英雄の平凡な妻

矢野りと

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10.裏の動き~キアヌ第一王子視点~②

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「今度こそアイラの尻尾を掴んで陛下にも諦めてもらうつもりだ。抜かりなく頼むぞ」

「誰に言ってるんですか、私は貴方の懐刀ですよ。それに王女の罪を暴くためとはいえ義弟を巻き込み可愛い妹家族の幸せな時間を犠牲にしているんです、絶対にこれが最後にしてみせます。
それよりキアヌ様こそ、正式な処分先の確保はお済ですか?」

「ああ、あちらも丁度空きが出たようで快く引き受けてくれるそうだ。クックック、あちらに作っておいた貸しがこんなに早く役に立つとは思ってもみなかったがな。
後はアイラを追い込むだけだ」

腹違いとはいえ実の妹に『1%の希望と99%の絶望しかない未来』を用意しているが、私はその状況を嘆いたりしていない。それどころか王家にいる害虫を駆除できる日を思うと笑いさえ込み上げてくる。ククック…。


そんなキアヌ第一王子の様子を目の当りにしてもジェームズは驚きはしない。そんなキアヌだからこそ彼はつき従っているのだ。

---頂点に立つものはこうでなくては駄目だ、私情に流され目を曇らせるようでは国が傾き民が苦しむ。
だがこの人は絶対に敵にしてはいけない。味方であれば心強いが…、敵に回したら骨すら残してもらえないだろう。


報告を終えたジェームズは最後に念押しをしてから部屋を出て行こうとする。

「もし妹家族が危なくなったら約束通り、秘密裏ルートで王女は処分しますから。
よろしいですよね?まあ駄目だと言われたらこちらも考えがありますが…」

主である私に怯むことなく意見を言うジェームズ。まあ少々強引な手段でアイラに籠絡されないだろう堅物の騎士を巻き込んだのは確かなので文句は言えない。
本当は何かあったらその騎士は捨て駒にするつもりだったが、あいつの義弟なら助けるしかあるまい。

---あいつなら私の寝首を搔いてもおかしくないからな…。

「分かっている。その時は許すからそう威嚇するな、ジェームズ。
だがそれは最後の手段だ。
欠陥王女でも最後まで王族としての価値を活かさなくては税金を納めている民に申し訳がないからな。クックック、そうだろう?」

「流石、キアヌ様ですね。見限る妹を骨の髄までしゃぶり尽くす…。…マサニキチク」

ジェームズは最後の言葉は聞こえない様にぼそりと呟くと静かに執務室を後にした。
だがその言葉はしっかりと私の耳に届いてる。

「クックク、ちゃんと聞こえていたぞ。鬼畜か…。まあ誉め言葉だから見逃してやるがな。
だが私から見たらお前も同じ穴の狢だがな」
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