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2.魅了という罪①

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連れて行かれた王宮で待っていたのは厳しい取り調べだった。水さえも与えられずに延々と私が犯した罪について聞かれる。

「シシリア・ゲート、もうすべて分かっているんだ。しらばっくれて罪を逃れようとしても無駄な足掻きだ。素直に罪を認めろ。
ほんの軽い気持ちだったんだろう?
王子や高位貴族の令息達にちやほやされるのが嬉しくて、つい魅了を使ってしまったんだよなっ?
王族を操って国をどうにかしようなんて考えてはなかっただろう?私だって分かっているんだ、君がそんなに悪い人間ではないと。
だから魅了したことを認めたらするつもりだ。嘘ではないから安心しろ、国王陛下がお認めになっていることだ」

犯してもいない罪を認めるなんて出来ない、だから『魅了なんて知りません』と否定する。

「早く罪を認めて楽になれ、シシリア・ゲート!」

そう言って机に『バンッ!』と拳を叩きつける尋問官。
思わず身体がビクッとなってしまう。

「罪を犯している奴は本当のことを言われるとそんな風に身体を震わせるんだよ。口では嘘をつけても身体は正直なんだ」

ただ怖かっただけなのに、その些細な動きさえも罪の証にされてしまう。

 違う、違うのっ。私は何もやっていないわ。
 魅了なんて、そんなもの知らないっ。
 ただ怖かっただけなのに…。

魅了を使って王子達を操ったと尋問官は言っているけど、そんな事実はない。『ちやほや』される状況になったことなど一度だってない。

すべては事実無根で身に覚えがないことだった。
怖かったけれども必死になって否定をするしかなかった。それ以外に言うべきことはないのだから。


「魅了なんて私は知りません、そんな魔術出来ません!ちゃんと確認を取ってください。そうすればすぐに誤解も解けるはずですから」

尋問官が『生徒会役員である第四王子や令息達を魅了で操った』と言っているので、彼らに直接聞いてくれるように私は訴えた。

 大丈夫よ、確認さえしてくれれば。
 そうしたら誤解は解けて開放されるわ。
 絶対に…。

震えるそうになる身体を両手で抱きしめながら、自分にそう言い聞かせる。間違ったことなどしていないのだから、分かってくれるはずと信じて。


「第四王子や他の生徒会役員達にはすでに確認済みだ。彼らはみな君に魅了で惑わされていたと訴えている」

返ってきた言葉は予想していないものだった。
『読んでみろ』と束になっている紙を尋問官は差出してきた。

そこには私が魅了を使った事に関する全てが書かれてあった。

事の発端は部外者である私が頻繁に生徒会へ出入りしている事を疑問視した教師の『無関係な生徒に仕事を押し付けているのではないか?』という一言だった。
それから調査が入り、第四王子を始め生徒会役員達は『そんな事実はない。シシリア・ゲートが生徒会に入り込み好き勝手にやっていただけだ』と訴えたのだ。
その訴えに最初は懐疑的だったようだ。
だが生徒会副会長である公爵令嬢が涙ながらに『男子生徒達はみな取り憑かれたような様子で…。そうあれはきっと魅了されていたのかも…』という言葉で状況は一変した。
魅了は異性にのみ効くものとされている。ならば公爵令嬢だけに効かなかったのは納得できると。

高位貴族の令嬢が嘘をつく理由はない判断され、王子達の訴えの確たる証拠とされた。

それから先は『魅了』ありきで調査は進んでいった。
頻繁に私が生徒会に出入りをしていたという目撃証言やその理由を問われても私は誤魔化していたという事実。
そして王子や高位貴族の令息達の訴えに沿うような証言や『魅了が行われたと推測できる証拠』が王家や高位貴族の協力のもと集まった。

これらのことから魔術を統括している神官達は『魅了』の可能性が高いと判断を下し、『魅了の罪』で私を捕らえたのだった。


 なんなのこれは…、嘘ばっかりだわ。 


文句がつけようがない完璧な調査書類だった。一人の生徒の力ではどうにもならないほどの…。


王子や生徒会役員達は自分たちの怠慢を隠すために嘘を吐き、その親である王家や高位貴族達はそれを承知の上で自分の子供達に傷がつかない形での幕引きを願ったのだろう。


彼らにとって私は罪を押し付けてもいい存在生贄

大切な身分の高い子供の将来を守る事が何よりも重要で、その為なら多少の犠牲は仕方がないということだろうか…。


最後の一文には『シシリア・ゲートが罪を認めて反省すれば、特別に配慮し処罰は望まない』とあった。

つまり罪を被ったら、今まで通りの生活に戻れると記されている。

 自分達が寛大な心を持っているという印象で終わらせようとしているのね…。
 なんて勝手なのっ。
 こんなこと許されないわ、絶対に認めないから。


どんなに信じて貰えなくても生徒会に出入りしていた本当の理由を話し続けた。
『馬鹿なことを言うな。学園の者全員に確認したが、そんな事を言っているのは』と言われても信じなかった。

だって私以外にも妹だけはすべてを知っているのだから。生徒会役員達と違って真実を黙っているはずはない。


 きっと必死に姉の無実を訴えてくれているわ。
 あの子だって頑張ってくれているはずよ。

 ルーシーは家族を大切にする子だもの。


他人と話すのが苦手な妹が頑張っている健気な姿が目に浮かんでくる。
それは私の中では揺るぎない事実だった。

なぜなら差入れされた妹からの手紙には『私に出来ることを精一杯しています。この訴えが必ず届くと信じ、お姉様が家族のもとに帰ってくる日を心から待っています』とはっきりと書いてあったから。
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