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18.護衛騎士は静かに見守る
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『完璧な王子』は王子としては完璧を求めても、人として幸せを求める感情はなかった。それは彼のせいではなく、帝王学の名のもとに幼少期から彼にそう教えこんでたからだ。
誰もが羨むほどの容姿と頭脳と身分とすべてを兼ね備えているのに、本当の意味で幸せになれないなんて皮肉なことだ。
王族としての歴史がスナイル王子に呪いをかけているようだ。
誰も彼を変えられないと思っていたが、ある日そんな王子を一瞬で変えた女性がいた。
『リリミア・ムーア子爵令嬢』
貴族の令嬢なのに良い意味で変わっていた。
彼女の第一印象は『令嬢なのに面白い人だな』と思った。
だが王子にとってはそれは運命の出会いだった。
なんだ、あのスナイル様が…。
とってもいい顔しているじゃないかっ。
初めて見るスナイル様だった。
とても人間らしくて、笑ってしまうくらい感情に振り回され、そしてそんな自分の気持ちに戸惑っている。
どこから見ても『完璧な王子じゃないスナイル様』
その姿に失望なんてしなかった。
戸惑い、狼狽え、悩むことは感情があれば当然のこと、恥ずべき事ではない。
だって王族だって人間なのだから、それでいいんだ。
スナイル様…良かったです本当に…。
あなたは絶対に幸せになるべき人なんですから。
人を愛する気持ちを知り、自分の幸せを考えるようになったスナイル様を全力で応援する。
とにかく初めてのことなので、…なんていうか全てにおいて無駄に王子の能力全開だが、そんな姿も微笑ましいと思った。
実は…、スナイル様に人としての感情を取り戻させた令嬢のことも以前から知っていた。
実際に面識があったわけではないが、平民の間でも『シンデレラ令嬢』として有名な存在だったので、妻から聞いたことがあったのだ。
『ケイ、聞いて!今日はあのシンデレラ令嬢と偶然会ったのよ。とても感じの良い子で貴族なのに偉ぶってなくて話しやすかったのだけど、ちょっと問題があって…』
妻は人の悪口を言う女性ではない。それなのに口ごもるほどのことがあるのだろうか。
『どうしたの?なにかされた?』
『何もされてないわ。ただ楽しく料理の話をしただけ。でもね…その料理が独創的だったの。とても危ないっていうか、天国への片道切符になるかなって思えるような…。でも本人にそんな認識はなくて、また作るって張り切っていたの。ケイ、どうしたらいいかな?』
料理の腕前を否定するようなことを言えなかったのだろう。
だから優しい妻は彼女の為に今悩んでいる。
だが話を聞けば腕前以前の深刻な問題のようだ。
『そうだね、今度会ったら『主人が美味しいって言ってくれるレシピなの。良かったらどうぞ』って君のレシピを書いた紙を渡してみたらどうかな。それならその令嬢も傷つくことはないし、将来犯罪者になる確率もぐっと低くなると思うよ。それに君の料理は世界一なのは本当だからね』
愛する妻とそんな会話をしたことを思い出す。その後のことは聞いていないが、たぶん会えたのではないだろうか。妻の表情から悩みが消えていたから。
『リリミア・ムーア』と名乗った時に初めて『あっ、シンデレラ令嬢ってこの人のことか』と気がついた。
愛する妻が『とても感じの良い子』と語っていたから、本当にそうなのだろう。
料理の腕は性格とは関係ない…からな、たぶん。
とにかく二人のことを影からそっと見守ろう。
育った環境も性格も違う彼らだけど、なんか二人が笑い合っている姿は容易に想像できる。
もうスナイル様によって外堀は完全に埋められている。
あとはスナイル様の頑張りと胃腸の強さがあれば、おとぎ話のような幸せな未来を間近で見ることが出来るだろう。
*********************
(作者のひとり言)
【カモノハシ未来を語る】
「実はさ結婚するかもしれない、エヘッ♪」
カモノハシはもじもじしながら嬉しそうだ。
「それはおめでとうございます。で、お相手はどんな方ですか?」
礼儀として訊ねる律儀なケイ。
「俺に惚れていて最近じっと見つめてくるんだ。いつも灰色の服を着ている平民の子でさ、胸がささやかなのが花丸って感じかな」
「えっ、人間ですか??」
「うん、俺って守備範囲広いから大丈夫。心を奪った責任をとって結婚するつもり。あの子さ、熱い眼差しで俺を見つめて『おいしそう?かな』って呟いてんの。もう貞操の危機ってやつだよ、あっはは」
それは貞操の危機ではなく、命の危機ではないだろうか。
「……それは『美味しそう』では?」
カモノハシを傷つけないように控えめな言い方で勘違いを教えよう、いや命を救おうとする。
「はっはは、違う違う!男を狙ってる雌の『おいしそう』だよ。肉食系女子は夜の寝床でガォーって男を食べちゃうんだぞ。ケイってば普通のしかやったことないの?ダサッ!」
「………は、はは」
地味に傷ついている正統派のケイ。
浮かれて腰を振っているカモノハシは知らない。
灰色の服を来た平民の女の子とコルセットの力でボンッキュッボンになっていたリリミアが同一人物だと。
そして灰色の服を着た未来の嫁がジビエ料理が得意なのも…もちろん知らなかった。
誰もが羨むほどの容姿と頭脳と身分とすべてを兼ね備えているのに、本当の意味で幸せになれないなんて皮肉なことだ。
王族としての歴史がスナイル王子に呪いをかけているようだ。
誰も彼を変えられないと思っていたが、ある日そんな王子を一瞬で変えた女性がいた。
『リリミア・ムーア子爵令嬢』
貴族の令嬢なのに良い意味で変わっていた。
彼女の第一印象は『令嬢なのに面白い人だな』と思った。
だが王子にとってはそれは運命の出会いだった。
なんだ、あのスナイル様が…。
とってもいい顔しているじゃないかっ。
初めて見るスナイル様だった。
とても人間らしくて、笑ってしまうくらい感情に振り回され、そしてそんな自分の気持ちに戸惑っている。
どこから見ても『完璧な王子じゃないスナイル様』
その姿に失望なんてしなかった。
戸惑い、狼狽え、悩むことは感情があれば当然のこと、恥ずべき事ではない。
だって王族だって人間なのだから、それでいいんだ。
スナイル様…良かったです本当に…。
あなたは絶対に幸せになるべき人なんですから。
人を愛する気持ちを知り、自分の幸せを考えるようになったスナイル様を全力で応援する。
とにかく初めてのことなので、…なんていうか全てにおいて無駄に王子の能力全開だが、そんな姿も微笑ましいと思った。
実は…、スナイル様に人としての感情を取り戻させた令嬢のことも以前から知っていた。
実際に面識があったわけではないが、平民の間でも『シンデレラ令嬢』として有名な存在だったので、妻から聞いたことがあったのだ。
『ケイ、聞いて!今日はあのシンデレラ令嬢と偶然会ったのよ。とても感じの良い子で貴族なのに偉ぶってなくて話しやすかったのだけど、ちょっと問題があって…』
妻は人の悪口を言う女性ではない。それなのに口ごもるほどのことがあるのだろうか。
『どうしたの?なにかされた?』
『何もされてないわ。ただ楽しく料理の話をしただけ。でもね…その料理が独創的だったの。とても危ないっていうか、天国への片道切符になるかなって思えるような…。でも本人にそんな認識はなくて、また作るって張り切っていたの。ケイ、どうしたらいいかな?』
料理の腕前を否定するようなことを言えなかったのだろう。
だから優しい妻は彼女の為に今悩んでいる。
だが話を聞けば腕前以前の深刻な問題のようだ。
『そうだね、今度会ったら『主人が美味しいって言ってくれるレシピなの。良かったらどうぞ』って君のレシピを書いた紙を渡してみたらどうかな。それならその令嬢も傷つくことはないし、将来犯罪者になる確率もぐっと低くなると思うよ。それに君の料理は世界一なのは本当だからね』
愛する妻とそんな会話をしたことを思い出す。その後のことは聞いていないが、たぶん会えたのではないだろうか。妻の表情から悩みが消えていたから。
『リリミア・ムーア』と名乗った時に初めて『あっ、シンデレラ令嬢ってこの人のことか』と気がついた。
愛する妻が『とても感じの良い子』と語っていたから、本当にそうなのだろう。
料理の腕は性格とは関係ない…からな、たぶん。
とにかく二人のことを影からそっと見守ろう。
育った環境も性格も違う彼らだけど、なんか二人が笑い合っている姿は容易に想像できる。
もうスナイル様によって外堀は完全に埋められている。
あとはスナイル様の頑張りと胃腸の強さがあれば、おとぎ話のような幸せな未来を間近で見ることが出来るだろう。
*********************
(作者のひとり言)
【カモノハシ未来を語る】
「実はさ結婚するかもしれない、エヘッ♪」
カモノハシはもじもじしながら嬉しそうだ。
「それはおめでとうございます。で、お相手はどんな方ですか?」
礼儀として訊ねる律儀なケイ。
「俺に惚れていて最近じっと見つめてくるんだ。いつも灰色の服を着ている平民の子でさ、胸がささやかなのが花丸って感じかな」
「えっ、人間ですか??」
「うん、俺って守備範囲広いから大丈夫。心を奪った責任をとって結婚するつもり。あの子さ、熱い眼差しで俺を見つめて『おいしそう?かな』って呟いてんの。もう貞操の危機ってやつだよ、あっはは」
それは貞操の危機ではなく、命の危機ではないだろうか。
「……それは『美味しそう』では?」
カモノハシを傷つけないように控えめな言い方で勘違いを教えよう、いや命を救おうとする。
「はっはは、違う違う!男を狙ってる雌の『おいしそう』だよ。肉食系女子は夜の寝床でガォーって男を食べちゃうんだぞ。ケイってば普通のしかやったことないの?ダサッ!」
「………は、はは」
地味に傷ついている正統派のケイ。
浮かれて腰を振っているカモノハシは知らない。
灰色の服を来た平民の女の子とコルセットの力でボンッキュッボンになっていたリリミアが同一人物だと。
そして灰色の服を着た未来の嫁がジビエ料理が得意なのも…もちろん知らなかった。
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