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第8話
しおりを挟むピピピ……と、遠くでスマホのアラームが鳴っている。こんなに熟睡したのは久しぶりだな。
「んーー……??」
体をベッドから起こす。すると、なぜか右腕に重みを感じた。なんだろう、むにゅって柔らかくて……おい、まさか?
掛け布団をめくってみると……やはりそこには結奈が心地よさそうに眠っていた。
「おいおい……マジかよ」
今まで、彼女どころか仲の良い女友達さえほとんどいなかった僕はこの手のことは耐性がない。……寝顔可愛いな。思えば、この寝顔や年相応の態度のことを知ってるのは学校では俺だけなんだなぁ。学校のみんなが知ってるのは、《冷姫》としての結奈であって……本当の結奈ではない訳だ。……少し、いやかなり優越感を感じるな。僕は幸せ者だと改めて感じる。
「ん……もう朝……?」
と、僕がどうでもいいことを考えている間に結奈が目を覚ましたようだ。
「うん、もう朝だよ。おはよう」
僕がそう返事を返すと、まだ半分寝た状態だった結奈が……とんでもない行動にでた。
「ん……おはよ~」
そういって、体を起きあがらせた結奈はその可憐な顔を僕に近付けて……。
「…………っ?!?!」
唇に柔らかな感触が伝わる。これって……もしかしてキスか!?
「んっ……じゃあ、わたしは着替えてくるね~」
「あっ……おい!?」
そのまま、結奈は俺の部屋から出て行ってしまった。今のって、意識してやったのか……?それとも、無意識に?柔らかかったなぁ……いや、そうじゃないだろ。
「衝撃的すぎて頭が上手く回らないな……」
取りあえず、時間的に遅刻しそうだから取りあえず着替えるか。
「おや、おはようございます。啓介様」
着替えた僕は、取りあえず食堂に向かった。そこで僕を迎えてくれたのは、昨日の執事さんだった。
「おはようございます、執事さん」
そういえば、名前を聞いてないな……。なんて呼べばいいかわからなかったので、取りあえず執事さんとよばせてもらった。
「私の事は黒沢、とお呼びください。お嬢様は、もう学校に向かわれてしまいましたが……啓介様は如何なさいますか?」
「えっ?もう行っちゃたんですか?」
いくらなんでも早すぎないか?もしかして、照れ隠しだったり?……まさかな。そういえば……。
「そういえば、結奈の護衛ってどうなってるんですか?」
そう、彼女は家の大きさなどからしてかなりいいとこのお嬢様だと思われる。それならば、普通は黒服の護衛が居る筈だ。
「もんだいないですよ。お嬢様には普段から頼もしい護衛がついていますので」
「護衛が……?」
護衛?それは初耳だ。てか、普段からって……見たことないんだが。
「それは知らなかったですね。気づきませんでしたよ」
すると、黒沢さんは意味深な笑みを浮かべながらこう言った。
「啓介様がお気付きになっていないだけで、意外と身近にいるかもしれませんよ……?」
なんだ、その意味深な言い方は。てか、そろそろ学校に向かわなきゃだな。
「じゃあ、そろそろ行きますね」
「行ってらしゃいませ、啓介様」
「……行ってきます」
なんだろう、長年誰かに見送られるって事が無かったからか……黒沢さんの言葉がジーンと来た。あ、そういえば朝ごはん食べてないや。まぁ、いいか。
学校に着いたのは、遅刻ギリギリの時間だった。クラスに入ると、さっそく勇が話しかけてきた。
「よう、今日は随分と遅いんだな」
「まぁな……。昨日はどうしたんだ?早く帰るなんて珍しいね」
すると、勇は少し間を開けてから笑顔を崩さないでこういった。
「んーー……まぁ、ちょっとようじがあってな。取りあえず、俺に感謝の印としてジュース一本な」
「はぁ?なんでそうなるし」
まぁ、結局奢らさせられたんだけどな。
「よし、飯行こうぜ?お前、今日は弁当ないだろ?」
勇は、授業が終わると同時にそう言い残して売店に走って行った。
「いや、確かにないけど……僕のことを待てよ」
取りあえず、勇を追う。そういえば、今日は結奈が来ないな。まぁ、そんな日もあるか。
「お、そういえばお前やっと《冷姫》と付き合ったんだってな」
おにぎりを頬張りながら、勇がそんなことを言ってきた。
「まぁ、いろいろあってね……」
「まぁ、俺らにしてみれば今更ってかんじだけどな!」
そう言いながら、勇は大笑いした。……なんだよ今更って、まぁ、心当たりはあるんだけども。
「俺は良かったと思うけどな。啓介みたいな奴が彼氏になって」
「ハハッ……なんで、勇がそんなこと言えるんだよ」
僕も笑いながらそう答える。
「確かにな!」
二人で笑いあいながらご飯を食べる。これが、勇と僕の普段通り。結奈と付き合う前と、なんら変わらない日常の風景だった。
ただ……今日の勇の態度はどこか普段とは違っていると、不思議と思えた。ただ、いくら考えても何が違うかまでは分からなかったので、結局その疑問は少しづつ薄れていった。
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