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【おまけの話】多少の犠牲②〜隣国の騎士視点〜
暫くお二人の言い争う声と何かが盛大に壊れる音が聞こえたが、レザム様が扉を破壊して部屋から出てくることはなかった。やはりランダ殿下にお任せして正解だったと安堵する。
そして丸一日経った頃、部屋の中から『…開けろ』と言うランダ殿下の声が聞こえてきた。
恐る恐る鍵を開けるとげっそりとした顔で出てきたランダ殿下。
「…たぶん、大丈夫だ。私の秘策を授けたから」
「「「有り難うございます!」」」
みなで声を揃えて礼を言う。
続いて出てきたレザム様は『これからはジュンリヤと話しても構わない』と告げてきた。
とりあえず一歩前進といったところだろうか。
これを境にレザム様の態度が変わった。
ジュンリヤ様にべったりなところは全く変わらないが、我々が普通に彼女に接するのを許してくれている。
――一切邪魔をされない。
紆余曲折あったが、やはり我々のことを信頼してくれているのだと嬉しくなる。それと同時にランダ殿下の手腕に感服し、流石は次期国王だとみなで絶賛していた。
数日後、ジュンリヤ様が我々に向ける視線から完全に悲しみが消えていた。
誤解が解けたようで良かったと思っているが、今度はジュンリヤ様から向けられる視線になんだか引っ掛かるものを感じるのは私の気のせいだろうか…。
気になったのでその事を視察団の仲間に話してみた。
「ジュンリヤ様の視線が違う意味で気になるんだが…」
「実は私も気になっていた」
「そう言われてみれば、そうだな…」
やはりみな同じように感じていたようだ。
ジュンリヤ様が我々を嫌っていないのは分かっている。だがなんというかその眼差しにたまに複雑な思い?が垣間見えるのだ。
…なぜなんだ?
だがこの疑問はすぐに解決されることになる。
いや、正しくは全く解決はされていない。ただ彼女の視線の意味が解明されただけだ。
それはレザム様が視察団を集めて予定の確認をしている時のことだった。
必要な報告を終えその場から立ち去ろうとしていた我々をレザム様が呼び止める。
「事後報告になるが、各自の設定はこの様になっている。みなしっかりと頭に叩き込んでおけ」
そう言ってレザム様は一枚の紙を無造作に壁に貼る。みな暫し黙ってそれを読み、その後一斉に叫び声を上げた。
「なんですかっ?!これは…」
「俺の恋人がコイツってどういうことですかっ!」
「なんで私は騎士団長の愛人なんだ……」
そこに書かれてたのは名前と各自の架空の設定だった。ちなみにコイツも騎士団長も性別は男だ。
殆どの者達は恋愛対象が同性という設定になっている。一部の既婚者は脚色なしの愛妻家設定だったが、それは年齢的に落ち着いている者達だけだった。
正真正銘の愛妻家である私でさえ、表の顔は愛妻家だが秘かにランダ殿下への叶わぬ想い抱き続けていることになっている。
この有り得ない設定はいったいなんですか……。
ジュンリヤ様はこれを信じているから、あの複雑な眼差しだったのだ。
視察団の面々は口々に抗議の声を上げるが一蹴される。
「これは次期国王の助言をもとに作成したものだ。納得できないのなら王家への反逆とみなす」
レザム様は横暴な王族へと変貌する。
今まで一度だって王族の権威を笠に来たことがないのに、こんなことで…。
――まさに王族という身分の間違った無駄使い。
一切迷いのないその態度はなんか違う領域に達していて、いっそうのこと清々しくもある。
そしてランダ殿下が言っていた秘策とは、この愚策ことで間違いないだろう。
――絶賛していた自分を殴ってやりたい。
もう架空の設定を『…楽しそうですね』と顔を引き攣らせながら受け入れしかなかった。
きっとレザム様にとってこれは安定剤のようなものなのだろう。これがない状態で我々がジュンリヤ様に普通に接したらどうなるかのか。
――想像するほうが怖い。
これくらいで済んだと前向きに考えるのが、賢い選択のような気がする。
いいや、絶対にそうするべきだ。
とりあえずジュンリヤ様は悲しい顔をしていない。レザム様も表面上はだいぶ普通?になっている。
この多少の偽りのうえに成り立っている平穏を維持するためには、多少の犠牲は必要なのだ。
……問題はない。…いや、本当はある。
だがなかった事にしなければ心が折れそうだ。
ランダ殿下との賭けの行方が気になって仕方がない。
レザム様は魅力的な方で、普通にしていたら絶対にジュンリヤ様も惹かれるはずだと思っている。
それなのになぜかレザム様はこの恋を自分でより拗らせ複雑にしている。
なぜ普通にできないのですか…。
声を大にして言いたいが、言ってもレザム様が理解出来るとは到底思えないから言わなかった。
頭脳明晰なレザム様だったが、恋に関して残念な男なのはもう十分すぎるほど分かっている。
もしかしたらランダ殿下の奢りで上等な酒が飲めるのはだいぶ先になるのかもしれない。
レザム様とジュンリヤ様が仲睦まじそうに笑い合っているのが見えた。お二人の物理的な距離はまだ縮まってはおらず、しっかりと友人としての距離を保っている。
国王陛下を超える記録を作らないことをお祈り申し上げます、レザム様。
お二人の後ろ姿を見ながら、私は心のなかでそう呟いた。
**********************
おまけのお話にもお付き合い頂き有り難うございました♪
これにて表示も【完結】と致しますが、気が向いたらおまけを追加するかもしれません(*´ω`*)
そして丸一日経った頃、部屋の中から『…開けろ』と言うランダ殿下の声が聞こえてきた。
恐る恐る鍵を開けるとげっそりとした顔で出てきたランダ殿下。
「…たぶん、大丈夫だ。私の秘策を授けたから」
「「「有り難うございます!」」」
みなで声を揃えて礼を言う。
続いて出てきたレザム様は『これからはジュンリヤと話しても構わない』と告げてきた。
とりあえず一歩前進といったところだろうか。
これを境にレザム様の態度が変わった。
ジュンリヤ様にべったりなところは全く変わらないが、我々が普通に彼女に接するのを許してくれている。
――一切邪魔をされない。
紆余曲折あったが、やはり我々のことを信頼してくれているのだと嬉しくなる。それと同時にランダ殿下の手腕に感服し、流石は次期国王だとみなで絶賛していた。
数日後、ジュンリヤ様が我々に向ける視線から完全に悲しみが消えていた。
誤解が解けたようで良かったと思っているが、今度はジュンリヤ様から向けられる視線になんだか引っ掛かるものを感じるのは私の気のせいだろうか…。
気になったのでその事を視察団の仲間に話してみた。
「ジュンリヤ様の視線が違う意味で気になるんだが…」
「実は私も気になっていた」
「そう言われてみれば、そうだな…」
やはりみな同じように感じていたようだ。
ジュンリヤ様が我々を嫌っていないのは分かっている。だがなんというかその眼差しにたまに複雑な思い?が垣間見えるのだ。
…なぜなんだ?
だがこの疑問はすぐに解決されることになる。
いや、正しくは全く解決はされていない。ただ彼女の視線の意味が解明されただけだ。
それはレザム様が視察団を集めて予定の確認をしている時のことだった。
必要な報告を終えその場から立ち去ろうとしていた我々をレザム様が呼び止める。
「事後報告になるが、各自の設定はこの様になっている。みなしっかりと頭に叩き込んでおけ」
そう言ってレザム様は一枚の紙を無造作に壁に貼る。みな暫し黙ってそれを読み、その後一斉に叫び声を上げた。
「なんですかっ?!これは…」
「俺の恋人がコイツってどういうことですかっ!」
「なんで私は騎士団長の愛人なんだ……」
そこに書かれてたのは名前と各自の架空の設定だった。ちなみにコイツも騎士団長も性別は男だ。
殆どの者達は恋愛対象が同性という設定になっている。一部の既婚者は脚色なしの愛妻家設定だったが、それは年齢的に落ち着いている者達だけだった。
正真正銘の愛妻家である私でさえ、表の顔は愛妻家だが秘かにランダ殿下への叶わぬ想い抱き続けていることになっている。
この有り得ない設定はいったいなんですか……。
ジュンリヤ様はこれを信じているから、あの複雑な眼差しだったのだ。
視察団の面々は口々に抗議の声を上げるが一蹴される。
「これは次期国王の助言をもとに作成したものだ。納得できないのなら王家への反逆とみなす」
レザム様は横暴な王族へと変貌する。
今まで一度だって王族の権威を笠に来たことがないのに、こんなことで…。
――まさに王族という身分の間違った無駄使い。
一切迷いのないその態度はなんか違う領域に達していて、いっそうのこと清々しくもある。
そしてランダ殿下が言っていた秘策とは、この愚策ことで間違いないだろう。
――絶賛していた自分を殴ってやりたい。
もう架空の設定を『…楽しそうですね』と顔を引き攣らせながら受け入れしかなかった。
きっとレザム様にとってこれは安定剤のようなものなのだろう。これがない状態で我々がジュンリヤ様に普通に接したらどうなるかのか。
――想像するほうが怖い。
これくらいで済んだと前向きに考えるのが、賢い選択のような気がする。
いいや、絶対にそうするべきだ。
とりあえずジュンリヤ様は悲しい顔をしていない。レザム様も表面上はだいぶ普通?になっている。
この多少の偽りのうえに成り立っている平穏を維持するためには、多少の犠牲は必要なのだ。
……問題はない。…いや、本当はある。
だがなかった事にしなければ心が折れそうだ。
ランダ殿下との賭けの行方が気になって仕方がない。
レザム様は魅力的な方で、普通にしていたら絶対にジュンリヤ様も惹かれるはずだと思っている。
それなのになぜかレザム様はこの恋を自分でより拗らせ複雑にしている。
なぜ普通にできないのですか…。
声を大にして言いたいが、言ってもレザム様が理解出来るとは到底思えないから言わなかった。
頭脳明晰なレザム様だったが、恋に関して残念な男なのはもう十分すぎるほど分かっている。
もしかしたらランダ殿下の奢りで上等な酒が飲めるのはだいぶ先になるのかもしれない。
レザム様とジュンリヤ様が仲睦まじそうに笑い合っているのが見えた。お二人の物理的な距離はまだ縮まってはおらず、しっかりと友人としての距離を保っている。
国王陛下を超える記録を作らないことをお祈り申し上げます、レザム様。
お二人の後ろ姿を見ながら、私は心のなかでそう呟いた。
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