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47.断罪③
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捕らえられている襲撃事件の首謀者達は観念したようで抵抗はしていない。
「ミヒカン公爵、素早い対応に感謝する。我々は念のために調査はしていたが、やはり対処はこの国の者が行うべきだと考えていた。その意を察してくれる有能な者がいて良かった」
「お褒めの言葉恐悦至極にございます。この度の調査の件は私としても心から残念に思っております。ただみなこの国のこと思うあまり先走ってしまっただけで、決して欺こうとしたわけではございません、ランダ殿下」
「誠実ではなかったが、悪気はなかったと…。確かこの調査に公爵は関わっていなかったようだが、なぜ庇う?」
眉顰めて問うランダ第一王子。
「調査には加わっておりませんでしたが、臣下である私も無関係ではございません」
愁傷な態度を見せるミヒカン公爵。この場に相応しい対応をしてくるのは流石だった。
「はっはは、気に入った。公爵は男気があるようだ」
ミヒカン公爵はランダ第一王子の言葉に恭しく頭を垂れる。
公爵の名は隣国側の調査書に載っていなかった。ランダ第一王子は真実しか記さないと明言していたから、公爵は襲撃事件に関与していないのだろう。
確かに狡猾な公爵がこんな稚拙な計画を立てるとは思えない。
知っていて放置していた可能性はあるが、それは推測でしかない。
そしてこの国の調査に関与していなかったのは意外だった。
普通なら重鎮の公爵は参加する立場にある。しかし狡猾な彼は不安要素をいち早く察して、理由をつけて調査から外れたのだろう。
そして公爵の読みは当たった。
この場で彼だけが直接的な痛手を受けていないのだから。
「…我が国は間違いを犯しました。ですがそこに関与していない者もおります。私もそうですし側妃もそうです。二度とこのような過ちが起こらないように我らがしかと国王を支えて参ります。どうかチャンスをお与えください、ランダ殿下」
平身低頭しながらそう訴えるミヒカン公爵。
アンレイを見捨てないその姿はまさに忠臣の鑑といえる。それに彼が言うように側妃も今回の件には一切関与していないことは隣国側の調査書で立証済みだ。
清廉潔白な側妃と忠臣であるその養父に視線が集まる。…もちろん期待を込めてだ。
「確かにそなたも側妃も襲撃事件にも調査にも一切関与していない」
ランダ第一王子は微笑みながらそう断言した。
公爵は満面の笑みを浮かべて頭を上げる。その顔は自分の未来は明るいと信じている。
「そなたの心意気は素晴らしい。だがこの国の未来を決めるのは我々ではなく、この国の者達が負うべきことだ。しかしこの国は調査能力が著しく劣っているから正しい判断材料がないだろう。丁度いい、我々が把握している情報を差し出そう」
ランダ第一王子がそう告げると隣国側の従者が前に出て、一部の貴族達の不正や裏取引などをその名とともに詳細に読み上げていく。
――ミヒカン公爵の名は一番初めに呼ばれた。
「う、嘘だ!こんなの全部出鱈目――」
「この国と違って我々は調査結果を捏造致しません。この調査結果を纏めたものを渡す用意はありますので、みなで気が済むまで確認なさせるといいでしょう」
焦るミヒカン公爵とは対象的にレザは冷静そのものだった。
「そ、そこまでお手を煩わせるつもりはございません、後は我々の方で確認致しますので…」
「公爵は男気があるだけでなく謙虚だな。はっはは、不正しているとは思えないほど好人物だ。レザム、資料は必要ないそうだから破棄しろ」
ミヒカン公爵はあからさまに安堵する。
彼は王家を凌ぐほどの権力を持っているから、隣国側がこれ以上関わらなければこの場にいる貴族達は金と権力に物を言わせてどうにか出来ると思っているのだろう。
今までだってそうしてきたから、あの表情なのだ。
「ランダ殿下、申し訳ございません。手違いで二つ目の調査書もすでに配ってしまっております。国中の貴族だけでなく民達にまで。回収は出来ますが、読まれた後では意味がないかと思います」
「そ、そんな……」
「悪かったな、もう手遅れだ。だが男気溢れる公爵は気にしないだろ?我々には悪気はなかった」
今度はミヒカン公爵が崩れ落ちる番だった。
いくら財と力があっても今までのように完全になかったことには出来ない。
――それが分かっているから立ち上がれない。
国王、宰相、重鎮達、それにミヒカン公爵まで立場が揺らいでいる。
周囲からの視線は明らかに今までと違っていた。
そんななか側妃だけが清廉潔白を保ち続けている。
彼女は義父である公爵と違って、二つ目の調査書にも名は出ていなかった。
それはアンレイや宰相も同じだった。彼らは見て見ぬ振りをしていただけ、それが暗黙の了解であっても証明は出来ない。隣国側は調査書には真実だけ記すと言っていた、つまり推測の域を出ないから載っていないのだろう。
「ミヒカン公爵、素早い対応に感謝する。我々は念のために調査はしていたが、やはり対処はこの国の者が行うべきだと考えていた。その意を察してくれる有能な者がいて良かった」
「お褒めの言葉恐悦至極にございます。この度の調査の件は私としても心から残念に思っております。ただみなこの国のこと思うあまり先走ってしまっただけで、決して欺こうとしたわけではございません、ランダ殿下」
「誠実ではなかったが、悪気はなかったと…。確かこの調査に公爵は関わっていなかったようだが、なぜ庇う?」
眉顰めて問うランダ第一王子。
「調査には加わっておりませんでしたが、臣下である私も無関係ではございません」
愁傷な態度を見せるミヒカン公爵。この場に相応しい対応をしてくるのは流石だった。
「はっはは、気に入った。公爵は男気があるようだ」
ミヒカン公爵はランダ第一王子の言葉に恭しく頭を垂れる。
公爵の名は隣国側の調査書に載っていなかった。ランダ第一王子は真実しか記さないと明言していたから、公爵は襲撃事件に関与していないのだろう。
確かに狡猾な公爵がこんな稚拙な計画を立てるとは思えない。
知っていて放置していた可能性はあるが、それは推測でしかない。
そしてこの国の調査に関与していなかったのは意外だった。
普通なら重鎮の公爵は参加する立場にある。しかし狡猾な彼は不安要素をいち早く察して、理由をつけて調査から外れたのだろう。
そして公爵の読みは当たった。
この場で彼だけが直接的な痛手を受けていないのだから。
「…我が国は間違いを犯しました。ですがそこに関与していない者もおります。私もそうですし側妃もそうです。二度とこのような過ちが起こらないように我らがしかと国王を支えて参ります。どうかチャンスをお与えください、ランダ殿下」
平身低頭しながらそう訴えるミヒカン公爵。
アンレイを見捨てないその姿はまさに忠臣の鑑といえる。それに彼が言うように側妃も今回の件には一切関与していないことは隣国側の調査書で立証済みだ。
清廉潔白な側妃と忠臣であるその養父に視線が集まる。…もちろん期待を込めてだ。
「確かにそなたも側妃も襲撃事件にも調査にも一切関与していない」
ランダ第一王子は微笑みながらそう断言した。
公爵は満面の笑みを浮かべて頭を上げる。その顔は自分の未来は明るいと信じている。
「そなたの心意気は素晴らしい。だがこの国の未来を決めるのは我々ではなく、この国の者達が負うべきことだ。しかしこの国は調査能力が著しく劣っているから正しい判断材料がないだろう。丁度いい、我々が把握している情報を差し出そう」
ランダ第一王子がそう告げると隣国側の従者が前に出て、一部の貴族達の不正や裏取引などをその名とともに詳細に読み上げていく。
――ミヒカン公爵の名は一番初めに呼ばれた。
「う、嘘だ!こんなの全部出鱈目――」
「この国と違って我々は調査結果を捏造致しません。この調査結果を纏めたものを渡す用意はありますので、みなで気が済むまで確認なさせるといいでしょう」
焦るミヒカン公爵とは対象的にレザは冷静そのものだった。
「そ、そこまでお手を煩わせるつもりはございません、後は我々の方で確認致しますので…」
「公爵は男気があるだけでなく謙虚だな。はっはは、不正しているとは思えないほど好人物だ。レザム、資料は必要ないそうだから破棄しろ」
ミヒカン公爵はあからさまに安堵する。
彼は王家を凌ぐほどの権力を持っているから、隣国側がこれ以上関わらなければこの場にいる貴族達は金と権力に物を言わせてどうにか出来ると思っているのだろう。
今までだってそうしてきたから、あの表情なのだ。
「ランダ殿下、申し訳ございません。手違いで二つ目の調査書もすでに配ってしまっております。国中の貴族だけでなく民達にまで。回収は出来ますが、読まれた後では意味がないかと思います」
「そ、そんな……」
「悪かったな、もう手遅れだ。だが男気溢れる公爵は気にしないだろ?我々には悪気はなかった」
今度はミヒカン公爵が崩れ落ちる番だった。
いくら財と力があっても今までのように完全になかったことには出来ない。
――それが分かっているから立ち上がれない。
国王、宰相、重鎮達、それにミヒカン公爵まで立場が揺らいでいる。
周囲からの視線は明らかに今までと違っていた。
そんななか側妃だけが清廉潔白を保ち続けている。
彼女は義父である公爵と違って、二つ目の調査書にも名は出ていなかった。
それはアンレイや宰相も同じだった。彼らは見て見ぬ振りをしていただけ、それが暗黙の了解であっても証明は出来ない。隣国側は調査書には真実だけ記すと言っていた、つまり推測の域を出ないから載っていないのだろう。
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