恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと

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認めるのは悔しいけれど、確かに『』となれば私の女性としての評価も少しは上がりそうだ。
もしかしたら…、良い人との縁があるかもしれない。

でもデメリットも確実にある。

ここで流されては駄目だと思って、必死に彼の言葉に反抗してみる。
  
「でも、ライの恋人だから『良いなって』思うような人からモテても嫌だな…」
「そんなこと言ってられる余裕はあるのか?ケティ」
「……まだほんの少しだけ余裕はある…かな?」
「全然ねぇーよっ!いいから俺が付き合ってやるって言ってんだから、有り難がって付き合え。
俺の隣にいれば、まあなんだ…いろいろと複雑な俺の…いや違う、繊細な男心を知る練習にもなる…っていうか。
あーー、いい加減に察しろ…。
兎に角、お前にはメリットしかない!!」

ライアンはなぜか途中から小さな声になっていく。
ゴニョゴニョとなにか言っていたが、よく聞こえなかった。

「えっと、ごめんなさい。最初と最後しか聞き取れなかったわ。
ライ、もう一度言ってくれる?」
「……なにも言ってない」
「えっ、そんなはずないでしょう?確かになにか言っていたわよ」
「………気のせいだ」

なぜ言ってくれないのか…。
私がもう一度聞こうとする前に彼が口を開く。

「ケイト、お前にはもう時間はない。
このままじゃ、確実に行き遅れるぞ!
王宮ではお局様、家では小姑の道まっしぐらだ。
それで本当にいいのかっ!」

鋭い直球を投げてくるライ。
幼馴染だけあって、私のことをよく知っている。
この言葉に心をぐさりと抉られる。

 うぅ…、ライめ。
 痛いところをついてきて…。


「…よろしくお願い…します」
「ああ、任せろっ」

思わずそう言ってしまった。
ライが恋人なんてピンとこないけれど、私の隣りにいるのに不思議と抵抗はなかった。

 そういえば、幼馴染だから昔からライがそばにいるのが当たり前だったな。


こうして私は幼馴染のライアン・グレシャムと表向き恋人として付き合い始めることになった。
だがこの状況をよく思わない人達がいることをすぐに思い知らされることになる。


ライアンを狙っている女性は私が想像していたよりも多かった。
それもちょっと多いどころではなく、凄く多かったのだ。
 
 ライアンの人気を甘く見ていたわ…。


彼女達は本人には直接アプローチする勇気がなくても、彼の恋人という目障りな存在を排除する無駄な勇気は持ち合わせていた。


流れで、ライアンの恋人となった私は彼女達から嫌がらせを受ける始める。


「あら?誰かと思ったら、ライアン様に纏わりついている幼馴染と言う名の害虫ですわね」
「まあ本当だわ。王宮で働いているライアン様のそばにいたくて、侍女の真似事までするなんて、本当に浅ましい人ですわね」
「釣り合いが取れていないのに、恥ずかしくないのかしら」
「皆さま本当のことを言ったら駄目ですわよ。もっとオブラートに包んで話してあげましょう。
そうしないと、ライアン様の優しさにつけ込んでいるこの方が憐れですから。ふっふふ」

今日もまた着飾った令嬢達に囲まれ、言いたい放題言われたうえに嘲笑される。
最初こそ適当に反論していたが、話が通じないのは十分に分かったので、今は笑顔で聞き流すことに徹している。

でも令嬢達はそれも気に食わないらしい。

「なにヘラヘラしてるのよ!」
「本当のことを言われいるのよ、もっと惨めったらしく泣いたりしなさいよ」
「可愛げのない人ね。本当にライアン様には相応しくないわ!」


悲しくないのに泣けません。
本当のこと?――誤解がほとんどです。

 そんなにライアンが好きなのかしら…?

それならばもっと建設的なことをすればいいのに。

「あの…ちょっとだけいいですか?」
「あら、反論することがあるのかしら~?」
「反論ではありませんがちょっとだけいいですか。
皆さん、ライアン・グレシャムのことが大変お好きなようですね。彼の好きなタイプは知りませんが、苦手なタイプなら知っていますから、もし良かったらお教えしましょうか?」

私は恋人のふりをしているだけで本当の恋人ではない。だから彼女達の為に一肌脱いであげることにした。
もちろん彼女達は恋する乙女なので、素直に首を縦に振っている。

なかなか素直なので、私の知っていることを惜しまずに教えることにした。

「まず彼は悪口を言う人が嫌いです。それに集団で他者を圧しようとする人のことも理解し難いといって避ける傾向にあります。それといじめを行う人のことも卑怯者と言って嫌悪しています。以上が幼馴染だけが知っている情報ですわ」
「「「………」」」
「皆さんのご健闘をお祈りしておりますね」

令嬢達はみんな俯きながらふらふらと去っていった。
あんなに元気いっぱいで迫ってきたのに、帰るときは大人しくてちょっと不気味だった。

 ……どうしたのかしら?
 
まあ、私には関係がない。
それよりもこの状況が問題だ。

ライの恋人となってから、こんなふうに責められることが多くて困っている。
それなのに、肝心のほうはさっぱりだ。
全然モテないことに変わりがない。

 あれっ?
 これって恋人のふりしている意味あるのかしら…?


――ない気がするというか、全然ない。
メリットなしで、デメリットが山盛りだ。

 むむぅ…、これはなんとかしなくてわ。

私は善は急げとばかりに、ライアンがいるであろう王宮の訓練場へと足早に向かった。

訓練場には多くの騎士達がいるけれども、彼のことはすぐに見つけることができた。
私の視力が特別にいいからじゃない。

着飾った令嬢達の群れの中心に彼がいたからだ。

これは来るタイミングが悪かった。回れ右をしてその場からそっと去ろうとしたのに、私の名を大きな声で呼んでくる人物がいた。


「ケティ!」

こんな時ぐらいは空気を読んで欲しかった。
ライアンは気遣いもできる人なのに、私に関してはだけはその気遣いが働かない。

聞こえないふりをしようかと迷っていると、『ケティ、こっちにおいで』と甘い口調でまた呼んでくる。


 はっはは…、なにしてくれてるのかしら?
 ライ、また湖に沈めていいよね?


ライアンを囲んでいる令嬢達の刺すような視線が私に集まる。完全に逃げ道を失ってしまった。



*********************
(作者のひとり言)

【幼い頃のライとケティ】
『おい、ケティ。これやるよ』
『ありがとう、ライ』
素直に手を出すケティ。
その手に大量のみみずがのせられる。
『きゃー、いやー。ライのいじわるー!』
『あっはっは、そのみみずで魚が釣れるぞ』

後日、二人で一緒に湖に行く。
『目をつぶってここに立って、ライ』
『ケティ、こうか?』
素直なライは言われるがままに立つ。
その背を力いっぱい押すケティ。
ドボンっ!!
ライは目の前の湖に落ちびしょ濡れになる。
『うぁー!なにすんだよ、ケティ』
『この湖には魚がいるから、がんばってつかまえてね。はい、これこの前くれたみみずだよ』
『う、うん…。ありがとう?』

――これに懲りずにライの健気な間違ったアプローチは続くのであった。

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