1,262 / 1,436
創作
ラシラの竪琴
しおりを挟む
ラシラの竪琴
山の神ゼラスが治めるオリオンの山々は、その壮麗な美しさと神秘で知られていた。青々と茂る木々と澄み渡る空気は、神々の音楽が響き渡る場所としても有名だった。だが、最近はどこか寂しげだった。ゼラスの唯一の娘、ラシラが姿を消してからだ。
ラシラは、神々の中でも特に音楽に愛された存在だった。父ゼラスから贈られた黄金の竪琴を手に、彼女は山々を歩きながら、生命の息吹を音に変えて歌うのが日課だった。その音色は鳥たちを踊らせ、木々を揺らし、川のせせらぎをさらに美しく響かせた。
だが、ある日ラシラはふいに姿を消した。ゼラスは彼女を探し回ったが、どこにも見当たらない。森の精霊たちも、風の神も、その行方を知らなかった。
「ラシラよ、なぜ姿を消したのだ?」
その問いは山々にこだましたが、返事はなかった。
ある日、ゼラスはオリオンの最高峰に立ち、霧深い谷に耳を澄ませた。すると、微かに竪琴の音が聞こえてきた。それは彼が贈った竪琴の音色に間違いなかったが、どこか悲しげで切ない響きを持っていた。
音を追って谷底に降り立つと、そこには一人の青年が立っていた。彼の腕にはラシラの黄金の竪琴が抱えられている。
「お前は誰だ?」
ゼラスの声に青年は驚きながらも、その手を緩めなかった。
「私はメラオス、ただの人間です」
「その竪琴は、なぜお前が持っている?」
メラオスは小さく息をつくと、静かに語り始めた。
「ある日、この谷で迷い、途方に暮れていた時、彼女に出会いました。美しい音色と共に現れた彼女は、私に道を示し、命を救ってくれたのです。彼女は私に、竪琴の音色で心を癒すことを教えてくれました」
ゼラスの眉が険しくなる。
「だが、なぜラシラはここにいない?」
メラオスは竪琴を静かに弾き始めた。その音色は、まるでラシラそのものが奏でるかのように澄んでいた。
「彼女はこの竪琴の中に眠っています」
「何だと?」
メラオスは竪琴を見つめながら続けた。
「ラシラは、私たち人間の苦しみや悲しみを知り、それを共に分かち合うために、その身を竪琴に変えたのです。この竪琴が奏でる音は、彼女の魂そのものです」
ゼラスはその言葉に動揺し、しばらく言葉を失った。娘が人間のためにその身を捧げたという事実は、父としての誇りと悲しみを同時に突きつけた。
「では、その竪琴を私に返せ」
だが、メラオスは竪琴を抱きしめ、首を振った。
「彼女は私に言いました。この音色は人間の苦しみを癒し、希望をもたらすものであると。私はその使命を果たさなければなりません」
ゼラスはメラオスを睨みつけたが、その目には揺るぎない決意があった。ラシラの魂が彼を選んだことを、父であるゼラスもまた理解せざるを得なかった。
「よかろう。その竪琴を持ち続けるがいい。ただし、彼女の魂を粗末にすることは許さぬ」
メラオスは深く頭を下げ、竪琴を抱えたまま山を下りていった。その背中は小さくなっていったが、竪琴の音色はいつまでも山々に響き渡っていた。
それからというもの、オリオンの山々では、メラオスが奏でる竪琴の音が絶えることはなかった。それはラシラの魂が今も人々の心に寄り添い、希望を与え続けている証だった。
山の神ゼラスが治めるオリオンの山々は、その壮麗な美しさと神秘で知られていた。青々と茂る木々と澄み渡る空気は、神々の音楽が響き渡る場所としても有名だった。だが、最近はどこか寂しげだった。ゼラスの唯一の娘、ラシラが姿を消してからだ。
ラシラは、神々の中でも特に音楽に愛された存在だった。父ゼラスから贈られた黄金の竪琴を手に、彼女は山々を歩きながら、生命の息吹を音に変えて歌うのが日課だった。その音色は鳥たちを踊らせ、木々を揺らし、川のせせらぎをさらに美しく響かせた。
だが、ある日ラシラはふいに姿を消した。ゼラスは彼女を探し回ったが、どこにも見当たらない。森の精霊たちも、風の神も、その行方を知らなかった。
「ラシラよ、なぜ姿を消したのだ?」
その問いは山々にこだましたが、返事はなかった。
ある日、ゼラスはオリオンの最高峰に立ち、霧深い谷に耳を澄ませた。すると、微かに竪琴の音が聞こえてきた。それは彼が贈った竪琴の音色に間違いなかったが、どこか悲しげで切ない響きを持っていた。
音を追って谷底に降り立つと、そこには一人の青年が立っていた。彼の腕にはラシラの黄金の竪琴が抱えられている。
「お前は誰だ?」
ゼラスの声に青年は驚きながらも、その手を緩めなかった。
「私はメラオス、ただの人間です」
「その竪琴は、なぜお前が持っている?」
メラオスは小さく息をつくと、静かに語り始めた。
「ある日、この谷で迷い、途方に暮れていた時、彼女に出会いました。美しい音色と共に現れた彼女は、私に道を示し、命を救ってくれたのです。彼女は私に、竪琴の音色で心を癒すことを教えてくれました」
ゼラスの眉が険しくなる。
「だが、なぜラシラはここにいない?」
メラオスは竪琴を静かに弾き始めた。その音色は、まるでラシラそのものが奏でるかのように澄んでいた。
「彼女はこの竪琴の中に眠っています」
「何だと?」
メラオスは竪琴を見つめながら続けた。
「ラシラは、私たち人間の苦しみや悲しみを知り、それを共に分かち合うために、その身を竪琴に変えたのです。この竪琴が奏でる音は、彼女の魂そのものです」
ゼラスはその言葉に動揺し、しばらく言葉を失った。娘が人間のためにその身を捧げたという事実は、父としての誇りと悲しみを同時に突きつけた。
「では、その竪琴を私に返せ」
だが、メラオスは竪琴を抱きしめ、首を振った。
「彼女は私に言いました。この音色は人間の苦しみを癒し、希望をもたらすものであると。私はその使命を果たさなければなりません」
ゼラスはメラオスを睨みつけたが、その目には揺るぎない決意があった。ラシラの魂が彼を選んだことを、父であるゼラスもまた理解せざるを得なかった。
「よかろう。その竪琴を持ち続けるがいい。ただし、彼女の魂を粗末にすることは許さぬ」
メラオスは深く頭を下げ、竪琴を抱えたまま山を下りていった。その背中は小さくなっていったが、竪琴の音色はいつまでも山々に響き渡っていた。
それからというもの、オリオンの山々では、メラオスが奏でる竪琴の音が絶えることはなかった。それはラシラの魂が今も人々の心に寄り添い、希望を与え続けている証だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる