嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ

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出会い編

17, 威圧的な彼氏

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僕の鉄板ネタは見事に不発に終わり、また黙々と食事の時間が過ぎた。
お皿もほとんど空だ。

「……私も」

伯爵が話しだしたのを聞いて手を止める。

「10年前の流行病で両親は他界した。後見人の叔父も今は大陸に渡っている。君と同じで独りだ。」

思いがけない伯爵の言葉に目が丸くなる。
というかこんなに長く喋れたんだ、と少し失礼なことを思った。

「む、君には劇団の仲間がいるから、私と一緒にしてはダメか。」

「伯爵こそ叔父さんが存命で居場所がわかってるんだったら僕と全然違いますよ。」

言いながら皿に残った料理の最後の一口を差し出すと、大人しくパクリと食べる。

「そうか。一緒じゃないか。」

「はい。」

顎に手を当てて考え出した伯爵を尻目に、手早く卓上の食器をまとめて僕の食事が乗ったテーブルに片付けた。
ベッドテーブルは床に降ろしておく。
後はルパートさんが来て片付けるだろう。

「では、私も悪くない人生だと思っている。……どうだ?」

どうだって、一緒ってこと?

「そうですね。ではそこはお揃いですね。」

「ふむ、そうか。」

相変わらず険しい顔はしてるけど、少し声色が弾んでいる気がした。
何だろ。僕と同じなのが嬉しいってこと?
ちょっと、何か……。

「では、僕部屋に戻りますね。」

まだ食事は残ってるけど、また無言で睨まれながら食べたくないしお腹空いたら街に焼き栗でも買いに行こう。

「食事は?」

案の定伯爵に聞かれた。
ジロリと見られると自然に背筋が伸びてしまう。
その威圧感何とかして。

「えっと、食欲ないのでもう要りません。」

「具合が悪いのか?医者を呼ぼう。」

「いや、そうじゃないです。」

「では、食べたほうがいい。」

「ええっと……。」

だから、食べ辛いんだってば。貴方の態度のせいで。
という本音を言うわけにもいかないし、どうにかうまいこと逃げられないかな。

「じゃあお部屋で1人で食べてもいいですか?」

どうも通用するらしいお願いを使ってみる。

「……ん、いや、1人だと寂しいだろう。ここなら人がいるし……。」

うん、その人が問題なんだけどな。
お願いはいつも通るわけじゃないらしい。次の手を打ってみる。

「では、僕が食べている間伯爵がずっと何かお話してくれますか?」

「む、話?」

「はい。僕にわかる話がいいです。」

無口な人だしこう言えば退くだろう。
思ったとおり、伯爵は険しい顔をして考え込んでしまった。

「……わかった。即興で話すのは苦手だから、朗読でもいいか?」

ろーどく?やるの?
え、何が始まるの。

「はぁ。」

「すまないが、そこのデスクの引き出しから青い表紙の手帳を取ってくれ。」

言われた通りにデスクから質の良さそうな手帳を取り出して渡す。
ジロっと目で促されたので、観念して冷めた朝食が残った席に戻った。

伯爵はぎこちない動きで手帳を開いて膝の上に置くと、書かれたものを読み上げていく。

「1904年10月8日、曇、演目『あゝ、非情』、開演18時00分、2分16秒遅れで開始。反乱軍の女性役。登場、第1場面開始6分37秒通行人の町娘。セリフ1つとコーラス1曲。第3場面2分5秒、集会の参加者、第3場面10分5秒、市街戦の戦闘員、セリフ1つ、コーラス一曲。第4場面7分17秒、凱旋する群衆の1人。」

んん?何、これ。お芝居のメモ?
しかもこれ、カペラ座でやった劇じゃない?
僕の初めての舞台はこの演目の民衆役だった。
伯爵観てたんだ。意外……。

選んだところだけかいつまんで読んでるのか、パラっとページをめくって伯爵はまたメモを読み上げだした。

「1905年6月17日、晴、演目『真冬の白昼夢』、開演14時30分、7分3秒遅れで開始。ティトニア役。」

読み上げられた役名にえっ、となる。
僕が初めて演じた名前付きの主要キャラクターだった。

「登場、第2場面開始2分15秒、セリフ15箇所、ソロ1曲、第四場面開始0秒、セリフ8箇所、デュエット1曲……」

次々と手帳が読み上げられる。
三つ目に読み上げられた記録も、僕の演じた役に関してだった。

どうやら伯爵の手帳には僕が舞台で演じた時の事細かな記録が書かれているらしい。

え、これ僕このまま自分の出演歴を聞かされながらご飯食べるの?それって一体どういう時間??
というか、自分の演技を伯爵に観られて逐一記録取られてたとか何かすごい恥ずかしいんだけど……。

「1905年12月……」

「は、は、伯爵!」

続く伯爵の読み上げに堪らず席を立ってベッドに走り寄る。
どうにかそれを止めようと膝の上に広げられた手帳を夢中で取り上げた。

「あのっごちそうさまでした!」

そのまま部屋を出て逃げるように自分の部屋に戻った。
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