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閑話〜裏の小川をさらってみた〜
婚約した二日後になぜか第三王子直属の騎士団を引き連れてトナが屋敷にやってきた。
間近で王族直属の騎士団を見るのは初めてだが、なんか格好がおかしい。
ビシッとお揃いの騎士服を着ているはずなのに今日はみんな思い思いの格好をしているのだ。
それも私服というよりも汚れても良い格好…、作業着のような姿なのだ。
「あらトナ、どうしたの?今日は二人でデートに行く約束をしていたはずでは…?もしかして公務の予定が入ってしまったの…」
今日はトナと私は二人で出掛ける約束をしていた。
いわゆる初デートというやつだ。でもこの人数は護衛にしては多すぎる気がする。
そうなると考えられることは、公務が入ってしまい、それに向かう途中で我が屋敷に寄り直接断りに来てくれたということだろう。
「はっはっは、そんなことはしない。俺にとっての優先事項はエミリアだけだ、あとはどうでもいい。
ああ、こいつ等は気にするな。みんな都会育ちで自然を知らないみたいでな。ぜひ最近流行っている『池の水を全部抜いてみた』の真似事を小川でもいいからしたいと言ってたので連れてきたんだ。
ほら、この屋敷の裏手に小川があっただろう。そこを使わせてくれないか?」
そんなことならお安い御用だ。存分に遊んでいって欲しいと快諾をして私はデートに向かう為の支度をする為にちょっとだけ席を外す。
その間にトナは素早く侍従のヤンに指示を出す。
『いいな、例の物を見つけろ。絶対にエミリアを兄殺しにするな』
『……どなたも気づいてないようですから放置でも良いのでは?』
『ふざけんなっ。もし死んだ後に気づいちまったらエミリアが傷つくだろうがっ。そんなこと絶対に許さん。
分かっているな、死ぬ気で探せ。このままだったら早晩エミリアの兄はたぶん死ぬ…』
『…たぶんではなく確実に死ぬでしょうね』
ヤンは無茶な命令を受け騎士団を引き連れその場から出て行った。
私が戻ってきたときには、侍従のヤンさんと騎士団の人達はもう小川に遊びに行ってしまったあとだった。
トナと曰く『あいつら自然に飢えてんだよ』ということらしい。
『トナも遊びたい?』と聞いたら『俺は嫌だ』と真顔で否定してくる。
どうやら同じ都会育ちでも王族は自然嫌いのようだ。
彼らが自然を堪能している間、私とトナは街デートを思う存分楽しんだ。指を絡ませる恋人繋ぎをしたり、美味しいものを食べ歩きしながら『あ~ん♪』という恋人限定のイチャイチャをしたり、それはもう夢のような時間を過ごした。
でも楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
気づけばもう帰る時間になっていた。
私達は最後にお揃いのブレスレットを買ってから屋敷へと戻っていった。
屋敷の庭には私達に負けないくらい充実した時間を過ごしたと分かる騎士団の人達が待っていた。
みんな泥まみれでぐったりとしている、よほど楽しくて夢中になって遊んでいたのだろう。
いかつい騎士団の人達がなんだか子供みたいで可愛く見える。
「良かったですわ。『小川さらい』は想像以上に楽しめたようですね」
「……ええ、そうですね。なんとか目的は達成できました」
私が声を掛けると侍従のヤンさんが答えてくれた。
自然を堪能という目的が達成できて本当に良かった。場を提供しただけだが、喜んで貰えると嬉しくなる。
『いつでもまた自然を堪能しに来てくださいね』と言う私に、疲れ切っている彼らからの返事はない。
でもそれは童心にかえってくたくたになるまで遊べた証拠だから全然気にならなかった。
トナが彼らと一緒に帰った後、サロンで寛ぎながら一人で本を読んでいると兄が鼻歌を歌いながら真っすぐに歩いて近づいてきた。
最近は『ふわふわ…する…』と本当にふらふらしていたのに今は大丈夫なようだ。
「エミリア、見ろ!ちょっと前に嘘のように体調が戻ったんだ。もうふわふわとはおさらばだー」
元気な様子で嬉しそうに報告してくる兄。
「あら、良かったですね。きっと食べ過ぎで体調を崩していたのが長引いていたんですね。もうこれからは気をつけてください、お兄様」
「ああ分かったよ。これからはちゃんと気をつけるさ。エミリア、心配かけて悪かったな」
「いいんですよ、お兄様」
私は微笑みながらそう言った。
兄が元気になってくれたのが素直に嬉しかった。
今日は良いことがたくさんあった。トナと初デートは出来たし、騎士団の人達にも喜んで貰えたし、兄もいきなり元気になった。
なんだか今日は何をやっても上手くいく気がする。
というかこんな日にこそ挑戦しておきたいことがある。
まさに今日は私にとって吉日よね。
よし、やってみよう。
失敗したって害はないんだから大丈夫!
私は読んでいた本をテーブルに置き、その場に兄を残していそいそと部屋を出ていく。
その場に残ったオスカーはテーブルのうえに残された本を手に取り題名を読む。
「えっと…、『簡単オリジナル藁人形に挑戦しよう』って変わった題名だな。ああそうか、エミリアはまだ人形遊びをしているのか。はっはっは、可愛いやつだな」
兄は異国に伝わる恐ろしい文化を知らなかった。まさかその可愛い妹によって生命の危機に追い込まれていたとは知らずに楽しそうに笑っていた。
…人間は知らないほうが幸せなこともある。
間近で王族直属の騎士団を見るのは初めてだが、なんか格好がおかしい。
ビシッとお揃いの騎士服を着ているはずなのに今日はみんな思い思いの格好をしているのだ。
それも私服というよりも汚れても良い格好…、作業着のような姿なのだ。
「あらトナ、どうしたの?今日は二人でデートに行く約束をしていたはずでは…?もしかして公務の予定が入ってしまったの…」
今日はトナと私は二人で出掛ける約束をしていた。
いわゆる初デートというやつだ。でもこの人数は護衛にしては多すぎる気がする。
そうなると考えられることは、公務が入ってしまい、それに向かう途中で我が屋敷に寄り直接断りに来てくれたということだろう。
「はっはっは、そんなことはしない。俺にとっての優先事項はエミリアだけだ、あとはどうでもいい。
ああ、こいつ等は気にするな。みんな都会育ちで自然を知らないみたいでな。ぜひ最近流行っている『池の水を全部抜いてみた』の真似事を小川でもいいからしたいと言ってたので連れてきたんだ。
ほら、この屋敷の裏手に小川があっただろう。そこを使わせてくれないか?」
そんなことならお安い御用だ。存分に遊んでいって欲しいと快諾をして私はデートに向かう為の支度をする為にちょっとだけ席を外す。
その間にトナは素早く侍従のヤンに指示を出す。
『いいな、例の物を見つけろ。絶対にエミリアを兄殺しにするな』
『……どなたも気づいてないようですから放置でも良いのでは?』
『ふざけんなっ。もし死んだ後に気づいちまったらエミリアが傷つくだろうがっ。そんなこと絶対に許さん。
分かっているな、死ぬ気で探せ。このままだったら早晩エミリアの兄はたぶん死ぬ…』
『…たぶんではなく確実に死ぬでしょうね』
ヤンは無茶な命令を受け騎士団を引き連れその場から出て行った。
私が戻ってきたときには、侍従のヤンさんと騎士団の人達はもう小川に遊びに行ってしまったあとだった。
トナと曰く『あいつら自然に飢えてんだよ』ということらしい。
『トナも遊びたい?』と聞いたら『俺は嫌だ』と真顔で否定してくる。
どうやら同じ都会育ちでも王族は自然嫌いのようだ。
彼らが自然を堪能している間、私とトナは街デートを思う存分楽しんだ。指を絡ませる恋人繋ぎをしたり、美味しいものを食べ歩きしながら『あ~ん♪』という恋人限定のイチャイチャをしたり、それはもう夢のような時間を過ごした。
でも楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
気づけばもう帰る時間になっていた。
私達は最後にお揃いのブレスレットを買ってから屋敷へと戻っていった。
屋敷の庭には私達に負けないくらい充実した時間を過ごしたと分かる騎士団の人達が待っていた。
みんな泥まみれでぐったりとしている、よほど楽しくて夢中になって遊んでいたのだろう。
いかつい騎士団の人達がなんだか子供みたいで可愛く見える。
「良かったですわ。『小川さらい』は想像以上に楽しめたようですね」
「……ええ、そうですね。なんとか目的は達成できました」
私が声を掛けると侍従のヤンさんが答えてくれた。
自然を堪能という目的が達成できて本当に良かった。場を提供しただけだが、喜んで貰えると嬉しくなる。
『いつでもまた自然を堪能しに来てくださいね』と言う私に、疲れ切っている彼らからの返事はない。
でもそれは童心にかえってくたくたになるまで遊べた証拠だから全然気にならなかった。
トナが彼らと一緒に帰った後、サロンで寛ぎながら一人で本を読んでいると兄が鼻歌を歌いながら真っすぐに歩いて近づいてきた。
最近は『ふわふわ…する…』と本当にふらふらしていたのに今は大丈夫なようだ。
「エミリア、見ろ!ちょっと前に嘘のように体調が戻ったんだ。もうふわふわとはおさらばだー」
元気な様子で嬉しそうに報告してくる兄。
「あら、良かったですね。きっと食べ過ぎで体調を崩していたのが長引いていたんですね。もうこれからは気をつけてください、お兄様」
「ああ分かったよ。これからはちゃんと気をつけるさ。エミリア、心配かけて悪かったな」
「いいんですよ、お兄様」
私は微笑みながらそう言った。
兄が元気になってくれたのが素直に嬉しかった。
今日は良いことがたくさんあった。トナと初デートは出来たし、騎士団の人達にも喜んで貰えたし、兄もいきなり元気になった。
なんだか今日は何をやっても上手くいく気がする。
というかこんな日にこそ挑戦しておきたいことがある。
まさに今日は私にとって吉日よね。
よし、やってみよう。
失敗したって害はないんだから大丈夫!
私は読んでいた本をテーブルに置き、その場に兄を残していそいそと部屋を出ていく。
その場に残ったオスカーはテーブルのうえに残された本を手に取り題名を読む。
「えっと…、『簡単オリジナル藁人形に挑戦しよう』って変わった題名だな。ああそうか、エミリアはまだ人形遊びをしているのか。はっはっは、可愛いやつだな」
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