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68.進展
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「この犬がなぜか私の仕事場にやって来て仕事の邪魔をするんだ。この犬は君の犬だろう、だから連れて来た」
彼にしては上出来の会話だった。
「そうだったんだ、この子ったら悪い子だね。でもエドの言葉には間違いがあるわ。まずこの子は残念ながら私の犬ではないの。
そしてね、私は君じゃないアンよ。アンって呼んでね、エド」
私は彼に名前を呼ばれたかった。
彼には君なんて他人行儀に呼ばれたくない、なぜか名前を呼ばれたいと渇望してしまう。
…その口で私の名前を呼んで欲しいの。
「………ア、…ン…」
消えそうなほど小さい声で私の名を呼ぶ彼は、なぜか泣きそうに見える。それに顔を歪めてとても辛そうは表情を浮かべている。
どうしたの…?
そんなに私の名前を呼ぶのが嫌だった…。
それなら…ごめんね。
エドを苦しめるつもりなんてなかったの。
そんなに嫌だったなんて…思わなかったの。
唇を噛み締め辛そうなエドの様子に私まで泣きそうになってしまう。
「どうした?具合が悪いのか、どこか痛むのか?」
心配してくれる言葉の中に私の名前は出てこない。
「…ううん、違うの」
「ならどうしてそんな顔をしている?」
エドが心から私を心配してくれているのが分かる。その態度に私も正直に思っていることを言葉にして伝える。
「あのね、私の名前を呼ぶ時に凄く辛そうな顔をしていたでしょう。だからそんなに嫌なのかなって思ったら悲しくなってきちゃったの…。
あっは…勝手だよね、呼んでって頼んだくせに呼んで貰ったら更に何かを求めるなんて」
私の言葉に彼がハッとして息を呑む。そして次に彼らしくないほど言葉を紡いでくれる。
「違う、違うんだアン。嫌じゃない、本当だ。
ただ私は…名を呼んではいけない…気がする。その資格がない…といえばいいかな」
彼の言葉に嘘は感じられない。
でも彼が言っている意味がよく分からない。
呼んではいけない…?
資格がない?
‥‥どういうことなのかな。
私がいいと言っているのだから彼が迷う必要はないはずだ。それでも躊躇するなら背中を押してあげればいい。
「じゃあ私がこれから言うことを聞いて。
私をアンと呼んでいいよ、その資格もエドにはちゃんとある。
ふふ、これで大丈夫だよね。本人の言葉以上に大切なことってないでしょう」
笑いながらそう伝えると、エドは『…アン』と呟いてから少し笑ったように見えた。
うわぁぁ‥‥なにこの破壊力!
尊いものを見てしまったー。
もっとよく見ようとしたら『キャン、キャン』と鳴きながら子犬がエドの顔を舐めだした。
見えない、全然見えない。
見えるのは子犬の丸いお尻と尻尾だけだ。
な、なんと犬のくせに邪魔をするのかっ。
子犬とて許さん!
‥‥子犬め、後で覚えてろ。
エドの貴重な瞬間はよく見れなかったけど、その後はアンとちゃんと呼んでくれるようになった。
『アン』と呼ぶ時だけ少し小さな声になるが、甘く囁くように呼んでくれるのでなんだかくすぐったかった。
彼にしては上出来の会話だった。
「そうだったんだ、この子ったら悪い子だね。でもエドの言葉には間違いがあるわ。まずこの子は残念ながら私の犬ではないの。
そしてね、私は君じゃないアンよ。アンって呼んでね、エド」
私は彼に名前を呼ばれたかった。
彼には君なんて他人行儀に呼ばれたくない、なぜか名前を呼ばれたいと渇望してしまう。
…その口で私の名前を呼んで欲しいの。
「………ア、…ン…」
消えそうなほど小さい声で私の名を呼ぶ彼は、なぜか泣きそうに見える。それに顔を歪めてとても辛そうは表情を浮かべている。
どうしたの…?
そんなに私の名前を呼ぶのが嫌だった…。
それなら…ごめんね。
エドを苦しめるつもりなんてなかったの。
そんなに嫌だったなんて…思わなかったの。
唇を噛み締め辛そうなエドの様子に私まで泣きそうになってしまう。
「どうした?具合が悪いのか、どこか痛むのか?」
心配してくれる言葉の中に私の名前は出てこない。
「…ううん、違うの」
「ならどうしてそんな顔をしている?」
エドが心から私を心配してくれているのが分かる。その態度に私も正直に思っていることを言葉にして伝える。
「あのね、私の名前を呼ぶ時に凄く辛そうな顔をしていたでしょう。だからそんなに嫌なのかなって思ったら悲しくなってきちゃったの…。
あっは…勝手だよね、呼んでって頼んだくせに呼んで貰ったら更に何かを求めるなんて」
私の言葉に彼がハッとして息を呑む。そして次に彼らしくないほど言葉を紡いでくれる。
「違う、違うんだアン。嫌じゃない、本当だ。
ただ私は…名を呼んではいけない…気がする。その資格がない…といえばいいかな」
彼の言葉に嘘は感じられない。
でも彼が言っている意味がよく分からない。
呼んではいけない…?
資格がない?
‥‥どういうことなのかな。
私がいいと言っているのだから彼が迷う必要はないはずだ。それでも躊躇するなら背中を押してあげればいい。
「じゃあ私がこれから言うことを聞いて。
私をアンと呼んでいいよ、その資格もエドにはちゃんとある。
ふふ、これで大丈夫だよね。本人の言葉以上に大切なことってないでしょう」
笑いながらそう伝えると、エドは『…アン』と呟いてから少し笑ったように見えた。
うわぁぁ‥‥なにこの破壊力!
尊いものを見てしまったー。
もっとよく見ようとしたら『キャン、キャン』と鳴きながら子犬がエドの顔を舐めだした。
見えない、全然見えない。
見えるのは子犬の丸いお尻と尻尾だけだ。
な、なんと犬のくせに邪魔をするのかっ。
子犬とて許さん!
‥‥子犬め、後で覚えてろ。
エドの貴重な瞬間はよく見れなかったけど、その後はアンとちゃんと呼んでくれるようになった。
『アン』と呼ぶ時だけ少し小さな声になるが、甘く囁くように呼んでくれるのでなんだかくすぐったかった。
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