ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
1,273 / 1,436
創作

月光の王とガンジスの乙女

しおりを挟む
月光の王とガンジスの乙女

はるか昔、インダス川のほとりに広がる豊かな大地には、文明の花が咲き誇っていた。人々は粘土でつくった家に住み、広大な農地を耕し、交易を盛んに行っていた。彼らの信仰は自然を敬い、星々に祈りを捧げるものだった。

この地を見守る神々の中で、月の神チャンドラはひときわ美しい存在だった。彼の銀白の馬に引かれた戦車は夜空を駆け、その輝きはガンジスの流れを優しく照らしていた。チャンドラは静かな夜風とともにこの地を訪れるたび、ガンジスのほとりに佇む一人の美しい乙女に心を奪われていた。

その乙女の名はサラスヴァティ。彼女は川と智慧の女神であり、その澄んだ瞳と流れるような黒髪は、水面に映る月の光のように美しかった。サラスヴァティは毎晩、川のせせらぎに耳を傾けながら、古の神々に祈りを捧げ、文明が繁栄し続けるよう願っていた。

* * *

ある満月の夜、チャンドラはついにサラスヴァティに近づく決心をした。彼の光がガンジスの水面に反射し、彼女の姿を銀色に染め上げる。

「美しきサラスヴァティよ、私は夜空を駆ける月の神、チャンドラだ。ずっとあなたの祈りを見守っていた。あなたの心はガンジスの水のように澄み、美しい。その慈悲深き魂に触れたいと願ってここに来た」

その声にサラスヴァティは一瞬驚いたが、すぐに微笑み、静かに答えた。

「チャンドラよ、あなたの光はこの地を優しく照らし、夜の静寂を守っている。あなたの訪れに感謝します。しかし、私はこの大地と人々を守る女神。あなたの誘いに応じることはできません」

その言葉にチャンドラは胸を締め付けられるような痛みを覚えた。彼は夜空を巡る孤独な神であり、誰かと心を通わせることの難しさを知っていた。しかし、彼の愛は強く、諦めることができなかった。

「ならば、私はあなたのために、この夜空の輝きをさらに増し、この大地に豊かな実りをもたらそう。どうか、私の愛を拒まないでほしい」

サラスヴァティはその誠実な言葉に心を動かされたが、まだ一つだけ気がかりがあった。

「チャンドラよ、愛は尊いもの。しかし、その愛が一方に偏ると、やがて災いを招くこともある。あなたはそれを理解しているでしょうか?」

チャンドラはその問いに静かに頷いた。

「私の愛は、夜空を照らす月光のように、静かで温かいものだ。決してあなたを傷つけることはしない。むしろ、あなたが望む限り、私の光は永遠にあなたを照らし続けよう」

その誓いに、サラスヴァティはついに心を開いた。彼女はガンジスの水を静かに揺らし、その波紋が月光に溶けていくのを見つめた。

「よろしい、チャンドラ。私たちの愛がこの地にさらなる豊かさと智慧をもたらすのなら、私はあなたを受け入れましょう。ただし、その愛が偏り、世界に不均衡をもたらすことがないよう、常に心に留めてください」

その瞬間、月はさらに明るく輝き、ガンジスの流れはまるで祝福するかのように激しく波打った。そして、その夜から、インダス文明はさらなる繁栄を遂げたという。

* * *

夜が明け、再び月が沈む時、チャンドラは静かにガンジスのほとりを後にした。しかし、その心にはサラスヴァティの微笑みが永遠に刻まれていた。彼の愛はこれからも夜空を照らし続け、この地に永遠の光をもたらすだろう。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...