなくて悪いことしちゃった。
席を立って彼の朝食が並べられたベッドテーブルの脇に腰掛ける。
僕が近づくだけで伯爵の表情が険しくなり体がこわばるのが分かった。
昨夜の今日で警戒してるのかな。
そんなに嫌ならご飯も断ればいいのにと思うけど、僕がお見舞いしたいって言ったから断らないでくれたのかもしれない。
「お手伝いします。フォークをお貸しください。」
伯爵の前に手を差し出す。
「いっ、いや、いい。君は自分のご飯を食べなさい。」
「僕がお手伝いしたら迷惑ですか……?」
わざと弱々しい声で言って、少し顎を引いた顔の角度で伯爵を見上げる。
「いや、そうではないが……。」
尚も見つめると、眉間にシワが三本くらい寄った顔ですす、とフォークを渡された。
うん、やっぱり怖い外見に似合わずこの人結構お願いに弱い。
「ふふっ、ありがとうございます。」
思わずにんまり笑ってしまった。
「っ、あ、ああ……」
低いうなり声みたいな声色。
不味いな。茶化してるように思われたかも。
慌てて表情を引き締めて、割れたポテトのカケラにフォークを立てる。
「はい、あーん。」
伯爵は僕が差し出した口元のポテトを鬼みたいな形相で見つめた後、ギギギギっと音がしててもおかしくない動きで口を開いてポテトを食べた。
その後は大人しく食べてくれたので、次々料理を口に運ぶ。
食べさせている間も特に会話はない。
「ペースとか早くないですか?誰かにこうやってご飯をあげるの、義父が死ぬ前に看病して以来だから久しぶりで。」
「ああ。」
大丈夫って事かな。
何か会話が欲しくて話しかけたんだけど、また沈黙がやってきてしまった。
「伯爵、何で男の僕の住民登録が女になってるのか不思議に思いませんでした?」
とりあえず僕が初対面でする鉄板の話題を切り出してみる。
伯爵は何も言わなかったけど、チラリとこちらを見る様子に何となく続けて話していい気がした。
「その義父の所為なんですよ。義父さんの娘さん生まれてすぐ亡くなって、奥さんもその時亡くなってるんです。
それで落ち込んでる時に馴染みのキャバレーのゴミ捨て場に捨てられてた僕を見つけて、手続きが面倒だから奥さんだけ死亡届出して娘さんとして僕を育てたんです。」
話しても特にリアクションはない。
大抵の人は僕に同情するか義父に呆れるかするんだけど。
「その義父も10年前の流行病で死にまして、独りぼっちのところをガロ座長に引き取られて役者になりました。おかげで売れっ子になれたから、悪い人生じゃないですね。」
「……。」
やっぱり返事はない。
うーん、あんまり好きな話じゃなかったかな。
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