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しおりを挟む討伐隊が出陣する前日の朝、研修生全員で騎士長にご挨拶する事になった。
十数人の生徒と学長室に向かう。
今日はいつも空室のそこに騎士長がいるらしい。
こんなに早く夢が叶うなんて。
「騎士長、失礼します。」
先導する担任が扉に向かってノックをして声をかけた。
ドキドキしながら開くのを待ち、中に入る。
はやる気持ちを抑えながら、下品に見えないようにゆっくり部屋の真ん中にあるデスクに腰掛ける人物を見た。
そして、目が点になった。
そこに座っていたのは、門番のゾックだったから。
「お前!今朝は門にいないなと思ったら仕事をサボって勝手に入って!!」
並んだ生徒の列から走り出してゾックに近づく。
担任があっと言って呼び止めてきたが無視して座るやつの耳を掴んで椅子から引っ張り上げた。
「おはようマル、元気か?」
「そこはお前が座っていい席じゃない!騎士長に失礼だろう!」
ゾックのヘラヘラした様子が一層腹立たしい。
「マルクザーク・ヴァン・ワイス、手を離しなさい。その方は間違いなく騎士長のゾクレイア・フェルデンだ。その席に座っていて問題ない。」
担任が冷静に告げる言葉が、すぐには理解出来なかった。
「は?」
つまんだ耳の先にあるゾックの顔を見れば、うんと頷いている。
そっと手を離せば、ゾックはまっすぐ姿勢を正した。
それを皮切りに、他の研修生がクスクス笑ったり隣同士でヒソヒソするのが聞こえる。
「あー、ここにいる十よ、十さ……いや、十四名は、入学して以降門番に扮した騎士長の存在に気付いた者たちだ。
ワイス、お前はうっかり忘れていたみたいだがな。
それが今回の選抜研修に選ばれる条件だった。教員、上級生もグルで騙した事は謝罪するが、これが龍葬騎士軍の伝統だ。高知能なドラゴンと渡り合える読みの鋭さが、我々には常に求められる。」
担任はそこまで話して少し呆れ気味にゾック、もとい騎士長と僕を見た。
「あっ、ぞっ、じゃな、騎士長、た、大変ごぶりぇ、ご無礼を……」
青ざめながらいう僕に騎士長はいつもの笑顔で返してきた。
「マル、いつもみたいにフレンドリーにしてくれていい。」
フレンドリーにした事なんてないけど!?
そこから呆然としたままトボトボと研修生の列に戻り、形ばかりの挨拶を終えて部屋を後にした。
どうやって自室まで帰ってきたかは覚えて無い。
今まで悪態をついてきた相手が憧れの人だった事がショックで、ベッドに倒れ込んだまま動けないでいた。
明日はいよいよ討伐研修だというのに。
騎士長との面会が終わったら、体の調整がてら軽く訓練しようと思ってたのに。
「僕、絶対嫌われてるよねぇ……。」
最後の騎士長の言葉、絶対に皮肉だったもん。
そりゃそうなんだけど。
自業自得なんだけど。
騎士長って分かった途端手のひら返すなんて最低なんだけど……
「やっぱり、謝りたい。」
ゾックは才能があるのに楽ばかりしている堕落した男じゃなかった。
立派に国のために自分を捧げていたのだ。
仕事に不真面目だったのは僕らを油断させるためだった。
それを見抜けなかった僕が完全に未熟だった。
謝っても騎士長の気は済まないかもしれないけど。
そもそも選抜研修に指名したのだって、評価したからじゃなくて仕返しのためかもしれない。
学校で侯爵令息の僕に手出ししたら騎士長と言えど大問題だけど、ドラゴン討伐の時に僕が怪我しても仕方がないで済むだろう。
うぅ……稀代の騎士長の本気の仕返しは怖いけど、甘んじて受けるしかないよね。
「よし、謝る。僕は騎士長に謝るぞ……」
そう何度も自分に言い聞かせながら、僕は眠れぬ夜を過ごした。
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