愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと

文字の大きさ
43 / 57

40.新たな婚約①

しおりを挟む
あの夜会から時間を置かずにマイル侯爵家からクーガー伯爵家へ正式に婚約の申し込みがあった。
勿論当事者はヒューイと私で間違いない。

彼から夜会のあとすぐに求婚され、私もそれを受け入れていたけれど、実際に婚約の申し込みまでは時間が掛かるものだと思っていた。

彼はマイル侯爵家の跡継ぎで独身だが、私はいろいろあって離縁した身だ。ダイソン伯爵家の親戚であるマイル侯爵家側も当然知っているだろうから、すんなりと受け入れられないと覚悟していたのだ。


ヒューイのことだから最終的に周りを説得するだろうと信頼していたけれど、時間はそれなりに掛かると思っていた。



それなのに驚くほど早くに彼は両親とともに我が家へ婚約の申込みにやってきたのだ。


今日は約束した訪問日だった、我が家の応接室に両家が勢ぞろいしている。重々しい雰囲気ではなく和やかな雰囲気でまずはお互いに簡単な挨拶を済ませる。


その後まずはヒューイが前に身を乗り出し話し始めた。

「突然の申込みに関わらず訪問を許可して頂き誠に有り難うございます。
この度、正式にマリア嬢との婚約を申し込みたいと思っております。必ず彼女を幸せにするとお約束します。ですからどうか認めて頂けないでしょうか」

そう言って彼は私の両親に向かって頭を下げてくる。

本来なら我が家より格上で、人柄も申し分ない相手からの申し込みを断るなんて余程の理由がない限りない。それに私の方は離縁したという瑕疵がある。我が家にとってこの申し出は諸手を挙げて喜ぶのが当然の反応だった。

だが彼の言葉にクーガー伯爵である父はすぐに頷かなかった。


「ヒューイ、君の人柄はよく知っている。君のような素晴らしい人と結婚したらマリアは幸せになれるだろう。だがな貴族の結婚はそう簡単ではない。
家と家の繋がりでもあり、跡継ぎを作ることも大切な役目だ。
そのことを君だけでなく、マイル侯爵夫妻もちゃんと納得しているのだろうか?」


父はマイル侯爵家がダイソン伯爵家の親戚であることを懸念しているのだろう。それに子を産めなかった私が子を成せなかった場合、責められるのではないかと親として心配している。

母と兄も真剣な表情でマイル侯爵夫妻の言葉を待っている。父同様、同じことを心配しているのが伝わってくる。

我が家の利益ではなく娘の幸せを優先しようとしてくれている、その家族の気持ちに胸が熱くなる。


私も気にはなっていた。ヒューイからは『大丈夫だから心配しないでくれ』と言われていたが、実際にマイル侯爵夫妻の気持ちを私が直に確かめたわけではない。

彼らが私に良い印象を持っているとは限らない。
なぜなら甥の元妻なんて、引く手あまたの息子の嫁にと望むとは思えないから。


ヒューイの隣りに座っているマイル侯爵が私達家族に向かって口を開く。

「愚息を認めて頂き有り難うございます。
私から言うのもなんですが、息子は結婚相手として条件は悪くないはずなのに今までご縁はありませんでした。
頑固者で親戚から早く身を固めろと言われてもどこ吹く風で、私達夫婦は正直呆れておりました。
そんな息子が突然『結婚したい相手がいる、素晴らしい人だからうかうかしてたら他の奴が狙ってくる!』と言い出しまして。話を聞けばその相手はクーガー伯爵令嬢というではないですか……」


淡々と話すマイル侯爵が私の名が出てきたところで一旦話を切って、私の方はじっと見てくる。

やはりヒューイがなんと言おうと私を認めたくはないのだろうかと不安がよぎる。


その後に続く言葉をクーガー伯爵家側は固唾を呑んで待っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...