白い庭

第9話 冬の庭と約束

第9話　冬の庭と約束

冬の朝、庭は静まり返り、白薔薇も白百合も姿を消していた。枯れ枝が寒風に揺れ、土の匂いは湿り気を帯びてひんやりと冷たい。空気は澄み渡り、息をすると白い吐息がふわりと立ち上る。

「……こんなに静かな庭も、悪くないな」
蓮が手袋をはめた手で枝を整えながらつぶやく。冷たい風が頬に当たり、耳の奥がひんやりとする。

悠はその横で、土を柔らかく耕していた。
「咲いていないからこそ、来年の準備を考えられるな」
指先で土をかき混ぜると、湿った香りが鼻をくすぐる。蓮の隣で息を合わせるだけで、心にじんわり温かさが広がった。

「ねえ、蓮。春にはまた、白薔薇と白百合を咲かせようね」
美羽が遠くで笑い、梨花に手袋を貸す。寒さにかじかむ指先を温めながら、二人は互いに微笑み合う。

梨花も笑顔で返す。
「もちろん。花だけじゃなく、私たちも来年に向けて準備しないとね」
手に伝わる土の冷たさ、手袋越しの温もり、互いの存在が冬の庭に少しずつ光を与える。

蓮はふと、悠の方を見つめる。
「……俺さ、冬になると少し寂しくなるんだ。花も咲かないし、静かすぎて」
悠は肩越しに小さく笑う。
「俺もだ。だから、こうして一緒にいられるのが嬉しい」

風が二人の間を吹き抜け、吐息が空に溶けていく。寒さに凍えそうな体も、心の温もりで少しずつほぐれていく。蓮は手袋越しに悠の手に触れ、軽く握る。

「……来年も、一緒に庭を守ろうな」
蓮の声は小さく、けれど確かな決意が込められていた。悠はその手をそっと返し、目を細める。

「約束だ」

一方、美羽と梨花も庭の片隅で、冬用の肥料や剪定した枝の整理をしていた。手に伝わる冷たさと香り、土の感触が、二人の心を静かに落ち着ける。

「美羽、寒いけど、こうして一緒にいると安心するね」
梨花が微笑む。冬の空気に混じる呼吸の白さ、指先の冷たさ、互いに触れ合う温もり――すべてが、安心感の象徴だった。

美羽も小さく笑い返す。
「私も。庭が静かだからこそ、私たちの存在がより鮮明に感じられるのかもしれない」
二人の視線が重なり、言葉より深い理解が心に届く。

庭の白薔薇と白百合は姿を消しても、枝の影や土の温もり、花芽の潜む土の中には、確かな命の循環がある。四人はそれを感じ取りながら、互いを支え合うことを心に決める。

「来年の春も、この庭で笑おうな」
蓮の声が寒風にかき消されそうになりながらも、悠の胸に温かく響く。

「……ああ、笑おう」
悠は穏やかにうなずき、手をしっかり握り返す。

美羽と梨花も、静かな庭の中で互いの手を取り、同じ約束を交わす。寒さに耐えながら、春への希望を胸に刻む――白い庭は、四人の絆と未来の花を静かに見守っていた。

枯れ枝の間から冬の光が差し込み、白薔薇や白百合が咲く日のために、庭と四人の心を温めるように輝いていた。