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7.失望する②〜息子視点〜
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期待した声の代わりにあの女の人に負けないほど不快な声が僕の耳に入ってきた。それは尊敬している父の今まで聞いたことがないような嫌な声だった。
『もちろんだ、寄って行くよ。俺のためにいつも美味しいワインを用意してくれて有り難う、アマンダ』
部下の名を呼び捨てにする父さんの口調は部下に対するものではなかった。
『ふふふ、愛しているのだからこれくらい当然よ』
父さんの返事に甘えた声で答える女性騎士。
どう見ても上司と部下の会話じゃなかった。それはまるで恋人同士の会話だった。
でも父さんは母さんと結婚している。だからこれは恋人同士の会話ではなく、父さんと浮気相手の会話ということになる。
つまり父さんは母さんを裏切っている。
家族を騙している。
考えたこともなかった現実が僕の目の前で起こっていた。
う、うそ…。
父さんが浮気をしている…。
あんなに素敵な母さんがいるのに…。
毎日愛しているって言ってるのに?
うそ…だろう…。
動くことも声を出すことも出来ずにいると二人は僕が隠れていることに気づかず通り過ぎていった。
そして表通りに近くづくとまた適切な距離を取り上司と部下という感じで巡回を始めた。
さっきの会話などなかったかのように平然と。
その後ろ姿はどう見ても真面目な騎士と新人騎士の組み合わせにしか見えない。
それがたまらなく腹立たしかった。
今まで生きてきてこんなに怒りを覚えたこと初めてだった。
ただ怒っているのではない、心の底から憎いと思った。自分がこんな感情を持つことが出来るなんて今日まで知らなかった。
僕は二人の後ろ姿が見えなくなるまでただ黙って睨みつけていた。
そのあと帰りながらトボトボと歩いていると、さっき見た光景が何度も頭の中で繰り返されいつの間にか涙が流れていた。何度も袖で涙を拭っても溢れてくる涙が止まらない。
泣き声だけは必死に我慢してたけど、心のなかでは声を上げていた。
どうして、どうしてだよ!
父さんは母さんを愛しているっていつも言ってたじゃないか!
それなのに…あんな人と。
このことを母さんが知ったらどう思うかな…。
きっと悲しむよね…、泣いちゃうよね。
父さん、どうしてこんな真似してるの?
本当は家族が嫌いだったの?
『俺の宝物』って嘘だったの?
ずっと僕たちに嘘をついていたの…。
笑いながら…。
わざと遠回りをして時間をかけて家に帰った。泣いたままでは母さんに理由を聞かれてしまう。
母さんを悲しませたくなかったから今日見たことは絶対に言えないし、だからといって上手く嘘をつく自信もなかった。
…どうしよう。
だから疲れたふりをしてその日は早くにベットに入った。でも父さんのことを考えて眠ることはできなかった。
すると父さんはいつもより遅い時間に屋敷へと帰ってきた。
どんなに遅い時間でも母さんは必ず父さんの帰りを出迎える。
二人の声が聞こえてきた。
『急に予定が入って遅くなった、すまないなエラ』
『いいのよ、今日もお疲れ様』
平然と嘘を吐く父さんと何も知らずに労いながら出迎える母さん。
僕は耳を塞いで毛布をきつく噛み締めながら声を押し殺して泣いていた。
知らなければ良かったと、どうして今日に限って寄り道なんかしたんだろうと。
大好きだった父さんが好きではなくなった。
浮気をしているのが許せないし憎らしい。
そう思っている気持ちは本当なのに…。
それなのに…まだ全部は嫌いにはなれない。
僕の父さんだから…。
この前まで大好きだったから。
母さんを裏切っている父さんのことが嫌なのに、大嫌いになりたいのに、…なれないのがたまらなく悔しかった。
『嫌いになれ、嫌いになれ』と何度も泣きながら念じても気持ちは変わってくれない。
なんだか僕まで母さんを裏切っているように感じて涙が止まらない。
大好きな母さんが裏切りを知ったらどうなるのか不安で仕方がない。
我が家の太陽ような母さん、僕の大好きな母さん。
泣いて欲しくなかった、傷ついて欲しくなかった。
いつだって笑っていて欲しい…。
大好きな母さんには…。
母さんを助けられない自分が嫌だった。頭の中には母さんの辛そうな顔が浮かんできて、消したくても消せない。
そんな顔今まで一度だって見たことがないはずなのに…頭から離れない。
12歳の僕はどうすればいいか分からなかった。
なにも出来ないことが悔しかった。
ただ泣いて、泣いて…泣き疲れていつの間にか眠っていた。
『もちろんだ、寄って行くよ。俺のためにいつも美味しいワインを用意してくれて有り難う、アマンダ』
部下の名を呼び捨てにする父さんの口調は部下に対するものではなかった。
『ふふふ、愛しているのだからこれくらい当然よ』
父さんの返事に甘えた声で答える女性騎士。
どう見ても上司と部下の会話じゃなかった。それはまるで恋人同士の会話だった。
でも父さんは母さんと結婚している。だからこれは恋人同士の会話ではなく、父さんと浮気相手の会話ということになる。
つまり父さんは母さんを裏切っている。
家族を騙している。
考えたこともなかった現実が僕の目の前で起こっていた。
う、うそ…。
父さんが浮気をしている…。
あんなに素敵な母さんがいるのに…。
毎日愛しているって言ってるのに?
うそ…だろう…。
動くことも声を出すことも出来ずにいると二人は僕が隠れていることに気づかず通り過ぎていった。
そして表通りに近くづくとまた適切な距離を取り上司と部下という感じで巡回を始めた。
さっきの会話などなかったかのように平然と。
その後ろ姿はどう見ても真面目な騎士と新人騎士の組み合わせにしか見えない。
それがたまらなく腹立たしかった。
今まで生きてきてこんなに怒りを覚えたこと初めてだった。
ただ怒っているのではない、心の底から憎いと思った。自分がこんな感情を持つことが出来るなんて今日まで知らなかった。
僕は二人の後ろ姿が見えなくなるまでただ黙って睨みつけていた。
そのあと帰りながらトボトボと歩いていると、さっき見た光景が何度も頭の中で繰り返されいつの間にか涙が流れていた。何度も袖で涙を拭っても溢れてくる涙が止まらない。
泣き声だけは必死に我慢してたけど、心のなかでは声を上げていた。
どうして、どうしてだよ!
父さんは母さんを愛しているっていつも言ってたじゃないか!
それなのに…あんな人と。
このことを母さんが知ったらどう思うかな…。
きっと悲しむよね…、泣いちゃうよね。
父さん、どうしてこんな真似してるの?
本当は家族が嫌いだったの?
『俺の宝物』って嘘だったの?
ずっと僕たちに嘘をついていたの…。
笑いながら…。
わざと遠回りをして時間をかけて家に帰った。泣いたままでは母さんに理由を聞かれてしまう。
母さんを悲しませたくなかったから今日見たことは絶対に言えないし、だからといって上手く嘘をつく自信もなかった。
…どうしよう。
だから疲れたふりをしてその日は早くにベットに入った。でも父さんのことを考えて眠ることはできなかった。
すると父さんはいつもより遅い時間に屋敷へと帰ってきた。
どんなに遅い時間でも母さんは必ず父さんの帰りを出迎える。
二人の声が聞こえてきた。
『急に予定が入って遅くなった、すまないなエラ』
『いいのよ、今日もお疲れ様』
平然と嘘を吐く父さんと何も知らずに労いながら出迎える母さん。
僕は耳を塞いで毛布をきつく噛み締めながら声を押し殺して泣いていた。
知らなければ良かったと、どうして今日に限って寄り道なんかしたんだろうと。
大好きだった父さんが好きではなくなった。
浮気をしているのが許せないし憎らしい。
そう思っている気持ちは本当なのに…。
それなのに…まだ全部は嫌いにはなれない。
僕の父さんだから…。
この前まで大好きだったから。
母さんを裏切っている父さんのことが嫌なのに、大嫌いになりたいのに、…なれないのがたまらなく悔しかった。
『嫌いになれ、嫌いになれ』と何度も泣きながら念じても気持ちは変わってくれない。
なんだか僕まで母さんを裏切っているように感じて涙が止まらない。
大好きな母さんが裏切りを知ったらどうなるのか不安で仕方がない。
我が家の太陽ような母さん、僕の大好きな母さん。
泣いて欲しくなかった、傷ついて欲しくなかった。
いつだって笑っていて欲しい…。
大好きな母さんには…。
母さんを助けられない自分が嫌だった。頭の中には母さんの辛そうな顔が浮かんできて、消したくても消せない。
そんな顔今まで一度だって見たことがないはずなのに…頭から離れない。
12歳の僕はどうすればいいか分からなかった。
なにも出来ないことが悔しかった。
ただ泣いて、泣いて…泣き疲れていつの間にか眠っていた。
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