【短編R18】敗北魔王、美淫魔を純粋培養したら好かれてしまう。

9,終

深い眠りから浮上すれば、いつもの朝だった。

起きあがろうとしたら身動きできなかった。
アルが後ろからひっついて腕はお腹に巻き付いているし足は足に絡みついているしで全身が拘束されている。

「ルーデ……ぉはょぅ。」

まだ寝ぼけ声のアルが背後から言ってぎゅうっと抱きついてきた。

「アル……離せ。」

「もうちょっと起きなくてもいいんじゃない？」

私の右肩に顔を埋めてちゅうちゅう吸い出したアルを引き剥がすために左手で頭を払い除けようとした。

ふと顔の高さまで持って行った手に違和感を覚えて手の甲を確認すると、自分でした覚えのないシンプルな銀の指輪が薬指に嵌っている。

「む、何だこれは。」

外そうとすると、アルの手がやんわり止めてくる。その左手にも同じ指輪が嵌っていて目を見開いた。

「外しちゃだめだよ。結婚指輪なんだから。」

「淫魔と魔王は番にならぬ。」

自分で言って、不思議と胸が苦しくなった。

「今は人間でしょ。昨日の夜結ばれたんだから結婚したんだよ。忘れちゃったならいまからもう一回してもいいよ？」

アルが私の体を弄り出すのを慌てて静止する。

「確かに寝たが、人間だってそれだけで結婚にはならぬだろう。男同士であるし。」

「人間は結婚してない人とエッチしたりしないでしょ？ルーデはするの？」

ちょっと怒ったアルの声にたじろぐ。

「するつもりはない。どうあろうとアルだけだ。」

「じゃあいいじゃん。確かに男同士で結婚はこの国に制度がないから、アルの魔力で周りのみんなは誤魔化さないとね。出来る？」

「出来るが……」

「ありがとう。」

ぎゅっと抱きしめて後頭部に頬ずりしてくるアル。
待て。

「するとは言ってない。」

「でももうルーデと俺はセックスしちゃったよ？それって結婚してる人しかしないよね？したってことは、俺たちは結婚したんじゃないの？」

価値観が純粋すぎる。
確かに世の中には婚前交渉や不義密通があると教えなかったが。
これも育児書には教えろと書いてなかったぞ。
普通教えなくても分かるものでは？

呆然としていると、アルが私を抱き起こして向かい合うように座った。
自分に嵌めた指輪を撫でる。

「いつかルーデと結婚したいって、ずっと思って用意してたんだ。ルーデ、俺これからどんな時も隣にいて絶対ルーデを幸せにするからね。」

極上の笑顔で言われ、キスをされる。
心が満たされて暖かくなっていった。

アルが嬉しそうなら、まあ良いか。

そう結論づけ、アルの体に腕を回して「私もだ」と答えたのだった。


おわり







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