30 / 85
30.残酷な答え合わせ①
しおりを挟む
私を確かに愛してくれているアンが死を選ぶ理由。
……ない訳がない、絶対に。
竜王の命令は絶対だ。
宰相をはじめ臣下達はすぐさま調査を始めたが、アンが離宮に来た頃から遡って調べているが答えに繫がるようなことは何も出てこない。
アンの周囲にいた誰に聞いても
『番様にそのような兆候はございませんでした。申し訳ありません、番様のお付きなのに何も気づけずに…』
と侍女達は泣き崩れ、護衛達は己の不甲斐なさにその拳を震わせる。
そこに偽りは微塵も感じられない。
これが演技なら大したものだが、そもそもアンの周囲には身元が確かで信頼のおける優秀な者しか置いていない。
裏で動いている黒幕がいるのかと疑念を抱く。
念のため宰相達の調査とは別に竜王直属の裏の部隊にも極秘で探らせるが、上がってきた報告書の内容はほとんど宰相が上げたものと相違ないものだった。
調べた者は違うのにほぼ同じ内容の二通の報告書。
それはアンの周囲には今回の行動に繋がるようなことはないことを示している。
いったいどいうことだ。
なんで問題はなかったという結果しか出てこない?
意図的に操作した形跡は…ない。
なにも…、なにもだ…。
クソっ、それなら何かを見落としているのか?
なにをだ……、いったい何を見落としているっ!
なにかあるはずだっ。
ガッシャンーーー!
近くにあった酒の入ったグラスを掴んで壁に投げつける。そして粉々に砕けたグラスを素手で掴み、力一杯握り締める。
ぽたり、ぽたり…と垂れ落ちる血。
アンはこんなちっぽけな痛みではなかった。
柔肌を深く傷つけたのだから…。
またこれを繰り返させなどしない。
そんなことは何があろうと防いでみせるっ。
二度とあんなアンは見たくない!
ジャリ、ジャリリ……。
更に力を込めて握り締めれば、食い込む破片によって足元に血だまりが出来る。
甦るあの時の記憶に胸が締め付けられ息が出来なくなる。
これは自分への戒めだ。二度と同じ失敗を繰り返さないように身体に刻み付ける。
特に問題が見当たらない報告書を何度も読み返す。もうほとんど一字一句頭に入っている。
みなに見守られ成長していく番の記録。
【少し大人しいが何事にも一生懸命な番様。
当初は幼いゆえに環境の変化への戸惑いから悲しんでいたようだが、素直で聞き分けの良い番様は意外なほど早くに馴染んで様々な勉強に熱心に取り組んでいた。
離宮に自分を連れて来た竜王様や市井にいる家族のことを最初は気にされていたが、自立心が強いようですぐに口にされる事はなくなり、周りの侍女達もその様子に安堵していた。
そして番様が竜王様の婚約者として自覚が出てきてた頃には家族とも定期的に交流を持つように手配し楽しく過ごしている。
家族も丁寧な態度で接しており問題は見当たらない。
小鳥がお好きな番様は餌付けをし話し掛けたりする優しさを持っている。常に笑顔を絶やさず素晴らしいお方に成長している。
そして成長と共に竜王様と結ばれる日を待ち望む気持ちも大きくなり、婚姻の儀当日もまさに幸せの絶頂にいた】
膨大な報告書の内容を纏めるとざっとこんなことが書かれてある。
それは自分が10年間受けてきた報告と大差ない内容でもあった。
何度読んでもあの行動の理由に繋がることが浮かび上がってこない。
完璧な環境に優秀な侍女達に定期的とはいえ家族とも会っている。
いつも穏やかに微笑んでいて幸せそうな番。
一見すると何も問題はない、しかし実際にはあったはず。
あったけれども報告書に記載はない。
あるけれども…ない…。
…どういうことだ。
私や臣下達ではそれに気づけないのか…。
視点を変える必要が…あるのか?
どう変えればいい…。
私達とアンの違いを考える。
一番の違いは獣人の血の濃さだろう。
私は純血の竜人で、臣下や侍女達も獣人の血が濃いものが多い。別に獣人を優遇しているのではなく、心身ともに優秀な者達は獣人の血が色濃く出ている者が多いからだった。
そして番の為に選んだお付きの者達は結果的に獣人要素が非常に濃く、生まれながらに獣人の特徴と感覚を持っている者達になった。
『人の感覚の番』と『獣人の感覚の臣下達』。
差別がない我が国ではまったく問題はない、そこにあるのは違いのみ。
違いは持って生まれた個性でしかない。それに応じた配慮は必要だが…それだけだ。
そう…、気にする必要はないはずなのに、なぜか引っ掛かる…。
なにがと言われたら答えられないが…。
ここに何か手掛かりがあるかもしれないと思わず馬鹿なことを考える。
…進展のない状況だからだろうか。
獣人と人の摩擦がアンを傷つけたとは考えにくい。だがなにも問題が見つからない以上、些細なことでも確認してみる必要はあるのかもしれない。
……ない訳がない、絶対に。
竜王の命令は絶対だ。
宰相をはじめ臣下達はすぐさま調査を始めたが、アンが離宮に来た頃から遡って調べているが答えに繫がるようなことは何も出てこない。
アンの周囲にいた誰に聞いても
『番様にそのような兆候はございませんでした。申し訳ありません、番様のお付きなのに何も気づけずに…』
と侍女達は泣き崩れ、護衛達は己の不甲斐なさにその拳を震わせる。
そこに偽りは微塵も感じられない。
これが演技なら大したものだが、そもそもアンの周囲には身元が確かで信頼のおける優秀な者しか置いていない。
裏で動いている黒幕がいるのかと疑念を抱く。
念のため宰相達の調査とは別に竜王直属の裏の部隊にも極秘で探らせるが、上がってきた報告書の内容はほとんど宰相が上げたものと相違ないものだった。
調べた者は違うのにほぼ同じ内容の二通の報告書。
それはアンの周囲には今回の行動に繋がるようなことはないことを示している。
いったいどいうことだ。
なんで問題はなかったという結果しか出てこない?
意図的に操作した形跡は…ない。
なにも…、なにもだ…。
クソっ、それなら何かを見落としているのか?
なにをだ……、いったい何を見落としているっ!
なにかあるはずだっ。
ガッシャンーーー!
近くにあった酒の入ったグラスを掴んで壁に投げつける。そして粉々に砕けたグラスを素手で掴み、力一杯握り締める。
ぽたり、ぽたり…と垂れ落ちる血。
アンはこんなちっぽけな痛みではなかった。
柔肌を深く傷つけたのだから…。
またこれを繰り返させなどしない。
そんなことは何があろうと防いでみせるっ。
二度とあんなアンは見たくない!
ジャリ、ジャリリ……。
更に力を込めて握り締めれば、食い込む破片によって足元に血だまりが出来る。
甦るあの時の記憶に胸が締め付けられ息が出来なくなる。
これは自分への戒めだ。二度と同じ失敗を繰り返さないように身体に刻み付ける。
特に問題が見当たらない報告書を何度も読み返す。もうほとんど一字一句頭に入っている。
みなに見守られ成長していく番の記録。
【少し大人しいが何事にも一生懸命な番様。
当初は幼いゆえに環境の変化への戸惑いから悲しんでいたようだが、素直で聞き分けの良い番様は意外なほど早くに馴染んで様々な勉強に熱心に取り組んでいた。
離宮に自分を連れて来た竜王様や市井にいる家族のことを最初は気にされていたが、自立心が強いようですぐに口にされる事はなくなり、周りの侍女達もその様子に安堵していた。
そして番様が竜王様の婚約者として自覚が出てきてた頃には家族とも定期的に交流を持つように手配し楽しく過ごしている。
家族も丁寧な態度で接しており問題は見当たらない。
小鳥がお好きな番様は餌付けをし話し掛けたりする優しさを持っている。常に笑顔を絶やさず素晴らしいお方に成長している。
そして成長と共に竜王様と結ばれる日を待ち望む気持ちも大きくなり、婚姻の儀当日もまさに幸せの絶頂にいた】
膨大な報告書の内容を纏めるとざっとこんなことが書かれてある。
それは自分が10年間受けてきた報告と大差ない内容でもあった。
何度読んでもあの行動の理由に繋がることが浮かび上がってこない。
完璧な環境に優秀な侍女達に定期的とはいえ家族とも会っている。
いつも穏やかに微笑んでいて幸せそうな番。
一見すると何も問題はない、しかし実際にはあったはず。
あったけれども報告書に記載はない。
あるけれども…ない…。
…どういうことだ。
私や臣下達ではそれに気づけないのか…。
視点を変える必要が…あるのか?
どう変えればいい…。
私達とアンの違いを考える。
一番の違いは獣人の血の濃さだろう。
私は純血の竜人で、臣下や侍女達も獣人の血が濃いものが多い。別に獣人を優遇しているのではなく、心身ともに優秀な者達は獣人の血が色濃く出ている者が多いからだった。
そして番の為に選んだお付きの者達は結果的に獣人要素が非常に濃く、生まれながらに獣人の特徴と感覚を持っている者達になった。
『人の感覚の番』と『獣人の感覚の臣下達』。
差別がない我が国ではまったく問題はない、そこにあるのは違いのみ。
違いは持って生まれた個性でしかない。それに応じた配慮は必要だが…それだけだ。
そう…、気にする必要はないはずなのに、なぜか引っ掛かる…。
なにがと言われたら答えられないが…。
ここに何か手掛かりがあるかもしれないと思わず馬鹿なことを考える。
…進展のない状況だからだろうか。
獣人と人の摩擦がアンを傷つけたとは考えにくい。だがなにも問題が見つからない以上、些細なことでも確認してみる必要はあるのかもしれない。
276
あなたにおすすめの小説
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる