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19.予期せぬ再会③〜エラ視点〜
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トウイは騎士団での自分を取り巻く厳しい状況や新妻との冷めた生活など延々と聞かせてくる。合間合間に私とライの生活を心配している素振りも挟んでくることも忘れない。
…イラッとする。
つまり私と離縁する時に描いていた新たな幸せが手に入らない現状に嫌気が差しているのだろう。
酔いも冷めたら真実の愛のメッキが剥がれ中身はただの石ころだと気づいたのだ。
だから今ここに居る。
言葉にすることはないが離縁前の生活に戻りたいという気持ちが嫌でも伝わってくる。
…いい加減にして欲しい。
離縁した私と離籍をしている息子にとって関係ないことだ。
…ただの迷惑。
それ以上でもそれ以下でもない。赤の他人であるトウイ・アロークに対してどんな形であれ手を差し伸べる気もないし優しくする義理もない。
だからと言って罵倒はしない。
怒りとは酷くエネルギーを消耗する作業だから、相手に対して何らかの情があるからこそ行えることだ。
人は叱られたり怒りをぶつけられたりしたら、自分の行いを振り返るキッカケになる。つまり自分の過ちを正せる機会を与えられるということだ。
私はそんな優しさを持ち合わせていない。
彼が立ち直る機会を与えるのは元妻の私ではなく今の妻の役目だろう。
もう他人の私が口を出すことではない。
適当に相槌を打ちながらどうやって穏便に帰ってもらおうかと考える。
話が通じないようだから私の新しい家族の存在をビシッと示し、もう都合良く勘違いしないようにさせなくては。本当は今の生活を教えたくはなけれども元夫は現実を突きつけない限り纏わりつくかもしれない。
「…いろいろなことがあって楽しそうな結婚生活ね、遅ればせながらおめでとうと言わせてもらうわ。
そういえば私も再婚して幸せな生活を送っているのよ。さっき外から覗いていた時にライと小さな男の子がいたでしょう、あの子はライの弟なの。
家族四人で仲良く暮らしているから、あなたがこちらのことを心配する必要は一切ないわ。
だから新しい奥様とこれからも末永くお幸せに」
明るい口調で伝えると元夫は心底驚いた顔になる。
「えっ、再婚!?えっ、君の子??
てっきりよその子の面倒を見ているのかと…。
そ、それにあの背の高い子はライだったのか…?
しばらく会わないうちに立派になったから分からなかったな。あっ、きっと後ろ姿だから…だな」
再婚の事実、元妻の新たな子供、三年ぶりに会った息子に気づけなかった父としての不甲斐なさ…トウイは諸々のことにかなり衝撃を受けている。
三年間経って変わったのは自分だけとでも本気で思っていたのだろうか。
…そんな訳無いのに。
ほら、私とライにはもう新しい家族がいるの。
元に戻れないし、戻りたくもないわ。
あなたが私の幸せを奪った?
いいえ違うわ、安心して。
私は自分から前の生活を捨て、新たな家族と新しい幸せを築いたのよ。
呆然と立ち尽くすトウイに『もう閉店ですから』と退店を促しても動こうとしない。どうやら受け入れ難い現実に直面し動けないようだ。
『はぁ…』とため息が漏れてしまう。
どうしたものかと困っていると奥の部屋からカルアを抱っこしたライと一人の男性が出てきた。
その男性は私の隣に来るとさり気なく腰に腕を回してながら耳元で『ただいま』と囁き私を安心させてくれる。
彼は私の愛する夫エイザン・ムーアでありカルアとライの正式な父親だ。
ライは目の前にいる元夫に声を掛けることもなく『父さんが帰って来たから早く食事に行こう』と家族に向かって声を掛ける。
どんなに鈍感な元夫でもこの父さんが自分に向けられた言葉ではないことは分かったようだ。
実の息子の面と向かっての拒絶。
きっと今も本当は慕ってくれているはずだと都合良く思っていた彼にとっては衝撃だったのだろう。
真っ青になったトウイにエイザンは落ち着いた声音で話し掛ける。
「初めましてエイザン・ムーアといいます。あなたはエラの前の夫のトウイ・アローク男爵ですね。
どうやら元妻子のことを心配してこんな田舎まで足を運んでくれたようで有り難うございます」
丁寧にそれでいて元夫の行動を責めるどころか正当化する物言いにトウイの顔色は少し良くなる。
良くも悪くも元夫は昔から単純な人だった。
「あ、ああ。俺が心配するのは当然だから…」
トウイの言葉に微笑みながらもエイザンはきっぱりと言い切る。
「ですが、これからはその心配は無用です。
エラとライには夫であり父である私がいますから。
私は自分がどれほど果報者かちゃんと理解しています。エラと結婚し二人の息子にも恵まれ幸せな生活を送っています。
この幸せを手放すなんて愚かな真似はしませんよ、はっはっは。
ただのしがない商人ですがそんな馬鹿ではありません、ですから安心してください。
そういえばあなたも大変幸せなんでしょうね、真実の愛を貫いたんですから。
こうなると三年前の離縁はまさに運命と言えますね、こうしてみなが幸せになっているのですから。
あなたの英断に感謝ですね、有り難うございます。
違えた道が交わることはないですが、お互いにそれぞれの道を大切にしていきましょう。ねえ?」
優しげな見た目で穏やかな口調なのにエイザンは有無を言わせない威圧を言葉に纏わせる。
不快ではない物言いなのに不思議と相手に否と言わせない。
エイザン・ムーアは『一見すると柔なのに本質が剛の手強い相手』と商人仲間から言われている。
そんな人に元夫が敵うはずもなかった。
「……ええ…そうですね…」
元夫はかすれた声でそう言うと『…では失礼します』と頭を下げて大人しく店から出ていった。
エイザンは日頃は穏やかな人だが大切な家族を傷つけようとする人には容赦がない。身分など関係なく牙を向けることを厭わない。
そんな彼にしてはトウイ・アロークには随分と甘い対応だったように感じる。
どうしてかしら?
元夫のことは色々と知っているはず。
それに店での会話も聞いていたようなのに。
もっと厳しい対応をするかと思ったけど…。
私の表情から疑問を察した彼は子供達に聞こえないように私の耳元でそっと囁いてくる。
「あんな奴でもライの実の父親だろ。
これ以上ライの記憶に愚かな父の姿は必要ないな。
私は父親として大切な息子の心を守りたいんだ。
あの男に情けをかけたんじゃない、私の大切な息子の為だ。またこちらに迷惑を掛ける事があった時は息子達がいないところでしっかりと対応するから安心して」
エイザンにとってライは血の繋がりはなくても守るべき息子だった。
彼に抱きつき『エイザン…ありがとう』と言葉を返すと、彼は私の頬に優しく口付けを落としてくる。
カルアだけでなく連れ子のライも同じように大切に想ってくれるのが嬉しくて涙が溢れそうになると『泣いても君は可愛いね』とおどけた口調で言ってくる。
エイザンの一言は場の雰囲気を穏やかで温かいものに一瞬で変えてしまう。
そんな両親を見てカルアとライが嬉しそう笑い、つられて私とエイザンも笑ってしまう。
家族四人の笑い声が店内に響き渡り、元夫の訪問が嘘だったかのように記憶から消し飛んでいく。
新しい家族との幸せを前にして昔のことを思い出すことはもう二度とないだろう。
…イラッとする。
つまり私と離縁する時に描いていた新たな幸せが手に入らない現状に嫌気が差しているのだろう。
酔いも冷めたら真実の愛のメッキが剥がれ中身はただの石ころだと気づいたのだ。
だから今ここに居る。
言葉にすることはないが離縁前の生活に戻りたいという気持ちが嫌でも伝わってくる。
…いい加減にして欲しい。
離縁した私と離籍をしている息子にとって関係ないことだ。
…ただの迷惑。
それ以上でもそれ以下でもない。赤の他人であるトウイ・アロークに対してどんな形であれ手を差し伸べる気もないし優しくする義理もない。
だからと言って罵倒はしない。
怒りとは酷くエネルギーを消耗する作業だから、相手に対して何らかの情があるからこそ行えることだ。
人は叱られたり怒りをぶつけられたりしたら、自分の行いを振り返るキッカケになる。つまり自分の過ちを正せる機会を与えられるということだ。
私はそんな優しさを持ち合わせていない。
彼が立ち直る機会を与えるのは元妻の私ではなく今の妻の役目だろう。
もう他人の私が口を出すことではない。
適当に相槌を打ちながらどうやって穏便に帰ってもらおうかと考える。
話が通じないようだから私の新しい家族の存在をビシッと示し、もう都合良く勘違いしないようにさせなくては。本当は今の生活を教えたくはなけれども元夫は現実を突きつけない限り纏わりつくかもしれない。
「…いろいろなことがあって楽しそうな結婚生活ね、遅ればせながらおめでとうと言わせてもらうわ。
そういえば私も再婚して幸せな生活を送っているのよ。さっき外から覗いていた時にライと小さな男の子がいたでしょう、あの子はライの弟なの。
家族四人で仲良く暮らしているから、あなたがこちらのことを心配する必要は一切ないわ。
だから新しい奥様とこれからも末永くお幸せに」
明るい口調で伝えると元夫は心底驚いた顔になる。
「えっ、再婚!?えっ、君の子??
てっきりよその子の面倒を見ているのかと…。
そ、それにあの背の高い子はライだったのか…?
しばらく会わないうちに立派になったから分からなかったな。あっ、きっと後ろ姿だから…だな」
再婚の事実、元妻の新たな子供、三年ぶりに会った息子に気づけなかった父としての不甲斐なさ…トウイは諸々のことにかなり衝撃を受けている。
三年間経って変わったのは自分だけとでも本気で思っていたのだろうか。
…そんな訳無いのに。
ほら、私とライにはもう新しい家族がいるの。
元に戻れないし、戻りたくもないわ。
あなたが私の幸せを奪った?
いいえ違うわ、安心して。
私は自分から前の生活を捨て、新たな家族と新しい幸せを築いたのよ。
呆然と立ち尽くすトウイに『もう閉店ですから』と退店を促しても動こうとしない。どうやら受け入れ難い現実に直面し動けないようだ。
『はぁ…』とため息が漏れてしまう。
どうしたものかと困っていると奥の部屋からカルアを抱っこしたライと一人の男性が出てきた。
その男性は私の隣に来るとさり気なく腰に腕を回してながら耳元で『ただいま』と囁き私を安心させてくれる。
彼は私の愛する夫エイザン・ムーアでありカルアとライの正式な父親だ。
ライは目の前にいる元夫に声を掛けることもなく『父さんが帰って来たから早く食事に行こう』と家族に向かって声を掛ける。
どんなに鈍感な元夫でもこの父さんが自分に向けられた言葉ではないことは分かったようだ。
実の息子の面と向かっての拒絶。
きっと今も本当は慕ってくれているはずだと都合良く思っていた彼にとっては衝撃だったのだろう。
真っ青になったトウイにエイザンは落ち着いた声音で話し掛ける。
「初めましてエイザン・ムーアといいます。あなたはエラの前の夫のトウイ・アローク男爵ですね。
どうやら元妻子のことを心配してこんな田舎まで足を運んでくれたようで有り難うございます」
丁寧にそれでいて元夫の行動を責めるどころか正当化する物言いにトウイの顔色は少し良くなる。
良くも悪くも元夫は昔から単純な人だった。
「あ、ああ。俺が心配するのは当然だから…」
トウイの言葉に微笑みながらもエイザンはきっぱりと言い切る。
「ですが、これからはその心配は無用です。
エラとライには夫であり父である私がいますから。
私は自分がどれほど果報者かちゃんと理解しています。エラと結婚し二人の息子にも恵まれ幸せな生活を送っています。
この幸せを手放すなんて愚かな真似はしませんよ、はっはっは。
ただのしがない商人ですがそんな馬鹿ではありません、ですから安心してください。
そういえばあなたも大変幸せなんでしょうね、真実の愛を貫いたんですから。
こうなると三年前の離縁はまさに運命と言えますね、こうしてみなが幸せになっているのですから。
あなたの英断に感謝ですね、有り難うございます。
違えた道が交わることはないですが、お互いにそれぞれの道を大切にしていきましょう。ねえ?」
優しげな見た目で穏やかな口調なのにエイザンは有無を言わせない威圧を言葉に纏わせる。
不快ではない物言いなのに不思議と相手に否と言わせない。
エイザン・ムーアは『一見すると柔なのに本質が剛の手強い相手』と商人仲間から言われている。
そんな人に元夫が敵うはずもなかった。
「……ええ…そうですね…」
元夫はかすれた声でそう言うと『…では失礼します』と頭を下げて大人しく店から出ていった。
エイザンは日頃は穏やかな人だが大切な家族を傷つけようとする人には容赦がない。身分など関係なく牙を向けることを厭わない。
そんな彼にしてはトウイ・アロークには随分と甘い対応だったように感じる。
どうしてかしら?
元夫のことは色々と知っているはず。
それに店での会話も聞いていたようなのに。
もっと厳しい対応をするかと思ったけど…。
私の表情から疑問を察した彼は子供達に聞こえないように私の耳元でそっと囁いてくる。
「あんな奴でもライの実の父親だろ。
これ以上ライの記憶に愚かな父の姿は必要ないな。
私は父親として大切な息子の心を守りたいんだ。
あの男に情けをかけたんじゃない、私の大切な息子の為だ。またこちらに迷惑を掛ける事があった時は息子達がいないところでしっかりと対応するから安心して」
エイザンにとってライは血の繋がりはなくても守るべき息子だった。
彼に抱きつき『エイザン…ありがとう』と言葉を返すと、彼は私の頬に優しく口付けを落としてくる。
カルアだけでなく連れ子のライも同じように大切に想ってくれるのが嬉しくて涙が溢れそうになると『泣いても君は可愛いね』とおどけた口調で言ってくる。
エイザンの一言は場の雰囲気を穏やかで温かいものに一瞬で変えてしまう。
そんな両親を見てカルアとライが嬉しそう笑い、つられて私とエイザンも笑ってしまう。
家族四人の笑い声が店内に響き渡り、元夫の訪問が嘘だったかのように記憶から消し飛んでいく。
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