立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと

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2.王太子妃の苦悩

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私はその衝撃で動く事も出来ずただ静かに涙を流し立ち尽くしていた。なかに入って睦み合う二人の姿を見る勇気もなく、ましてや罵る勇気もない。どうすればいいのか本当に分からなかったのだ。
そんな私を侍女は音を立てないように気を使いながら部屋の外に連れ出してくれた。執務室から出てきた私達を待っていたのは憐れむような目をした護衛騎士達だった。それを見て私は彼らもなかで何が行われているのか知っているのを悟った。

---道理で彼らが必死になって私の入室を止めようとしたわけね…。

私の心は酷く動揺していたが、王太子妃としてそれを臣下に見せるわけにはいかない。手の甲でさり気なく涙を拭い彼らに静かに告げた。

「私はここには来ておりません。分かりましたね?」

優秀な彼らはそれで直ぐに察してくれた。返事を声に出さずただ黙って頷いてから、瞬時にいつもの表情に戻ると警護を続けたのだ。


私は侍女と共に何事もなかったかのように長い廊下を黙って歩き私室へと戻っていった。途中何人かとすれ違ったが、王太子妃としてにこやかに微笑むことができていたはずだ。
自分の部屋の中に入ると、自然と深いため息が口から出てきた。

「スズ、暫くの間一人にしてちょうだい」

「ですがマリアンヌ様、」

「お願いよ、スザンヌ」

「…畏まりました」

私は輿入れの時連れてきた乳姉妹のスズさえも部屋から追い出し扉に鍵を掛けた。そして一人だけになると久しぶりに声を出して泣いた。
『なんでなのよ、ロイ。他の人となんて…うっううっ』
こんなに感情を乱したのは王太子妃教育を受けてから初めてのことだった。

私は今日まで一度だって夫からの愛情を疑ったことなどなかった、私一人を愛してくれていると信じていた。だがあの騎士達の対応は王太子の不貞は今日が初めてでないのを示していた。

---いったいいつから不貞をしていたのだろうか。

いくら考えても分からなかった。それほど私達は仲睦まじく暮らしてきたし、王太子は朝晩私に欠かさず愛を囁いてくれていた。いつも逞しい腕で私を抱き『君だけを愛しているよ』と熱く口づけをしていたのに…。

その気持ちを疑ったことなどなかったが、それが嘘だと今日知ってしまった。

私の心は悲鳴を上げ続けている。

---なぜなの、いつからなの?もう私を愛していないの?なにか私に不満があったの?

原因を探すが私は答えを見つけることが出来ず、ただただ胸が苦しくなるばかりだった。


我が国では王族も一夫一婦制が決まっている。国王と王太子のみ、婚姻から三年経っても子が誕生しない場合は側妃を娶ることが可能だが、私と王太子は一年前に結婚をしたばかりなのでまだ猶予はある。
側妃候補を考える時期でもないはずなのに他の女性と…。

これは仕方のない政略ではなく、ただの不貞であることは明らかだった。

---政略なら我慢するし理解もできるわ。でもこれはそんなんじゃない!ただの裏切りよ。

我が国の王族は歴史も古く国民から尊敬もされている。次期国王の不貞は王家の醜聞として認識されるので誰かに漏らすわけにはいかない。

不用意に相談することは考えられないが、私はロイを直接問い詰める前に誰かから適切なアドバイスをもらい、私の味方になってもらいたかった。

---誰か助けて…。あの声が耳から離れないの、頭の中で何度も繰り返していて耐え難い苦しみが続いているの。

一人で抱えるにはあまりに辛い現実を前にして、自分の心が壊れてしまいそうだった。
それほどまでに私はロイを心から愛していたので、憎いという気持ちよりも『どうやり直すか』『彼はまだ私を愛しているのか』『許せるのか』『以前と同じく愛せるのか』と経験したことが無い複雑な感情に押しつぶされていた。

私は人の心がこんなにも脆いのだと初めて知った。
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