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しおりを挟むゾックの屋敷に着いた時はもう日がすっかり暮れていた。
屋敷、というか庭に建てる別棟みたいな小屋だ。
「ここはゾックの別荘?」
こぢんまりした室内を見回す。
シンプルな感じは中々に素朴で風合いがある。
わざわざ地味に建てるなんて以外に趣味人なんだな。
「いや、ここが私の本宅だ。借家だけどな。庶民の住まいはこんなものだぞマル。別宅もない。」
「そ、そうだったんだ。ごめんなさい。」
あんなに立派につとめを果たしてるのに貧乏なのかな。ゾックの立場なら確かに領地収入は少ないのかもしれないけど、騎士長としてのお給料はちゃんともらえてるんだろうか。
「粗末な場所だが不自由はさせないから龍の王とくつろいでくれ。食事の支度をしてくるから。」
ゾックはてきぱきと暖炉に火を入れて、僕をその前のソファに座らせた。
眠っている龍の王は手早く体を布巾で拭いた後、新しい布にくるんで僕の横に毛布をしいて寝かせてくれる。
すごく手際がいい。
僕もなんだか今日の疲れが襲ってきて待っていたらうとうとしてしまった。
とぎれた意識が、漂ってきたいい匂いに呼び戻される。
もたれていたソファから体を起こして目を開けると、ゾックが目を覚ました龍の王をだっこしてあやしていた。
「マル、食べられるか?」
その言葉にまだ半分寝ぼけたままこくんと頷くと、片手に龍の王を抱えたままもう片方の手で僕の手を引いてダイニングに連れて行ってくれた。
チェアに座っていると、木の器に盛られた暖かい野菜とベーコンのスープを目の前に置いてくれる。
「ありがとう。」
僕がゾックを見上げながら言うとにっこり笑って手を差し出して食べるように促してくる。
食べたら野菜の甘みやベーコン、きのこの旨味が口の中に広がるすっごく美味しいスープだった。
主食のパンも雑穀が混ざった田舎パンで噛むほどに甘く味が増して食べる手が止まらない。
お、美味しい……。寮の食事、実はあんまり好きじゃないからこんなに満たされる食事は久々だ。
夢中で食べてる僕の横で、ゾックは龍の王に麦粥を食べさせていた。
龍気以外に普通の食事も必要なのは、龍の王も他のドラゴンと一緒みたい。
「ゾック、ごちそうさまでした。すごい美味しかった。腕のいいキッチンメイドがいるんだね。」
「いや、誰も雇っていない。自分のことは自分でできるからな。」
「ええ!?じゃあこれ全部ゾックが?」
目をぱちくりさせて聞けば、事も無げにゾックが頷いた。
「んまー!まぁ!」
僕と喋ったせいで手が止まったからか、龍の王が次の一口を催促するように声を上げた。
それを聞いてゾックがすぐに一匙粥を掬ってパカッと開いた口元に運ぶ。
はっ、ゾックはご飯食べないのか?
何か息をするように僕と龍の王の世話を焼いているから気が付かなかった。
「ゾック、僕代わるよ。ゾックもご飯食べて。」
「いや、大丈夫だ。この子に食べさせたら自分も食べるから、その時に代わってくれ。」
「そう?わかった。」
僕は急いで残りの食事を口に運んだ。
僕が龍の王をあやしてる間に、今度はゾックが食事を食べる。
龍の王はあうあう言いながら僕の太ももに足をつっぱるように立って仕切りに屈伸し始めた。1人ではまだきちんと立っていられないから、両手を僕が持って掴まり立ちさせてやっている。屈伸の何がそんなに面白いんだ。鍛えてるのか。それなら偉いな。
「それ、面白いの?」
「うー、おもしりょの、おもしー!」
喋った。なんだ普通に喋るんだ。
「龍の王、こんにちはって言える?」
「こんちゃ!こーんちゃぁ!」
「僕の名前はマルクザーク・ヴァン・ワイスだよ。言ってみて。」
「まうじゃー?」
「マルクザーク・ヴァン・ワイス」
「ばんちゅ!」
「繋げて。マルクザーク……」
「ぷっははっ……」
ゾックが笑い出した。
「なんで笑うのさ。」
「いや、そのくらいの月齢じゃマルの名前は難しいんじゃないか。」
「詳しいんだね。面倒見るのも慣れてる感じだし。」
僕が返せばゾックの顔が少し曇った、気がした。
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