ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

大ウソツキと人間の限界

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大ウソツキと人間の限界

ゼウスは神々の玉座に座り、オリュンポスの頂から人間の営みを見下ろしていた。彼の眉はわずかにひそめられ、その黄金の瞳には憂いが漂っていた。

「人間たちは善と悪の区別がつくはずだ。かつて彼らにその知識を与えたのだ。だが、なぜこうも愚かで欲深いのか?」

その問いに答えたのは、ゼウスの隣に座るアテナだった。智慧と戦略の女神である彼女は、鋭い目をもって人間の心の深淵を見抜いていた。

「父よ、彼らは確かに知識を得た。しかし、それは表面だけのもの。真の善悪を理解するには、理性だけでなく、深い共感と謙虚さが必要なのです」

ゼウスはその言葉に考え込んだ。

「だが、アテナ、人間にはその心が備わっているはずだ。彼らは愛し、憎み、悲しみ、喜ぶ。神々に似せて創られたのだぞ」

そのとき、黒翼のヘルメスが滑るように玉座に近づいた。彼は情報と欺きの神でもあり、神々の間を自在に飛び回る存在だ。

「おお、偉大なるゼウス、今しがた私は地上で驚くべき光景を見ました。ある老人が一生懸命に貯めた金を、若者に騙し取られる様子です。善悪の区別があるはずの人間たちが、まるで獣のように他者の弱みにつけ込むのです」

ゼウスはその言葉に驚き、彼の目はさらに鋭くなった。

「なに?彼らは善悪を知っているはずだ。なぜ、そのような愚行に走る?」

「それは、人間の心にある欲と恐れです。善悪の知識を持つといえど、その心は容易に迷い、惑うのです」

アテナはその言葉にうなずき、ゼウスに向き直った。

「父よ、知識だけでは人間は善悪を完全に理解できません。彼らは時に自らの利益のために他者を犠牲にし、その行為を正当化するのです。真の知恵とは、知識だけでなく、他者への思いやり、そして自らの弱さを受け入れる心です」

ゼウスはその言葉に深くうなずいた。

「なるほど、人間は神にはなれぬということか」

その瞬間、大地がわずかに震え、空には一筋の稲妻が走った。ゼウスは玉座に深く腰を落とし、その目を閉じた。

「ならば、私はこれからも彼らの迷いや愚かさに目をつぶるしかないのか…」

アテナは静かにその言葉を受け入れ、ゼウスの隣に立ち続けた。

ヘルメスはその光景を見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。彼は、人間の愚かさもまた神々の創り出した一つの真実であることを知っていた。

「神々は人間に知識を与えたが、それが完全なものだとは誰も言っていない。むしろ、その不完全さこそが彼らの本質なのかもしれない」

そう言い残し、ヘルメスは再び黒い翼を広げ、地上へと飛び去っていった。

「やはり、人間は神にはなれぬか…」

ゼウスの嘆きは、オリュンポスの峰に響き渡り、その声は風に乗り、やがて消えていった。

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