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40.新たな婚約①
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あの夜会から時間を置かずにマイル侯爵家からクーガー伯爵家へ正式に婚約の申し込みがあった。
勿論当事者はヒューイと私で間違いない。
彼から夜会のあとすぐに求婚され、私もそれを受け入れていたけれど、実際に婚約の申し込みまでは時間が掛かるものだと思っていた。
彼はマイル侯爵家の跡継ぎで独身だが、私はいろいろあって離縁した身だ。ダイソン伯爵家の親戚であるマイル侯爵家側も当然知っているだろうから、すんなりと受け入れられないと覚悟していたのだ。
ヒューイのことだから最終的に周りを説得するだろうと信頼していたけれど、時間はそれなりに掛かると思っていた。
それなのに驚くほど早くに彼は両親とともに我が家へ婚約の申込みにやってきたのだ。
今日は約束した訪問日だった、我が家の応接室に両家が勢ぞろいしている。重々しい雰囲気ではなく和やかな雰囲気でまずはお互いに簡単な挨拶を済ませる。
その後まずはヒューイが前に身を乗り出し話し始めた。
「突然の申込みに関わらず訪問を許可して頂き誠に有り難うございます。
この度、正式にマリア嬢との婚約を申し込みたいと思っております。必ず彼女を幸せにするとお約束します。ですからどうか認めて頂けないでしょうか」
そう言って彼は私の両親に向かって頭を下げてくる。
本来なら我が家より格上で、人柄も申し分ない相手からの申し込みを断るなんて余程の理由がない限りない。それに私の方は離縁したという瑕疵がある。我が家にとってこの申し出は諸手を挙げて喜ぶのが当然の反応だった。
だが彼の言葉にクーガー伯爵である父はすぐに頷かなかった。
「ヒューイ、君の人柄はよく知っている。君のような素晴らしい人と結婚したらマリアは幸せになれるだろう。だがな貴族の結婚はそう簡単ではない。
家と家の繋がりでもあり、跡継ぎを作ることも大切な役目だ。
そのことを君だけでなく、マイル侯爵夫妻もちゃんと納得しているのだろうか?」
父はマイル侯爵家がダイソン伯爵家の親戚であることを懸念しているのだろう。それに子を産めなかった私が子を成せなかった場合、責められるのではないかと親として心配している。
母と兄も真剣な表情でマイル侯爵夫妻の言葉を待っている。父同様、同じことを心配しているのが伝わってくる。
我が家の利益ではなく娘の幸せを優先しようとしてくれている、その家族の気持ちに胸が熱くなる。
私も気にはなっていた。ヒューイからは『大丈夫だから心配しないでくれ』と言われていたが、実際にマイル侯爵夫妻の気持ちを私が直に確かめたわけではない。
彼らが私に良い印象を持っているとは限らない。
なぜなら甥の元妻なんて、引く手あまたの息子の嫁にと望むとは思えないから。
ヒューイの隣りに座っているマイル侯爵が私達家族に向かって口を開く。
「愚息を認めて頂き有り難うございます。
私から言うのもなんですが、息子は結婚相手として条件は悪くないはずなのに今までご縁はありませんでした。
頑固者で親戚から早く身を固めろと言われてもどこ吹く風で、私達夫婦は正直呆れておりました。
そんな息子が突然『結婚したい相手がいる、素晴らしい人だからうかうかしてたら他の奴が狙ってくる!』と言い出しまして。話を聞けばその相手はクーガー伯爵令嬢というではないですか……」
淡々と話すマイル侯爵が私の名が出てきたところで一旦話を切って、私の方はじっと見てくる。
やはりヒューイがなんと言おうと私を認めたくはないのだろうかと不安がよぎる。
その後に続く言葉をクーガー伯爵家側は固唾を呑んで待っていた。
勿論当事者はヒューイと私で間違いない。
彼から夜会のあとすぐに求婚され、私もそれを受け入れていたけれど、実際に婚約の申し込みまでは時間が掛かるものだと思っていた。
彼はマイル侯爵家の跡継ぎで独身だが、私はいろいろあって離縁した身だ。ダイソン伯爵家の親戚であるマイル侯爵家側も当然知っているだろうから、すんなりと受け入れられないと覚悟していたのだ。
ヒューイのことだから最終的に周りを説得するだろうと信頼していたけれど、時間はそれなりに掛かると思っていた。
それなのに驚くほど早くに彼は両親とともに我が家へ婚約の申込みにやってきたのだ。
今日は約束した訪問日だった、我が家の応接室に両家が勢ぞろいしている。重々しい雰囲気ではなく和やかな雰囲気でまずはお互いに簡単な挨拶を済ませる。
その後まずはヒューイが前に身を乗り出し話し始めた。
「突然の申込みに関わらず訪問を許可して頂き誠に有り難うございます。
この度、正式にマリア嬢との婚約を申し込みたいと思っております。必ず彼女を幸せにするとお約束します。ですからどうか認めて頂けないでしょうか」
そう言って彼は私の両親に向かって頭を下げてくる。
本来なら我が家より格上で、人柄も申し分ない相手からの申し込みを断るなんて余程の理由がない限りない。それに私の方は離縁したという瑕疵がある。我が家にとってこの申し出は諸手を挙げて喜ぶのが当然の反応だった。
だが彼の言葉にクーガー伯爵である父はすぐに頷かなかった。
「ヒューイ、君の人柄はよく知っている。君のような素晴らしい人と結婚したらマリアは幸せになれるだろう。だがな貴族の結婚はそう簡単ではない。
家と家の繋がりでもあり、跡継ぎを作ることも大切な役目だ。
そのことを君だけでなく、マイル侯爵夫妻もちゃんと納得しているのだろうか?」
父はマイル侯爵家がダイソン伯爵家の親戚であることを懸念しているのだろう。それに子を産めなかった私が子を成せなかった場合、責められるのではないかと親として心配している。
母と兄も真剣な表情でマイル侯爵夫妻の言葉を待っている。父同様、同じことを心配しているのが伝わってくる。
我が家の利益ではなく娘の幸せを優先しようとしてくれている、その家族の気持ちに胸が熱くなる。
私も気にはなっていた。ヒューイからは『大丈夫だから心配しないでくれ』と言われていたが、実際にマイル侯爵夫妻の気持ちを私が直に確かめたわけではない。
彼らが私に良い印象を持っているとは限らない。
なぜなら甥の元妻なんて、引く手あまたの息子の嫁にと望むとは思えないから。
ヒューイの隣りに座っているマイル侯爵が私達家族に向かって口を開く。
「愚息を認めて頂き有り難うございます。
私から言うのもなんですが、息子は結婚相手として条件は悪くないはずなのに今までご縁はありませんでした。
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淡々と話すマイル侯爵が私の名が出てきたところで一旦話を切って、私の方はじっと見てくる。
やはりヒューイがなんと言おうと私を認めたくはないのだろうかと不安がよぎる。
その後に続く言葉をクーガー伯爵家側は固唾を呑んで待っていた。
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