王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと

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27.レザの正体①〜レザ視点〜

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トトンッ…。

視察五日目の夜、ランダ第一王子の部屋の扉を静かに叩いてから素早くなかに入る。

「私はまだ入っていいとは言っていないぞ、
「知っている、聞こえなかったからな」
「ったく、相変わらずだな。まあいい、座れ」

ランダはそう言うと長椅子に座ったので、俺も近くにあった椅子に適当に腰掛けた。

突然の訪問ではなかった、進展があり次第報告に行くと事前に言っていた。
ただ時間帯は告げていなかった。

そんなものは状況次第で変わるから伝えられない。
だから夜と言っても、正確にはもう日付が変わっていてた。

だが俺とランダはそんなことは気にはしない。
だからこそ俺が部屋に入ってきた時に彼は起きていた。たぶんこれくらいの時間帯に動きがあると思っていたのだろう。


いつものことだが抜け目がない。だからこそ今回の視察の代表は彼になったのだ。



本来は王弟が来る予定だったが、事前にこちらの国の一部の貴族の動きが怪しいという情報を掴んだ。
裏で手を打って安全な視察にすることは容易だったが、俺は他の方法を皆の前で進言した。

『わざと泳がせてランダを囮にして膿を出したほうがいいだろう』
『おいおい、レザム。お前は私をなんだと思っているんだ…』

ランダがわざとらしくため息を吐く。
だがその顔は嫌がっている顔ではなく、むしろほくそ笑んでいる。
事前に話してはいなかったが、こういう反応をするだろうなとは思っていた。

『囮として相応しい第一王子だな。お前ならやられるわけがないし、相手もきっと食いつく。

そう、俺は王弟の息子でランダとは年が近くお互いに気の置けない仲だ。
我が国は自分より身分が上の者に対して礼儀は重んじるが、必要以上に畏まったりへつらったりはしない。
だから俺はランダに対していつもこんな感じだ。


『生き餌扱いか…。少しは私に敬意を払ったほうがいいぞ』
『ちゃんと払っている。それにランダなら上手くやると信頼している。父上は年だから動きが鈍くなってきているし、やられる心配がある』

こういった後、俺は無言の父から鉄拳制裁を受けたが、結局は俺の案は全員一致で認められことになった。

正直我が国にとって他国の貴族が腐ってようがどうでもいいことだが、我が国に手を出してくるのなら掃除は必要だ。


『レザム、当然お前も同行するんだろ?』

こう聞いてきたのは俺がジュンリヤに惹かれているのを知っているからだ。
それはこの場にいる王族みなが知っている。
自分から言いふらしてはいなかったが、俺の様子から察したらしい。


『勿論だ。見極めて必要ならば手を差し出す』

きっぱりと言い切った。


我が国の王族は生涯ただ一人を全身全霊で愛し抜く。そして結婚し伴侶になったら執着とも言えるほど重い愛情を注ぐ。

いわゆる極端に一途な家系なのだ。

理由は分からない、ただそういう血が王族に流れているとしか言えない。
当然政略結婚など有り得ないし、幼い頃から婚約者もない。伴侶とは自分自身で決めるものだ。父もそうだし伯父も祖父もそうしてきた。
その反面愛する人を伴侶に出来なくて生涯独身を貫く者も一定数いるのも現実だ。

だから俺のこの想いも頭ごなしに否定はされない。相手の立場と気持ちを踏みにじるような事をしなければだが…。

そして協力もしない。
自分の想いを他人任せにしないのが王族の流儀だからだ。


『レザム、お前がどう行動しようがそれはいい。だが護衛騎士の仕事はちゃんとしろ。タダ飯は食わせんからな』

こう言ったのは俺の伯父でもある国王だ。わが子であるランダ第一王子可愛さに守れと言っている訳ではない。
働かざる者食うべからずが王族の昔からの流儀だからだ。

 流儀、流儀ってそんなものじゃないだろうがっ。
 当たり前のことしか言ってないぞ…。
 
と内心では思っていたが言わずにいた。さすがに鉄拳制裁は一度で十分だ。

『勿論、期待以上の働きはします』

とりあえずは伯父国王だから丁重に返事はしておいた。


こういう経緯でランダ第一王子が視察団の代表になり今ここにいるのだ。
俺も視察団の一員としての役目をきっちりと果たしているが、別件として私情でも動いている。
もちろんランダを始め視察団のメンバーは承知していることだ。


今はどちらの報告もあってランダの部屋にやってきた。まずは先に仕事のほうを話し始める。

「馬鹿な奴らが生き餌に明日食いつく予定だ。ランダ、気を緩めるなよ」
「なかなか食いつかないから賢くなったのかと思ったが、やはり愚かだったな」

馬鹿な貴族が襲いやすいように視察での移動は騎乗にした。視察場所を急遽増やして警備の穴を作りわざとすきを見せていたが、なかなか食いついてこないので半ば諦めてもいた。

冷静になって考え直したのかと。

それならば見逃すつもりだった。
考えただけで罰していたならば、この国の貴族は殆ど残らないからだ。


「皆にはもう伝えてある。ランダは立派な囮になって適度にやられろ」
「はぁ…、警戒心ゼロの馬鹿な第一王子でいるから安心しろ。お前も計画通りに動けよ、レザム」
「もちろんだ、ランダ」

互いに信頼しているので不安は一切なかった。

今回の視察の真の目的は復興が進んでいるかの視察ではなく、我が国に害をなそうとする馬鹿な貴族の排除だ。

そもそも敗戦後のこの国に口を出したのは、そのまま放置していたら民が困窮し我が国に流れ込んでくる可能性が高かったからだ。
他国の為に無償で力を貸したりはしない、慈善活動ではないのだ。



「それで、お前が私情で動いているほうはどうなっているんだ?」

ランダは顔をニヤつけせながら、もう一つの報告を俺に催促してきた。

コイツは俺に対して遠慮というものを知らない。
以前にそれを指摘したら『お前もほどじゃない』と真顔で言われたが、やはりランダのほうが遠慮がない。
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