王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと

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【おまけの話】多少の犠牲①〜隣国の騎士視点〜

母国へと帰る道中は順調だった、ただ一点を除けばなのだが…。

その一点とはジュンリヤ様との接し方だった。
視察団の面々は三年間遠巻きにだが彼女を見て、その人柄を知っている者が多かった。だから三年前と違って好意的に思っている。

あの国は気に入らないのは変わらないが、もともと我が国は実力主義なところがあるので、その出自よりも個人を見て判断するところがある。

そして今現在は彼女のことは素晴らしい女性だと判断しており、あの国の王妃だからと色眼鏡で見ていない。

だからこの気持ちを伝えるべく行動したい。
つまりみな普通に接したいと考えているのだが、それが出来ないでいる。

――命が惜しいからだ…。


ジュンリヤ様に関わることはすべてレザム様を通している。

『ジュンリヤ様にお水と果実水どちらがよろしいかとお尋ねしたいのですが…』
『分かった。俺が聞いてくる』
『…お願いします』

――こんな事も任せてもらえない。

『ジュンリヤ様に新しい服をお渡したいので――』
『俺が渡すからよこせ』
『………お願いします』

――これも駄目らしい。

『ジュンリヤ様に――』
『俺がする』
『…まだ何も言っておりません』

――もはや話も聞かない…。


とにかくレザム様はジュンリヤ様のことは全て自分でやりたいようで、どんな些細なことも我々に任せはしない。

仕事が減るのだから楽でいいとも思える状況だが、本当は我々だって歓迎していることを態度で示したいのだ。
それが出来ないのは非常に残念だが、レザム様の遅すぎる初恋を応援しているのだと思い耐えていた。

しかし我慢の限界を迎えた。
それはジュンリヤ様が我々を見る目が悲しそうなのに気づいたからだ。

直接話し掛けてこない、つまり余所余所しい態度を貫く我々を見て、彼女は嫌われていると感じているようだ。
そう思うのは当然だろう。

私だって逆の立場だったら絶対にそう思い込む。
そもそもジュンリヤ様は微妙な立場なのだから余計にそう感じるだろう。

 レザム様、お恨み申し上げます…。


本来ならまずはレザム様に話すべきだろう。
だが完全に常軌を逸しているレザム様に相談するのは私の命が危険だと判断し、ランダ殿下に相談することにした。

「このままではジュンリヤ様がお可哀想です。我々としても普通に接したいと考えております。なにか良い方法はないでしょうか?」
「無い、あれは本能みたいなものだからな。はっはは」

秒で答えるランダ殿下。
いつもなら頼りがいがあるその即決力も、今は少しだけ腹立たしい。

 少しは一緒に悩んでください。
 せめて考えるふりをしたください…。


ここで引き下がるわけにはいかない。
困っているのは視察団だけでなく、ジュンリヤ様こそが一番の被害者なのだから。

「ちなみにランダ殿下の時はどうなさっていたのですか?」

ランダ殿下もレザム様と同様の思考の持ち主なのだから、同じような問題を抱えていたに違いないと思っての質問だった。


「……思い出したくない」

笑っていたランダ殿下の表情が一瞬で変わる。
…死にそうな顔になっている。

 いったい何があったんですか…。

なんだか聞いてはいけない気がする、だが今の状況を打破するには聞かなくていならない。

だから一歩下がって安全を確保してから、勇気を振り絞り『思い出してください』と言ってみる。

「はぁ…、あの時は地獄だった。隠し事は良くないと思って私の想いを前面に出したら。惹かれたではなく、引かれたんだ」

 言い直さなくとも大丈夫です、ランダ殿下。
 それに容易に想像は出来ます。

ランダ殿下はなぜかと言っているが、こっちこそ聞きたい。
なぜ引かれないと思ったのですかと。
勿論尋ねはしない、聞いても理解出来そうになからだ。

私は自分が普通であることに心底感謝した。


「今は王子妃様と大変仲がよろしいですよね。どう乗り越えたのですか?」

とりあえず今は肝心な部分を知りたい。

「丸一日閉じ込められ、気持ちを押さえないと嫌われ、信頼を回復するのは気の遠くなるほどの時間が掛かるという恐ろしい話を延々と経験者から聞かされた。つまり恐怖によって自分に歯止めを掛けたんだ」

ランダ殿下は経験者が誰とは言わなかったが、なんとなく分かった気がした。
ランダ殿下の父、つまり国王が王妃と出会ってから結婚するまで10年掛かったというのは有名な話だったからだ。

政治的な事情があると思っていたが、どうやら裏事情はもっと深刻だったらしい。


ここでレザム様を説得出来るのは経験者であるランダ殿下だけだ。
私は至ってまともなので説得力に欠けてしまう。

「ではその役目をお願いします、ランダ殿下」
「彼女から離したらレザムは発狂しそうだぞ」

 嫌われたら発狂だけでは済みません。
 ……たぶん、視察団は壊滅します。

「このままでは確実にジュンリヤ様は帰路の途中でレザム様を嫌いになると思いますがよろしいのですか?」
「はぁ…、仕方がない」

帰国してからでは間に合わないと分かってくれたランダ殿下は了承してくださった。
そして抵抗するレザム様をみなで力を合わせ押さえ付け、ランダ殿下とともに宿の一室に押し込み外から鍵を掛けた。


ドンドンッ!ドンドンッ!!

「開けろっ!」

レザム様の怒声と壊れそうなほど乱暴に扉を叩く音がする。


――…何も聞こえません。

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