ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

疫病神ヌスゥの呪い

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疫病神ヌスゥの呪い

神々がまだ人間たちと近い場所にいた頃、人間たちは様々な恐怖に怯えて暮らしていた。嵐、雷、飢饉、病。それらは全て神々の気まぐれであり、人間たちはただひたすらに神々の怒りが鎮まるのを祈るしかなかった。

しかし、人間たちが最も恐れたのは、それら全てを凌駕する、疫病の怒り、すなわち「天然痘」であった。

天然痘は、他の災厄とは異質だった。嵐や雷は、まだ空を見上げれば予兆を察知できた。飢饉や病は、日々の暮らしの中で少しずつ忍び寄ってくるものだった。しかし、天然痘は違った。それは、ある日突然、体の表面に赤い斑点が現れ、高熱を発し、苦しみの中で命を落とす、まさに神の怒りそのものだった。

天然痘が起こると、人間たちはなすすべもなく、ただ隔離されるしかなかった。家は閉ざされ、家族や友人は近づくことすら許されない。苦しみの中で命を落とす者、生き残っても顔に残る深い痕。それは、神々の怒りの証であった。

人間たちは、天然痘を疫病神ヌスゥの呪いだと信じていた。ヌスゥは、かつて神々の一員として病をもたらすことを楽しむ者であった。しかし、ヌスゥにはある過去があった。彼はかつて、神々の集まりで、病をもたらす力を持つことで高く評価されていた。だが、ある時、他の神々がヌスゥの力を恐れ、彼に過剰な制裁を加えた。彼の力を封じ込めるため、神々は彼に呪いをかけ、彼の喜びを奪ったのだ。それからというもの、ヌスゥは人間に病を与え、その恐怖を見て喜ぶようになった。彼の怒りは、神々からの裏切りに対する報復であった。

ある時、一人の勇敢な医師、アスクレピオスが、ヌスゥの呪いを解くために旅に出た。アスクレピオスは、その知識と治療技術で名を馳せていたが、彼にはまだ知られていない深い苦悩があった。彼の師は、ヌスゥの呪いが解けない限り、人間が苦しみ続けることを恐れていた。そのため、アスクレピオスは冥界へと向かう決意を固めた。

冥界にたどり着く途中、アスクレピオスは数々の困難に直面した。彼はまず、神々から知識を授かれると思っていたが、神々は彼に何も与えなかった。知識を求め、彼は冥界の最も深い場所に足を踏み入れ、そこでヌスゥと対峙した。

ヌスゥはアスクレピオスを見て、冷たい笑みを浮かべた。「なぜ、人間たちは私を恐れるのだ?私は、ただ病を与えただけだ。」

アスクレピオスは深呼吸し、答えた。「ヌスゥ様、あなたは病を与えただけかもしれませんが、それが私たち人間にとってどれほど恐ろしいものかを、あなたは理解していません。私たちは命を守ることができても、容姿も尊厳も奪われてしまう恐怖の中で生きることがどれほど辛いか、あなたには分からない。」

ヌスゥはその言葉に一瞬、動揺を見せた。彼の中に渦巻く怒りと復讐心が少しずつ崩れ始めた。ヌスゥは過去の神々からの裏切りを思い出し、アスクレピオスに言った。「人間よ、私の怒りを理解したか。だが、今やその怒りは、無意味に続けるべきではないことを、私は知った。」

ヌスゥは少しの間沈黙し、最終的にこう告げた。「お前たちをこれ以上苦しめることはしない。だが、完全には消えることはないだろう。私の力はそれほど簡単に収まるものではない。」

その後、ヌスゥは天然痘を起こす頻度を減らしたが、時折その呪いは再び爆発し、人間たちに恐怖を与え続けた。人間たちは、それでも希望を捨てず、ヌスゥの呪いを解くために知識を蓄え、予防法を研究し、治療法を開発した。

そして、数世代後、人間たちはついに天然痘を克服することができた。1980年、世界保健機関(WHO)は天然痘の根絶を宣言した。それは、アスクレピオスの勝利と、人間の力が神々を超えた瞬間であった。

その勝利は、神々と人間の関係を変えた。人間たちは、神々の力に頼ることなく、自然の力と共に生きる道を見出した。しかし、同時に、彼らは決して油断せず、新たな疫病に立ち向かうことを誓った。

ヌスゥの呪いは完全に消えることはなかったが、人間たちはその力を超えて生きる術を学び、自然と共存する道を歩み始めた。そしてその後、ヌスゥの名前は、神々の怒りの象徴であり、同時に人間たちの試練の証として語り継がれた。









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