【過去作まとめ】アホエロ短編集

ナイトウ

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政略結婚のはずなのに夫がめちゃくちゃ溺愛してくる

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溺愛王弟攻め、素直第2王子受け
政略結婚、攻めのフェラ、乳首責め、本番無し

〈世界観の雑な補足〉
何か適当な理由で同性の政略結婚がある。


目の前では、見たこともないような華やかな宴が催されている。
俺は中央のひな壇の上にいながら、どっか他人事のようにヴェール越しにそれを見ていた。

これが披露宴で、しかも自分の結婚だというのは分かってる。
けど初めて訪れた国で、大半は知らない顔ばかり。
故郷では悪趣味と言われそうなくらい派手に着飾った参加者が貼り付けたような笑みで代わる代わるやってくる。
耳に入る言葉も授業で覚えただけの外国語では仲間ハズレにされたような気になってもおかしくないと思う。

この息の詰まる感じに思わずうんと伸びをしたくなるけど、ぎゅうぎゅうのコルセットと金や銀の糸と宝石で飾られてずっしり重たいドレスのせいで小さいため息しか吐けない。
自分で作った花嫁衣装が着られていたらもう少し楽だったろうかと思う。

唯一着用を認められた自作グローブの感触を確かめるように拳を軽く握った。

故郷のノイデルラント公国は3つの大国に挟まれた小国だけど、建国から1000年どこにも吸収されず、何度大国間の戦争に巻き込まれて街が焼けても逞しく商売で生き残ってきた国だ。
だから、実利、実力を大事にする精神が生活の中に根付いている。

結婚式だって例外じゃなくて、花嫁は絶対に自分でドレスを作る。
それが妻としての実力を見せる最初の場だからだ。
高すぎず、安すぎない絶妙な材料選び、参列者が唸る縫製技術、流行をほどよく取り入れつつ自分の持ち味を生かすデザイン。
大事な日に自分を目一杯表現する服が、俺の故郷の花嫁衣装だ。

俺も男だけど他国に嫁ぐと小さい頃に決まってたから、気合いを入れて自分の衣装を作った。
まあ、ほぼ無駄になったけど。
着いたら既にあったドレスを着た俺は別人みたいだった。
それが良いのか悪いのかはちょっと分からない。

くそっ。俺の国ならこんな宴、みんなに下品な無駄遣いって馬鹿にされるぞ。

八つ当たりのように心で悪態をついてもう一回小さくため息をつく。

『リオ、疲れたかい?』

隣から落ちついた優しい声がして、握りしめた手に俺より少し大きい手がそっと触れた。

横を見ると、俺の結婚相手がこちらを見ている。
参列者と話し込んでいると思って油断していたが、いつの間にか俺の様子を見ていたらしい。
気付けばもう来賓の挨拶は一通り終わっていて、みんな食事をしたりダンスをしたりして過ごしていた。

俺の夫になるセレス殿下は何度見ても彫刻みたいに綺麗な顔をしてる。
性格も、今まで貰った手紙の印象では結構いい奴だ。
この類の婚約で律儀に親書を送ってくるのは異例だともみんなが言っていた。
年齢は18歳のはず。俺の2歳上。
顔だけなら王弟にしておくのがもったいないくらいだと思う。
役者になれば相当稼げそうだ。

こんなに美男子ならどの国の姫君も歓喜して嫁ぐんだろうに、俺が男なばかりに勿体ない気がした。
うちケチだから、他国が許さないからとか適当な理由つけてあんま持参金も出してないんだよね。
フルドール王国も適当な理由つけて他のもっと不細工な王族と結婚させればいいのに、商売下手だと思う。

使えるものは何でも使うノイデルラントでは、王族も当然独立の維持やより良いビジネスのために周辺国の王族や有力貴族と結婚する。
しかもどうしても婚姻したいけど性別が合わないって時は、戸籍の性別を変えてでも結婚させる。
ノイデル人が悪魔との契約も平気でするし必ず値切ると周辺国に揶揄される理由だ。

もちろんそんな無茶な話断られることもあるけど、ノイデルラント王家の人脈や他の思惑目当てに相手が引き受けることも結構ある。

フルドール大国は昔からよく後継問題で揉める国なのであまり王の弟に子供ができて欲しくない。
他国はフルドールとノイデルラントの血筋を引く子供が生まれて欲しくない。
ノイデルラントは王家と縁を作ってフルドールで自由にウハウハ商売がしたい。

結果、フルドールの若き王弟とノイデルラントの第2王子の政略結婚が6年前に決まったってわけ。
俺の出生記録はその時に女に変わってる。

『リオ?』

ほけっと見上げたまま黙ってる俺に、セレス殿下がなおも気遣わしげに声を掛けてくる。

『はい。大丈夫デス。』

何とかフルドール語で答えた。
6年勉強してこの程度なのは努力しなかったからじゃなくて純粋に俺の頭があまり良くないからなので許してほしい。

『そう?無理しなくて良いからね。』

殿下の手がするりと俺の手を撫でる。

『ハイ。……。』

なんかもっと気の利いたこと言えたらいいんだけど、俺の語力で軽快なジョークを飛ばすのは難しかった。

『この手袋は君が作ったと聞いたよ。よく出来てる。』

会話は終わるかと思いきや、殿下の方から話題をふってきた。
手袋がよくできてるって言ったのかな。
何の気ないお世辞なんだこうけど、その言葉にふと無性に悔しくなる。

『はい。でも、ドレスがもっと、もっとウマくできマシタ。』
外国語では上手く話せなくて母国語で続ける。
「でも、この場に合わないから着るなって言ったんだ。あんたらが。」

言ってから、殿下が綺麗なノイデル語で毎度手紙をよこしていたことを思い出す。
まずい、と少し血の気が引いた。

「そうか。それはよかった。」
にっこり笑う殿下からそう返された。

流暢な言葉より、その意味に驚く。

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だけど?」

そう返されて、俺の心が一気に冷え込むのを感じた。
変な服を着ていなくてよかったって、殿下も思ってるんだ。

その後はもう残りの時間を人形になったつもりで耐えて、部屋に帰って早々に重ったるい衣装を脱ぎ捨てた。

半ば強引に人払いして、今日はもう寝ようと無駄に豪華な部屋の無駄に大きいベッドにうつ伏せにダイブする。

フルドールの奴らは無駄が好きなんだろうか。
一人でこんなでかいベッド使ったって、マットのダニ駆除やシーツの交換が大変なだけじゃんか。
ポスポスと上質なスプリングの効いたマットを叩いた。

よかったと言った殿下の言葉が頭をぐるぐるする。
何でこんなにヘコんでるんだろう。
侍従長に言われた時は、ガッカリしたけどそんなもんかなって思えたのに。

向こうだって好きで俺と結婚したわけじゃないのは分かってる。
たかがドレスのことでグチグチ言われてもまともに取り合う義理なんてないはずだ。
まして相手は可愛い女の子なんかじゃなくてたまたま歳が近いからあてがわれた男の俺である。

分かってる。分かってるけど。
……

ボスっとまたマットを叩く。

でも俺は分かって欲しかった!

せっかく今日のために一生懸命作った衣装を無下に言われて悔しかったのを、殿下には分かって欲しかったんだ……。

はあ、と思いっきりため息を吐く。
モヤモヤは消えない。

「殿下のばかぁ!」

枕をボフンとマットに叩きつけた。

「私はバカなのかい?」
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