ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
984 / 1,436
創作

枯れ葉

しおりを挟む
枯れ葉

古代ギリシャの風は、いつも新しい命と古きものを運んでいた。その風が吹く場所には、常に神々の物語が重なり、何千年もの歴史を刻んでいった。ある秋の日、アテナの神殿の近くに一枚の枯れ葉が舞い落ちた。誰もその葉を拾うことはなかったが、それはやがて一人の若者の運命を大きく変えることになる。

その若者の名はテオドロス。彼はアテナの神殿で司祭として仕えており、日々神々に捧げる祈りの言葉を忘れずに心に刻んでいた。だが、心の奥底で何かが欠けていることを感じていた。彼は人々のために尽力していたが、彼自身は何を求め、何を愛しているのか、よく分からなかった。

ある午後、テオドロスが神殿の前で祈りを捧げていると、目の前にひらりと枯れ葉が舞い降りた。風に漂ってきたその葉は、まだ鮮やかな緑色を残していたものの、すでに枯れていた。テオドロスはその葉に何か不思議な力を感じ、足元に落ちたそれを手に取った。

葉の表面には、長い時間を経て色あせた模様が刻まれていた。その模様はまるで神々の歴史を語るようなもので、テオドロスはその美しさに見入ってしまった。手に取った瞬間、彼の心は急激に揺れ動いた。何かが、彼の内側で目を覚ましたのだ。

その夜、テオドロスは神殿の裏手でひとり静かに考え込んだ。彼はこれまで、信仰の中に全てを捧げてきた。しかし、この枯れ葉に触れた瞬間、何かが変わった。あの葉が示すものは何だったのか。なぜ自分は心を打たれたのか。

その時、彼の前に突然、アフロディテが現れた。美の女神は、淡い光を纏いながら歩み寄り、優雅に微笑んだ。

「テオドロス、あなたはその葉に何を見たのですか?」アフロディテは問いかけた。

「私はその葉に…生命の終わりと、同時に新しい始まりを見ました。」テオドロスは答えた。「私の心には、今まで感じたことのない感情が芽生えました。」

アフロディテは微笑み、手をひらひらと振った。「それは、愛の力です。すべてのものには始まりと終わりがありますが、愛はそのどちらも超越するもの。枯れ葉の中にも、再生の可能性が宿っているのです。」

テオドロスはその言葉に胸を打たれた。愛、それは単なる肉体的な欲望や、表面的なものではなく、存在そのものに深く関わる力だとアフロディテは語った。枯れ葉は、命が終わり、また新しい命を育むためのサイクルを示していた。それは愛の象徴でもあり、神々が繰り返す永遠の命の流れを表していた。

「では、私が感じたのは…愛の始まりだったのか。」テオドロスは独り言のように呟いた。

アフロディテはうなずき、「愛には四つの形があると言われています。情熱の恋、趣味の恋、肉体の恋、そして虚栄の恋。それぞれが異なる形で人々の心を動かしますが、あなたが感じたのは、命の循環そのものに根ざした愛です。枯れ葉は終わりを迎えるが、そこにはまた新しい生命が育まれるのです。」

テオドロスは神殿の中でアフロディテの言葉を深く心に刻みながら、目を閉じた。枯れ葉のように、彼の心もまた終わりを迎え、新しい道を歩み始めるべき時が来たのだ。

その後、テオドロスは自らの信仰の形を見直し、神々のためにだけでなく、己の心のために生きることを決意した。彼はアテナの神殿に足を運ぶことはあっても、心の中では一人の人間として生きる道を選んだ。

春の訪れと共に、テオドロスは新しい恋を見つけた。恋の形は、最初は情熱的であり、次第にお互いの趣味を共有することで深まっていった。しかし、何よりも彼が学んだのは、恋愛もまた、枯れ葉のように時間をかけて成熟し、最後には新しい命を宿すということだった。

その後、テオドロスはしばしば、神殿の外で見つけた枯れ葉を手に取り、アフロディテの言葉を思い出しては微笑むのだった。枯れ葉は終わりを象徴するだけでなく、次に来る命のための準備でもあった。その葉が教えてくれたのは、命がどんな形であれ、決して無駄にはならないという真実だった。

そして、テオドロスは確信した。愛は常に再生し、続いていくものだと。枯れ葉が教えてくれるのは、何もかもが繰り返され、永遠に続くということだった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...