間違って舞踏会に一番乗りしてしまったシンデレラ

矢野りと

文字の大きさ
28 / 29

28.王子はシンデレラの幸せを望む

しおりを挟む
まさかリリミアを絶対に逃さないために行ったシンデレラ作戦がこんなふうに誤解されているなんて…。

 はぁーーー、なんでそうなるんだよっ。
 普通なら外堀を埋められたって思うだろうがっ!
 どこをどう間違ったら『錯乱』にたどり着く???
 普通は思わないだろうがっーーー。

 頼む、リリィ…。
 どんなおかしな君でも愛している。
 だがこの重要な部分だけは間違えないでくれ…。
 

「なあリリィ、誤解だ。俺は錯乱してなんかいない」

真剣な表情で事の経緯を説明していくが、リリミアの反応は望んでいたものとは違った。
だが限りなく予想に近い言葉が返って来る…。

「あらあら、やっぱりショック療法は効かないみたいですね。残念だわ、もしかしてと期待したいしていましたが、そんなに都合良く治らなかったですね。ごめんなさい?かしら…中途半端なショック療法で。次はもっと凄いことを試してみましょうねっ、スナイル様」

なぜか無駄にやる気を見せてくるリリミア。
分かっていた、俺が惹かれた彼女はこういう人だったから。
それも含めて愛しているが、今だけは普通でいて欲しいと切に願う。


 いやいや、十分だっ!
 これ以上はやめてくれ、リリィ。

『もっと凄いこと』がなんなのか想像するのはやめておこう。これ以上のダメージは受け止められるか自信がないから…。


「…中途半端じゃないから、もう最大級のダメージを与えているからなっ。ああ…、違うっ、伝えたいことはそれじゃなくて…。
っていうか!」

「スナイル様、病んでいる人は大概自分の闇に気づかないものみたいです。大丈夫ですわ、これから真実と向き合うことでいつしか闇に打ち勝つ日がくるでしょう。焦らないで頑張りましょう。
ほら一緒に『エイエイオー!』」

拳を高々に上げて励ましてくるリリミア。

駄目だ、全然伝わらない。
難しいことは何一つ言っていないのに、どうしてここまで伝わらないんだ…。

 それに闇ってなんだ…。
 リリィのなかで俺はどんな進化を遂げているんだ…?
  
 
もうツッコミどころ満載のリリミアの言葉だが、ツッコむ元気と気力が根こそぎ奪われていく。


「どうしたら俺が正常だと信じてくれるんだ?」

これ以上はどう証明すればいいか分からない。だから駄目もとでそう言ってみた。
どうせ無駄だろうけどなと思いながら。

「うーん、そうですね。スナイル様以外の方の意見を聞きたいかなと思いますわ」

ようやくリリミアと言葉が通じたことにホッとしながら、近くにいるケイに『お前からも本当のことを言ってくれ』と頼んだ。

ケイは頷きながら一歩前に出てくる。

「スナイル様は錯乱などしておりません。リリミア様を手に入れたくて、おとぎ話のシンデレラを悪用はしましたが正常そのもの。腹黒ではありますが、それは性格なので精神の異常とは言えません。
そして王子を諌めずに協力をしておりましたこと誠に申し訳ございませんでした」

簡潔にそれだけ言うとケイはリリミアに頭を下げる。
ケイは私が説明した以上のことは言っていない。違うところは少しばかり棘のある言葉をオリジナルで入れていたところだけ。

もしかしてケイは密かに怒っているのだろうか。
裏工作のせいで忙しくなり数日間家に帰れず家族に会えなかったことを。家族をなによりも大切にしている彼なら有り得る…。

 …すまない、ケイ。
 
諸々のことが落ち着いたら後でケイに謝っておこうと心に誓う。何気に優しい奴の怒りの方がじわじわと心に来るものがある。


 
誤解が解けたとは期待はできないだろう。そう思って落ち込んでいると、信じられない言葉が聞こえてきた。


「はい、分かりました」
きっぱりと言い切るリリミア。


 はぁーーー???
 

俺が腹黒だと分かったと言いたいのだろうか…。
錯乱は訂正されずに、新たに『腹黒』が加わったのでは惨めすぎる。

「あのなリリィ、腹黒だと信じなくてもいいからな。そこは新たに追加する事項ではないから」

「あら、腹黒なの最初に会話を立ち聞きした時から知っておりましたので、再確認しただけですわ。
それに今『分かりました』と言ったのは、スナイル様が錯乱していないことに対してです」

 なんでなんだ…。
 あんなに俺が言っても信じてくれなかったのに。
 ケイがちょっと言っただけでなぜ簡単に信じるんだ??

 おかしくないか…。


「リリィ、信じてくれて嬉しいよ。だがどうして信じる気になったんだ?」

嫌な予感はしていた。
だが思わず聞いてしまった。

「だって疑う理由はありませんから。真面目なガードナー様が嘘を付くとは思えません。
あっ、スナイル様を信じていなかったわけではありませんよ。ただ発情期の雌猿などの問題発言やガラスの靴を叩き割るなどの問題行動ありだったので、きっと心のなかで防衛本能が働いたんですね」

笑顔を浮かべて『ふふ、ごめんなさい?』と言うリリミア。

誤解は解けたけれど、なんだか地味に立ち直れない。
自業自得かもしれないが、リリミア相手でなかったらこうも拗れていなかっただろう。

 俺って本当に愛されているよな…?


彼女には敵わない。今もだが、きっとこれから先も振り回されるだろう。
だがこんな彼女だからどうしようもなく惹かれてしまったんだ。

 はっはっは、仕方がないな。
 惚れたのはリリィがリリィだから。

もう一度跪いて求婚のやり直しをする。
今度は『はい』と言ってくれるだろうか。それとも予想外の反応でまた俺を慌てさせるんだろうか。

どちらでも構わない、時間はたっぷりにあるのだから。


「リリミア・ムーア、愛しています。
あなたを幸せにすると誓う。
二人で一生笑っていきたいと思っている。
だからこの手を取ってくれ」


******************
(作者のひとり言)
お気に入り登録・感想有り難うございます。執筆の励みにしております♪
あと一話で完結予定です、最後までお付き合いいただけたら幸いです( ꈍᴗꈍ)


【カモノハシの捨て台詞】
丁寧に時間をかけてカモノハシの誤解を解こうと努力するケイ。
「ほら父が『ケイ…』って川岸で呟いていたのはずっと昔だろう?その時の私は小さな子供だったはず。そんな関係になれる歳じゃないのは分かりますよね?」
冷静になって考えれば分かるはず。
カモノハシに悪意があるわけではない。

うーんと唸りながら考えるカモノハシだったが、『全然分かんなーい』と足の水かきをカパカパと開き遊び始めてしまう。
「えっ、なんで…」
「昔って昔でしょ。俺って生まれてんの?そんな前のことよく分からないしー。昨日も昔だから何食べたか覚えてないもん」
カモノハシに正しい時間の概念なし。
三分考えても分からないことは『さよなら』。
考えたいことだけを考えて生きている。

楽しいカモノハシ生。

「反省しないならもういい。
ケイ、あとで後悔するからねー」
捨て台詞を吐いてカモノハシは去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...