恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと

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【おまけ】ライアンの奮闘…?

毎年2月14日の数週間前から俺はとても忙しくなる。
なぜなら俺の天使からチョコを貰おうと考える愚か者どもを排除する必要があるからだ。


『今年はどれくらいチョコ貰えるかな~?』
『たくさん貰いてー!!』
『義理ばっかりじゃ、意味はないぞ。やっぱり本命チョコをいくつもらえるかで男の価値は決まるんだ』
『うっせー!!貰えないよりは義理でもいいんだよっ!』
『『『そうだ、そうだー!』』』

イケメン騎士の発言に、抗議する声が部屋に響き渡る。
騎士団ではバレンタインデーが近くなるとこんな会話が繰り返されるのだ。

貰える率が高いごく一部の騎士とその他大勢の騎士達の気合の入り方は全然違う。
前者は余裕でその日を迎えるが、後者は必死だ。
本命チョコなんて高望みはしない、義理でもいいのだと開き直る。

そして義理をあげるに相応しい騎士と近くの独身女性達に判断されるように健気に努力し、決戦の日を迎えるのだ。

ちなみに近くにいる独身女性達には王宮で働く侍女も当然含まれている。

だから

「おい、お前ら分かっているだろうなっ?
もし俺のケティから何か受け取ったら…、翌日の朝日を見ることはないぞ」

分かり切っていることを毎年言わなければいけないのは、どんなに排除しても新たな馬鹿はどうしても湧いてくるからだ。

まぁ、馬鹿の気持ちも分かる。
俺のケティが可愛すぎるのがいけないのだ。

「どうして貰ってはいけないんですか?まだケイト嬢は独身で婚約者もいませんよね。ライアン先輩の幼馴染かもしれませんが、恋人でもないんですよね?それなら僕にも平等にチャンスがありますよね!あんな可愛い子がもしチョコをくれると言うなら僕は絶対に貰います!」
「お、おい、やめろって。命を大切にしろ!」
「その若さで命を粗末にするな。田舎の両親が泣くぞ!」

やはり馬鹿は今年もいた。最近騎士団に入った新人だから、がまだ分かっていないのだ。

常識をよく知っている周りの騎士達が必死にとめる言葉を口にするが、訳が分からずに『何を言ってるんですか?』とのん気に質問している。

「いいか新人、ケイト・オールガーは俺の妻だ」
「えっ?先輩は独身ですよね?それにケイト嬢も…」
。だから俺の中ではもう妻だ。ケティに手を出す奴は絶対に許さん」
「許さんって…はっはは大げさですね、ライアン先輩」

俺の忠告に笑っている新人の耳元で、以前ケイトに告白しようとした騎士が何かを囁く。
もちろんその騎士は告白はしていない、だからここにいる生きているのだ。

「ラ、ライアン先輩、絶対に俺はケイト嬢から貰いません!!」

顔を青ざめ震えながらそう言う新人。
が分かったらしい。飲み込みが早い奴で良かった、無駄な運動をする手間が省けた。

団長がため息を吐きながら近づいてくる。

「なあライアン。王宮の侍女達が騎士達に義理チョコを配るのは慣例になっている。ケイト嬢のチョコだけを断るのは、彼らだって気まずいだろう。だからお前から彼女に自分以外の者に配らないようにと言ったらいいんじゃないのか。そうすれば簡単だろ?」
「言えません。ケティは気配りを忘れない子なんです。もしやめさせたら、礼を欠くような真似をしてしまった悩むじゃないですか。だから俺は干渉はしません。ケティの思いやりの気持ちを潰すようなことは出来ません」
「はぁ……。お前、いろいろ間違ってるぞ」
「……?」
「頼む、早く結婚してくれ…」
「もちろん、準備は万端です!!」
「…………」


騎士団の次は、友人を通して文官にも忠告をし、それから出入りの業者などにも過去の事例も交えて親切に忠告をして回る。
一年でこの時期が一番忙しいと言っても過言ではないが、俺は見事にやりきった。



そしてあっという間にバレンタインデー当日になる。

早々に俺はケイトから手作りチョコを貰う。

「ありがとうなっ、ケティ。ところでそれはなんだ?」
「お世話になっている人に配ろうと思って」

ケイトが手にしている籠の中で小さな箱がいくつか入っている。俺が貰ったものとは、明らかに違うことに顔がにやけてしまう。
『じゃあなっ!』と言って、しまりのない顔を見せるのは恥ずかしいので足早にその場から立ち去った。



そしてその日の夕方。
偶然を装って、まだ王宮にいるケティに声を掛ける。

「おい、ケティ」
「あら、ライ?どうしたの、こっちに用事?」
「ちょっと団長から頼まれた用事があってな。どうした、なんか元気ないぞ?」
「うーん、実はお世話になっている人にチョコを渡そうとしたのだけど『チョコは苦手で‥』って断られてしまったの。だからこれどうしようかと思って…」

ケイトが持っている籠のなかを、素早く目視で確認する。箱の数は朝と同じだ、一つも減っていない。

 よしっ、問題なしだな。


「あー、男って甘いのが苦手な奴多いからなー。しょうがねぇーな、俺が貰ってやる」
「うん、そうしてくれると助かるわ。ありがとう、ライ」

俺はケイトから籠ごと受け取り『もう帰るなら、送っていってやる』と言ってケイトを屋敷まで送った。


「今日は送ってくれてありがとう、ライ」
「暇だったからだ。また暇だったら、…送ってやるかもなっ」

笑顔を浮かべて礼を言うケイトに、ぶっきらぼうに言葉を返す。照れてしまって、とてもじゃないが普通には話せない。
ケイトが玄関の中に入るのを見届け、俺が帰ろうとすると丁度帰宅してきたケイレブに会う。
その手には大きな紙袋がある。

「たくさん貰ったなー、チョコ」
「そうですね。まあ義理でしょうが、貰いました。義兄上は……いつも通りのようですね」
「ああ、ケティの手作りチョコは全部手に入れた」
「でも義兄上は甘いものが苦手、というか嫌いですよね?それはどうするのですか?」

確かに俺は甘いものが嫌いだ。
でもそれはケイトは知らない。
知られたら貰えないから、絶対に教えないと決めている。

「もちろん一人で食べるに決まっている」
「ですがその籠のチョコだけでなく、姉上は義兄上用にもチョコを渡していますよね?それもかなり大きなチョコを。誰かに分けたほうがいいのではないのですか?糖分の過剰摂取は体に良くないですよ」

ケイトが俺のくれるチョコは、毎年顔よりも大きいものだ。
それプラス配らなかった義理チョコを手にする俺を、ケイレブは心配してくれているようだ。
義弟の優しさに感動するが、これだけは譲れない。

「どんなに時間が掛かっても一人で食べる。もし食べきれなくても、墓場まで絶対に持っていく!」
「……義兄上は墓場まで持っていくものが多くなりそうですね」

ケイレブは苦笑いしながら『健康のためにも早く結婚することをお勧めします』と言ってくる。
流石は義弟だ、良いことを言う。

とにかく今年も無事にこの日を乗り切れたことにホッとしながら、ケイトからのチョコを大切に抱え、俺は家路につくのであった。
 

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