【R18/シリーズ】転生したら賢者ポジだったけど魔王激推し

ナイトウ

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転生したら賢者ポジだったけど魔王激推しガチ恋同担拒否TOおまいつ【中編】(エロなし)

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ツンデレ魔王候補攻め、鈍感おバカガチ恋ヲタ転生者受け、エロ無し



翌日、僕は放課後ジークを図書室での自習に誘った。
エミリ先生にジークをモデルにしてもらうためだ。
勉強なんてする気ないと言いながらもほいほい着いて来てくれる。
末は魔王のくせに果てしなく善良。

僕らが図書室に入ると少しざわついた。
周りが連れ立って入って来たジークと僕を好奇の目で見てくる。
ヒソヒソ話もされているみたいだ。
集音してみると僕が不良になったとか、ジークに弱みを握られて脅されてるとかそんな感じ。
やっぱり2日連続で一緒に遅刻したのが良くなかったみたい。

司書の態とらしい咳払いで場が静まったのでエミリ先生を探しにかかる。
すぐに見つけた。

「エミリせ、さん。」
一人で座っている彼女に小さい声で話しかける。

「やあ、君も勉強?隣空いてる?」

普通に絵のモデルになって欲しいと言ってもジークは引き受けてくれなさそうなので、あくまでも偶然エミリ先生とジークを引き合わせることにした。エミリ先生の向かいの席に並んで座る。

先生は早速ノートを広げてスケッチをし始めた。
僕が渡したノートは特別な魔術をかけてあって、そこに絵を描いていてもエミリ先生と僕以外には勉強の書き取りをしているように見える。
やっぱりお茶会だけじゃ気がすまないから昼休みにちゃちゃっと作ってプレゼントしたのだ。
授業中落書きしてもバレないノートにエミリ先生もご満悦だった。

勉強しているフリをしながらチラリと先生の手元を見る。

はわぁ……尊い。

まだラフ画なのに、素晴らしい神々しさだ。
紡がれていく優美な線をうっとりして見つめてしまう。

はあ、やっぱりジークしか勝たん。

先生に賞賛の言葉を送りたい。このしんどさを語りたい。
でもここ図書室だし……。
歯がゆく思いながら淡々と線を引いていく先生をチラチラと見た。

チッと隣から舌打ちが聞こえる。
見ればリアルのジークがすごい不機嫌そう。
まあ、退屈だよね。
付き合わせて申し訳ないけど僕の欲望のためにあと少し耐えてジーク!
エミリ先生がスケッチを終わらせて席を立った後、僕もすぐにジークに声を掛けて寮に戻った。

「すまない。退屈だったろう。付き合ってくれてありがとう。」

相部屋の共同スペースに入って鍵を閉めたあと、ジークの背中からぎゅっと抱きついて謝る。

「別にいい。」

いつもより少し低い声。
あーもう拗ねちゃって可愛い!!

「ジーク……」

前に回した手をしゅるっと動かしてジークの体をまさぐる。
背後から自分の体を擦り付けて、分かりやすいお誘いをした。
制服の上から肩口に顔を押し付けて匂いを吸い込むだけで興奮してくる。

「悪ぃ。眠いから寝るわ。飯いらない。」

貼りつく僕から抜け出すようにジークは体を離すと自室に入っていった。
バタンと閉じた扉の前に僕は一人残された。

……

えっと、あ、今日はしないって事ね。

ご飯いらないって、お腹空けば食べるよね。
うん。まあ別に、毎日しなきゃいけないもんじゃないし、何なら今までがやりすぎだったまであるし。
食事だって一緒に摂らないことも付き合う前はあったし。

寂しいけど、気にすることじゃないよね。
うん。

しばらくリビングでご飯を用意してお腹を空かせたジークが出てくるのを待ったけど、その日結局彼は部屋から出てこなくて次の日も僕が起きるくらいには学校に行ってしまった。

珍しいな……何かわざとみたいな。

え、僕、避けられてないよね!?
大丈夫だよね。
何も避けられるような心当たりないし。

昨日のことも相まって何だかモヤモヤしながら学校に行く。
授業を受けていても上の空で、教師に質問を当てられたのにすぐに答えられなかった。
その日の放課後、担任に呼び出されて心配するふりをした遠回しの注意を受けた。

教師の言葉の端々にジークに感化されているんじゃないかという疑念が滲み出ている。
僕はそれを涼しい顔で否定した。

僕が彼といるとざわつく生徒たち、怪訝そうな教師。
いったいなんなんだ。
ジークの尊さを何も知らないくせに!

「委員長。こっちきて。」

憮然として職員室から出て廊下を歩いていると、廊下の隅でエミリ先生がちょいちょいと手招きしていた。
彼女がいるのはあまり人が使わない階段の踊り場だ。

「これ、出来たから納品。」

目の前まで行くと、先生が手にしていた大ぶりのフォルダから一枚の画用紙を取り出して渡してきた。
そこには、控えめに言って最高でしかない17歳のジークのイラストが描かれていた。

「ふひゃあぁぁぁ」

見たとたん、ため息なのか感嘆なのかわからない変な声出た。
感動で目頭が熱くなり視界が滲む。
イラストが見えなくなるので慌てて涙を拭って手元の宝物を見つめた。
美麗な線、繊細な色使い、完璧なデッサン。

公式や。これは間違いなく公式の17歳ジークやでぇ……。

最後に生身のジークを見てから21時間18分も経ってるから、その神々しさがさらに染みる。

「はひあぁぁ」

呼吸なのか喘ぎなのかわからない声を出しながら手で顔を覆った。

「だ、大丈夫?」

僕の様子に少し動揺した先生が尋ねてくる。

「大丈夫です。僕が絵のジークを見ている時に絵のジークも僕を見返していると思うと恥ずかしくて……」

手の隙間からまたイラストに目を落とす。
あー。たまらん。

「はあ。」
先生の呆れた視線を感じるが気にしない。

「素晴らしい、しゅ、しゅばらしい……」

口の中に唾液がたまって滑舌が死んだけど、気にせずそっと神物に頬を寄せる。

「君は本当にジークライトが好きなんだね。」

思わずコクコクと頷いた。

「……変なの。」

ポツリと小さく囁かれた先生の言葉が耳に入り固まる。
変って、何なの。

「僕が誰を好きでも、それを変か他人が決めるのはおかしい、でございます。」

僕の言葉にエミリ先生が少し目を見張る。
危ない。神に口答えなんて。
描いてくれなくなったらどうするんだ。

「ごめん。そういう意味じゃないんだ。気にしないで。」
エミリ先生が少し早口で言った。
「お詫びにもう一枚描こうか?」

「いっいいんでしゅかあぁぁぁ!」

賜った天啓に、感激して勢いのまま彼女手を取り詰め寄る。
神には惜しみなく賞賛の言葉を送るのが僕のスタイルだ。
そうすれば相手も喜んで更に良作を描いてくれて僕も嬉しい。

「エミリ先生は最高です。先生は本当に僕の美の女神で……」

「おい。」

背後からよく知った低い声がして振り返ると、本物のジークがいた。
昨日からすれ違い気味だから21時間22分ぶりの生ジークだ。
イラストとはまた別の尊み、って、イラスト!

僕はとっさに手にした紙を背中に庇いジークの視界から隠した。
こっそり自分の絵を愛でられてるとかジークは絶対気味悪がると思う。
エミリ先生も察したのか僕の隣に身を寄せて死角を増やしてくれる。

「ジークライト君、どうかしたかい?」
鋭く睨んでくる目に、体の隙間から紙が見えてしまわないように僕からもスッとエミリ先生に近づいた。

内心慌ててるけど、顔は安定の凪。
こういうとぼけたい時はちょっと助かるな。

そういえば、エミリ先生といる時は顔面が結構動いている気がする。
推し活って表情豊かになるもんね。

「……チッ」
ジークは何も言わずに舌打ちすると、早足で去ってしまった。

え、何、助かったけど声かけておいて、なに?

追いかけて理由を聞こうにもここは学校だ。
下手に揉めて騒ぎになったら、更に学校に警戒されて部屋を分けられかねない。
とにかく後で部屋で話そうと思って去っていく後ろ姿を見送った。

「何か、ごめん。」

エミリ先生が唐突に言った。

「や、大丈夫。絵のことはバレてないはず。隠すの協力してくれてありがとう。」
先生を安心させるためにっこりと笑う。
あれ、何かやっぱり笑えるぞ。
表情筋と脳の回路がちゃんと繋がってる感じ。

「……どう、いたしまして。」

なんだか複雑な顔を浮かべるエミリ先生。

その後別れて寮に戻ったらジークは部屋にいなかった。
帰ってくるまで居座るぞと思って勝手に部屋で待ってだけど、気付いたら寝てしまっていた。

翌朝自分の部屋で目が覚め、慌ててジークの部屋を透視してみればベッドに横たわる姿が見える。
生体反応あり。脈拍数、体温、呼吸異常なし。

よかった、無事みたいだ。
ジークは授業をサボりがちだけど、無断外泊なんて初めてだったから正直びっくりした。
今日帰らなかったら流石に学園に報告するところだったよ。

ホッとした気持ちで自分のベッドから降りる。
うっかり寝てしまった後に戻ったジークに移動させられたんだろう。
一度寝たら朝まで起きないこの体質が恨めしい。
軽く身支度を整えてジークの部屋の前に立った。

「ジーク?起きてるかい?」
ドアをノックしながら呼びかけても返事はない。
寝てるのかな?ちょっと脳波を測って……。

……。

迷ったけど結局やめた。

今朝部屋から追い出されていたのが答えだと思う。
どうやらジークは僕に会いたくないらしい。
その事実に打ちのめされながら、とぼとぼと寮を後にした。

週末だったので授業で気を紛らわすこともできず、街中の公園で石のベンチに腰かける。
ぼうっと道行く人を眺めながら考えてみた。

ジークの様子が変わった原因は何だろう。
最初におかしいと思ったのは図書室から帰った後だ。
図書室にいる間に気付いたらジークの機嫌が悪くなってた。
退屈だからじゃなくて、何か理由があったのかもしれない。
思い当たることは、やっぱり入った時の噂話だよな。
ジークも何言われてるか聞いてたのかも。
あの時はエミリ先生の方が気になってたけど、よく考えればあれだけヒソヒソ言われて反論のひとつもしないって、僕だいぶダサくない!?

そこに気付いて、サッと血の気が引く心地がした。
ゲームの中ではジークはすごくプライドが高いんだ。
今のジークが結構穏やか(ただし夜以外)だから忘れてたけど、人の性格ってそんなに変わらないしあれだけ言われて言い返さない僕に幻滅したのかもしれない。

それか、やっぱりジークが僕を好きになってくれたのはゲームの何かのバグで、もう直ってしまったのだろうか。

色々ぐるぐる考えて、結局はぁ、と大きなため息を吐いた。

ずっと好きなだけ追いかけられた二次元と違って、現実のジークには感情があって、僕がどんなに好きでも向こうに拒否されたら終わるんだって改めて思った。

体温や脈拍は魔法で分かってもどうしたら僕をずっと好きでいてくれるのかはまるで浮かばない。
ずっと生身の恋愛から逃げていたせいかな。
三次元ってなんて難しいんだろう。

僕はそれから何時間もぼんやりとベンチに座って過ごして、ふと時計塔を見れば午後3時に差し掛かっていた。

そういえば、エミリ先生へのお礼でお茶に行くのは今日じゃなかったか。

まだ気分は落ち込んでるけどすっぽかすわけにもいかない。
数時間ぶりに立ち上がり、指定された店に向かった。

「委員長。」

待ち合わせの店から数分くらいのところでエミリ先生が声をかけてきた。

「真面目だね。ちゃんと時間通りに来て。」
スタスタと隣にやってきて連れ立って歩き出す。

「約束ですから……。」

「その敬語と先生呼び、変だからみんなの前ではやめてね。」

「他の子は一緒に来てないんですか?」

「お昼まで一緒だったけど、買い物があるから私だけ別れた。店で合流。」
先生は画材店のスタンプが押された紙袋を持っていた。

「その材料から名作が……。」
描いてくれるという未来の作品に思いを馳せる。
ちょっと気分が楽になった。

「委員長凄い喜んでくれるから、今度はもっとちゃんと描こうと思って。」

その言葉に気分が高揚する。
当のジークに振られそうだというのに、僕って単純かも。

「委員長とリンドラント君て同じ部屋だよね。毎日本物見てるんじゃないの?」

「いや、そんな、ジロジロ見たら向こうも気持ち悪いだろうし……。」

ジークとの事を話すわけにもいかず口籠る。
僕には恋の悩みを相談できるような友達すらいないんだと改めて思った。

「そうかな。まあ、いいけど。楽しみにしてて。」
エミリ先生が珍しく少し微笑んだ。

「はい!」
僕も笑顔で返す。
ジークのことで落ち込んでいたのがジークの事で少し浮上するって、今更だけど結構重症だよね。


辿り着いた店はいかにも女子が好きそうな可愛らしい店だった。

「エーミリーこっちこっち。」
入ると既にクラスの女子がテーブルに座っていて、僕らの姿を見つけて手を振ってくる。
ノーラ、サマンサ、ミリアムの3人だ。

呼ばれたところに2人で向かう。

「こんにちは。」
いつもクラスでしてるように真顔で挨拶する。

「うっわ、マジで委員長連れてきたぜこの子。」

「きゃあ、イケメン眺めながらデイジー亭のケーキセットなんて、舌にも目にも贅沢だわぁ!」

「これは週明けマーガレットたちに自慢するしかないね。後で証拠写真撮ろう。」

あ、前世でよく見た女のノリだ。
エミリ先生の態度があんま女子っぽくないから油断してた。
見世物になる覚悟を決めて着席する。
これもジークのイラストのためだ。

「委員長、何か頼むか?」
ノーラが聞いてくる。

「私たちわぁ、もう決めたの!エミリも違うの頼んで一口ずつ分け合いしましょ。」
サマンサがメニューをエミリに渡す。

「選んだのはミントムースロールと、キャラメルミルフィーユと、苺タルトだよ。飲み物は季節のハーブティーね。」
ミリアムが近くにいた店員にオーダーの合図を送った。

僕もケーキには少し心惹かれたけど、彼女たちの手前頼み辛くてブレンドだけにする。
エミリ先生は、ざっとケーキのラインナップを見てオレンジオペラを選んだ。

「ほらな?エミリはオペラにしただろ?ミントムース、ミルフィーユ、苺タルト、オペラで。」

「分かり易いわよねぇ。ほら、バーナードカフェのパフェもそうだったわ。ドリンクは季節のお茶4つとブレンドね!」

「即決でガトーショコラパフェだったもんね。あ、全部ホットでお願いします。」

うーん。さっきからひっきりなしに喋ってるな。
そしてトークの合間にしっかり店員に注文してる。
さすが女子というか。
でもエミリ先生がチョコレートが好きだというのは良い情報だ。
絵のお礼に買ってもいいかな。
ちらりとエミリ先生の様子を見る。

「あーっ、委員長、エミリにチョコ買おうとしてるわね?」
サマンサに言われてドキリとする。

「やっぱりかー。自習のとき私ら追い出して2人きりになろうと必死だったしよー。」

「一緒に来たのは2人で会ってたから?いや、その画材買ってるなら違うか。」

少女たちの好奇心満載な瞳が刺さる。
僕的には誤解も誤解だ。
しかし何だろう。
この絶妙な鋭さは。
やっぱり女子って目ざといというか。

……ジークが何で僕を避けるようになったのかも、彼女たちなら分かるかもしれない。

「残念ながら私の好きな人はエミリじゃないんだ。」

僕の言葉に、少女たちが顔を見合わせる。
「みんなとても鋭いから、是非意見を聞かせてほしい。…えっと、私の知り合いから相談された話なんだけども」

僕は適当にフェイクを混ぜつつジークに避けられていることを話して、何が原因か聞いてみた。

「それ、本人に聞かなきゃわかんねーから。」
「それ、本人に聞かなきゃわかんないわよ。」
「それ、本人に聞かないとわかんないよね?」

ほぼ同時に同じことを言われる。
本人に聞く……でも、面と向かって拒絶されたら……。うう……。

「委員長」

それまで黙って聞いていたエミリ先生が口を開いた。

「……私も3人の意見に賛成だし、聞いて大丈夫だと思う。委員長が心配してるようなことにはならないよ。」

「そうだぜ委員長。」

「委員長ファイトよ~」

「勇気出してね委員長。」

「みんな……ありがとう。でもあの、これは知り合いの話で……」

「「「「はいはい」」」」

それからはケーキの話になり、お茶の話になり、雑貨屋の話だったり学校の話だったりめまぐるしい話題が飛び交うのに全部付き合わされた。
あと結局僕も気になっていたタルト・タタンを食べた。
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