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しおりを挟むその厳しい声に差し出がましい事をしたと気づき少し反省する。
「すまなかった。しかし、もう少し周りは彼に目をかけてやれないか?彼はきっととても優秀な兵士になる。」
少年が不安そうな目で見てくるので、少し笑顔を作り安心させた。
すると頬を赤くして照れる彼に、優秀そうなのにあまり褒めてもらえてないのだろうと感じる。
「……隊のやつは必要なことを聞かれればちゃんと教える。自分から謙虚に乞いもしないうちに手助けしてやっても甘ったれになるだけだ。特にオレクは跳ねっ返りで素質はあるが生意気だから性根が治るまでほっといてるんだ。そういう奴は隊規を乱すから。」
なるほど、彼みたいな新参のことまでよく見てるんだな。ちゃんと意図があっての事だったのだ。
「それは……申し訳なかった。」
私は素直に謝った。
「あのっ、団長!俺悔い改めますから、どうかこの方を怒らないで下さい!今まで本当に申し訳ありませんでした!!」
オレクというらしい少年が私を庇ってくれる。
「オレク、私の事で上官に逆らっては……」
諌めている途中で肩をぐいっと引かれた。両腕が腰と背中にぐっと回されて、アルドリッヒに抱きしめられた事を理解する。
「あのな!こいつは俺のなの!惚れても無駄だからな!!」
は?
その場がシンとなる。見ろ。オレクも周りもポカンだ。
この男何言ってるんだ。
「すぐ戻る。」
アルドリッヒはそう言うと私の腕を掴んで屋敷の方に歩き出した。
数歩歩いて、思いついたようにオレクを振り返る。
「こいつでマスかくのも禁止だからな!」
やめろ。かくわけないだろ。
衝撃に二の句が告げないまま引っ張られて屋敷に入った。
近くの小部屋に押し込まれると、やっと言葉が出るくらいに頭が回ってくる。
「おっ、おい……んむっ」
文句を言おうとしたら、壁に押し付けられて唇を塞がれた。
アルドリッヒの唇でだ。
顎を掴まれながら押し潰すように口付けられて、また驚きで思考が止まる。
突き飛ばそうと体が動くのをかろうじて理性が止めた。
くっついていた感触が、しばらくしてゆっくり離れる。
「俺以外に触らないで。話しかけないで。笑わないで。名前呼ばないで。」
至近距離で吸い込まれそうな灰色の瞳に切なげな声で言われて心臓が跳ねる。
何なんだ、いったい。
「……すまなかった。気をつける。」
私は自分の立場を思い出し、反論と抵抗を諦めた。この男がそう言えば、私は従うしかないのだ。
まずいな。私はアルドリッヒを怒らせてしまったようだ。
ひょっとしたら今から「お仕置き」をされてしまうかもしれない。
小説では、ワローナ伯爵の気に入らない言動をするとジャックは「お仕置き」と称してより過激な猥褻行為を受け入れさせられていた。
ペニスと睾丸を縛られて射精出来なくされるとか、乳首をペンチで抓られるとかだ。
ジャックはアンアン善がっていたが、私は読んだだけでゾっとした。
私の顎を掴んでいたアルドリッヒの掌が首筋を撫でる。ゾワッとして肩がピクリと跳ねた。
それが何だか気恥ずかしくてぎゅっと目を閉じる。
「……あんたはもう部屋に戻ってくれ。」
アルドリッヒの体がすっと離れて扉に向かい、静かに部屋を去った。
一人壁にもたれたまま取り残される。
……そ、そうか。終わりか。
そうだよな。さっきすぐ戻るって言ってたからな。
アルドリッヒは忙しいんだ。ワローナ伯爵みたいに日がな一日淫行に耽る無能とは違う。
はぁ……と何かよく分からない溜息を吐いて、命じられた通りにアルドリッヒの寝室に戻った。
それからはまた部屋で過ごした。
戻ってしばらくして使用人がワゴンで大量の書物を届けてくれたが、何だか読む気にならなかった。
それどころか、アルドリッヒが直接貸してくれ無いのかとちょっとがっかりした。
何をするでもなく今日のアルドリッヒのことを何度も思い出して、キスもされたし今日こそはジャックのように弄ばれてしまうのかと考える。
そうすると信じられない事に下半身のあらぬところにあらぬ感覚を覚えそうになり、慌てて部屋を歩き回って鎮めた。
そうして夜、アルドリッヒは一向に部屋に帰って来ない。
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