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52.答え合わせ①

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――夢を見ていた、とても幸せな夢を……。


いつの間に私は眠っていたのだろう。

目覚めたけれど、目は開けずにいる。まだ眠いからではなく、夢の余韻にもう少しだけ浸っていたかったからだ。


ずっと気になっていた前世の弟との再会という有り得ない夢。

いったいどこからが夢だったのだろうか。ルイトエリンに助けられ両思いを確認したところも夢だったのなら、……とても残念だ。

 でも、そんな気もしてきたな……。


と思いながら目を開けると、目の前には大きな熊がいた。

「うわぁっ! 私は美味しくないので食べないほうがいいですよっ」
「……そんなところも変わらないな」
「ん? ……熊って喋ったけ?」

毎日いろいろなものが進化している。私が森を離れている僅かな間に、とてつもない変化が起こり、熊が話すようになったとしてもおかしくない。

 ……いや、おかしいかな?

首を傾げながらも、ゆっくりと熊との距離を取っていく。慌てて逃げたりしたら襲われるから、じりじりと離れるのが熊に遭遇した時の基本だ。
と言っても、ベッドで横になっている状態なので、動きはなめくじ並に遅かった。これでは捕食される確率に変化はない。

 ……駄目じゃん。

でも諦めたらそこで終わりなので、もぞもぞと動き続けていると、熊がまた喋ってきた。

「熊じゃない」
「それじゃ新種?」
「……姉ちゃん、寝ぼけてるな」
「姉ちゃん?」

光の加減で顔が見えず、シルエットだけで判断してしまっていたけれど、よく見たら熊ではなくヤルダ副団長だった。
そして、彼は私のことを姉だと言っている。私は目覚めたつもりだけど、実際はまだ眠っているのだろうか。

 ……ふふ、こんな夢ならずっと見続けたいな。

へにゃりと笑っていたら、無傷な私の左頬を彼は容赦なく引っ張ってくる。私が『痛い!』と抗議すると、『夢じゃない証拠だ』と言いながら離してくれた。


――夢じゃなかった。


「どうせ姉ちゃんのことだから『うふふ、まだ夢を見てるのね』とか思ってたんだろ?」
「なんで分かったの?」
「その緩んだ顔でだ。昔っからそうだったからな。 ちなみに、全部現実だからな」

私が考えていることを一瞬で見抜き、なおかつ生意気に指摘してくる。間違いなくリアテオルだった。

現実なのが嬉しくて、昔のように弟の額を指でトンと小突いたら、リアテオルは『もう子供じゃないんだからな』と言いながらも嬉しそうに笑っていた。

ヤルダ副団長として私に接していた時と違って、まるっきり弟に戻っている。でも今の私達は四十代のおじさんと十七歳の小娘で、傍から見たらさぞかし可笑しな関係に見えるだろう。

でも、私にとってはもう弟にしか見えない、……熊みたいだけど。


「テオは生まれ変わっても、中身は全然変わってないわね」
「俺は生まれ変わってはいない」

リアテオルは仕事の時は自分のことを私と言っている。でも素だと俺になるようだ。昔のように僕でないのが少しだけ寂しく感じるけれど、それは仕方がないだろう。
この歳になっても僕と言っていたら、流石に姉として注意する。

「ふふ、冗談ばっかり言って。騙されたりしないわよ」
「本当だ、姉ちゃん」
「…………嘘」
「――じゃない」

リアテオルの顔は本気だった。

生まれ変わりの仕組みなんて知らないけれど、弟も前世の記憶を持って私より随分先に生まれ変わったと思っていた。


 だって、だって……。


「なんでっ!? あんなに可愛かったのに。村一番、いいえ、町一番の美少女だったのに。なにがあったら、熊になるの……。まさか、熊に拾われて育てられたとか?」
「なんで、気にするとこそこなんだよ。もっと他に聞くことあるだろうがっ。それに熊に拾われたりしてないからな! あと、美少女じゃなくて美少年だから」

私は身を乗り出すと、リアテオルの胸ぐらを掴んで揺さぶり、納得のいく答えを迫る。
聞きたいことは山ほどあった。どうしてここで寝ているのかとか、ルイトエリン達はどこにいるのかとか、私が死んだ後のこととか。

――でも、全部が吹き飛んでしまった。

美少女が成長して熊もどきになったと知ったら、そうもなるだろう。ある意味、記憶を持って生まれ変わっていた以上の衝撃を受けた。

 ……本当に心臓が止まるかと思った。 


リアテオルは頭をガシガシと掻きながら、わざとらしく溜息を吐いた。まったく弟のくせに生意気だ。

「姉ちゃんは全部を思い出したわけじゃないんだな」
「たぶん、そうだと思うわ。そもそも、なにを思い出していないかも分かってないけど。幼い頃から前世の記憶を持っていたけど曖昧だったの。あの時のリアテオルの表情を見て、かなり思い出したけど」

思い出したのは家族のことがほとんどだった。でも、それはあえて言わなかった。

リアテオルはたった一人で生き抜いた。想像を絶するほど過酷な人生を歩んできたことだろう。私との再会で辛い記憶も蘇ったはずだ、さらに古傷を抉るようなことはしたくない。


「俺のことを生まれ変わりと思ったということは、時間的な流れは欠けているんだろうな」
「そうね、前世がいつのことだったかは曖昧なままだわ。それに国の名前とかも」

あの国の王族達は今もいるのだろうか。国王は流石にもう亡くなっているだろうが、王太子は年齢的に考えてまだ健在かもしれない。

王家を脅かす存在と私をみなし、その命を簡単に奪った人達。王族達全員が関わっていたかどうかなんて私に知る由もない。でも、王太子は一度だけ牢にいる私を見に来た。そして『みすぼらしい生贄だな』と震える私を見て高笑いしていたのを覚えている――確実に彼は、前世の私を陥れた一人だ。

今世では二度と関わりたくないと思っている。そのためにはあの国のことを知っておく必要がある。


「リアテオルはあの国が今どうなっているか知ってるの?」



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