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21, ご主人様のありがとう

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未明にレンナから出発して、ユジンと俺様は教会に帰った。
お昼前に到着すると、敷地内の菜園の手入れをしていたグイドが見つけて寄って来る。

「ユジン様お戻りで。何かトラブルですか?」

「いや、依頼が片付いたから戻って来た。」

「えっ!1日で?」

「ああ。リュスが相手の穢れを吸い取ったから理性が戻って説得できた。」

「へぇ!悪魔と話が出来たんですか。まあ、穢れがないんだから、リュスと話すみたいなもんか。なるほどねぇ。」

グイドがしきりに関心している。
そうか。今までは悪魔を斬って退治してたんだっけ。

「悪魔を斬るのは時間がかかるのか?」

「ユジン様でも、一つの依頼は1週間くらいかかってましたよね?ユジン様。」

「……そうだな。」

「顔色もいいし。リュスのおかげで大分やりやすくなったみたいですね。リュス、お前は疲れてないか?」

「ちょっとまだ体が重いけど、大丈夫なのだ。」

「んー、そうかそうか。偉いな。リュス、ユジン様を助けてくれてありがとうな。」

グイドが俺様の頭をクシャクシャする。

俺様、そんなにユジンの役に立ったのか。嬉しいぞ。

「えへへっ」

「グイド、仕事はどれくらい溜まってる?」

「へぇ、1日ですからね。大しては。」

「そうか。それを片付けたらまた明日リュスを連れて出発する。」

「依頼ですか?リュスも疲れてるみてぇですし、も少しここに居てもいいじゃねぇですか。」

「いや、シャルドーレのアリアス司祭を訪ねる。調べたい事が出来た。」

「アリアス様のとこですか。」

「誰なのだ?」

「ユジン様が退魔の技術を教わった方だよ。いわゆるお師匠様ってやつさ。」

「お師匠様……」

昨日言ってた、ユジンが育った教会の司祭だな。

「グイド、準備を頼む。今回は遠いから馬車じゃなくて馬に乗っていく。リュスはまだ本調子じゃないなら休んでいていい。」

そう言って玄関に入ろうとするユジンをグイドが呼び止めた。

「ユジン様、俺なんかが僭越ですが、リュスの事ちゃんと労ってやりましたかい?自分がどれだけ貢献したかも分かってねぇみてぇでしたが……。」

「必要な面倒は見ている。」

「そうじゃなくって……」

「いつから私に指図するほど偉くなったんだ?」

「グイド、いいのだ。ユジンはお仕事があるのだ。俺様はグイドに褒めてもらったし。」

ユジンがグイドを睨み始めたのが嫌で割って入った。
それに、終わった後何となく優しかったのはユジンなりに労ってくれてたんだと思う。
……そんなに優しくない時もいっぱいあったけど。

「……チッ……リュス。お前のおかげで助かった。……ありがとう。」

「!!……うっうん!」

それからすぐにユジンは玄関をくぐって行ってしまった。
俺様はそれからずっと嬉しくて、グイドから休むように言われてもちっとも寝てられなかった。

「寝とかなくていいんかい?」

「いいのだ。俺様は他にもっとユジンの役に立つことをして褒めてもらうのだ。何すればいいのだ?」

グイドに言われて暫く布団でゴロゴロしたけど、ザンバザルのより固いしユジンもいないから結局グイドの作業している台所にいる。

「しかしお前もよく懐いたなぁ。穢れる前の悪魔ってのはみぃんなそうなんかい?」

「そうだぞ。悪魔は、昔は人間と暮らす土地神だったのだ。だから人間が好きなのだ。悪魔みんなの穢れが無くなれば、また一緒に暮らせるかな?」

俺様が言えば、グイドは暫く黙った後低く唸った。

「そうか……。ユジン様はお前に随分色々教えたんだな。忘れたままにしとくつもりだって聞いてたが、どういうつもりなんだか頭の悪い俺にはさっぱりだ。」

「グイド?」

「リュス、その話はもうするな。教会は、一つの神を信じることしか認めない。異教の神がこの地で信仰される事はもう二度と無いんだ。分かるか?」

俺様は低い声で話をするグイドを見つめた。いつもより皺が深くて険しい顔をしている。

「ユジン様を信じちゃいるが、近頃は聞いているのと違う話ばっかりだ。お前を使うのだって俺は反対だった。異教の術を操る事が教皇庁に明るみになれば、いくらユジン様だってまずい事んなっからな。けど、そうすれば悪魔を完全に殺す方法が見つかるってっから目を瞑ったんだ。それが何だ。説得って。」

「悪魔を、殺す?」

俺様が繰り返すとグイドの小さい目が微かに揺れた。

「お前はいいよ。何も悪ぃ事してねんだろ?だから、事が済んだらもといたとこに帰りゃいい。けど、この地で穢れた悪魔達は違う。」

「怨霊んなりゃ、近づいた人間を呪い殺す。動物や人間に取り憑いて魔物んなりゃ、手当たり次第村や街を襲う。」

「……。」

「俺にゃ十歳下の妹がいたがな、村に狼の魔物が出て胸裂かれて死んだよ。優しい旦那と結婚したばっかで、腹には子供もいた。アリアス様が八つ裂きにして散らすまでそいつは50人は殺してる。悪魔は死なねぇから、昔から数えればもっとじゃねぇか。」

「グイド、ごめん……俺様は……」

「リュスが謝る必要はない。お前と会ったおかげで、悪魔だって望んでそうなったんじゃねぇのも分かった。けどいくら穢れが消えて悪さしなくなっても、じゃあ仲直りっつって妹を殺した悪魔を受け入れることは俺にゃ出来ねぇよ。」

俺様は何も言えなくなってしまった。
そんな俺様にグイドは何度も謝って、暫く頭を撫でていた。


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