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閑話~剣術稽古~
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キン!キン! ドス! バサァー ドザザザァー
剣が激しく交わる音と蹴り倒され、体が地面に転がる音が響いている。かれこれ一時間も剣の稽古は続いている。
シルビアとダイとサカトの3人で、交代しながら一対一の剣術稽古をするのはもう離宮の日課である。
最初は護衛騎士である2人が仕事の合間に行っていたのだが、それを見たシルビアがドレス姿のままが飛び入り参加し、今日に続いている。
専属侍女のサーサは剣を扱うことが出来ないので、いつも木陰でひとり椅子に座り様子を眺めている。
(正妃が剣術稽古で侍女がお茶してるっていいのかしら?普通逆よね)と思いながらお茶を飲んでいると、トト爺がいつの間にかひょっこり隣りに座っている。
「もうびっくりしましたよ、トト爺」
「すまんな、長年の癖でつい気配を消してな~」癖で気配を消すのはトト爺くらいである。
「それにしても見事な剣術だの。ダイ坊など苦戦しておるわ、ダイ坊は正攻法の剣術だからシルビア様の体術を巧みに雑ぜた剣は苦手なんじゃな~。ホッホッホ」
実力の有る者しか専属護衛騎士にはなれない、もちろんダイやサカトはかなりの腕前を持っている。その2人と互角に稽古をしているシルビアもかなりの実力者といえる。
「なんであんなにお強いのかしら?ニギ国では王女も剣術の英才教育を受けるの?」
「いや、受けんよ。帝王学は学ぶが、剣術は普通嗜み程度よ」
でもあれは嗜み程度の実力ではない、サーサが不思議な顔をしているとトト爺が質問してきた。
「なんで人は剣を学ぶと思う?」
「剣術を活かした仕事に就くためや趣味や何かを守るためかしら」
「では王女が剣を学ぶ理由は?」
(王女は剣術を仕事にしない、趣味ではあんな実力にはならない、では守るため? 何を…?)
サーサは正しい答えが分かってきたような気がした、だが信じたくなかった。
「お前さんが考えている通りじゃ。シルビア様は暗殺から自分自身を守るために強くなるしかなかったんじゃよ」
ニギ国の前王妃は10年前に暗殺され、9年前に国王と現王妃が再婚し翌年王子が誕生した。シルビアは前王妃の子で、前王妃の忘れ形見である王女を国王は溺愛していた。それが現王妃には我慢ならなかった。
それからシルビアの地獄が始まった。現王妃は母として表面的には可愛がっていたが、裏では幾度となく暗殺を企てた。
小国であるニギ国の王権は強くないので、国王は有力貴族の後ろ盾がある王妃を止める力はなかった。出来る事といえば娘を愛していないように振舞うことだった。幼い王女には国の内情など分からなく、父王の拒絶に絶望した。それ以後は笑顔という仮面を被り続け、自ら剣術を鍛えて生き延びるしかなかったのである。
「周辺国がきな臭くなってきた2年前に一応ニギ国の内情も調査したんじゃ、その時シルビア王女の状況も把握した。王族にはよく有る事だが、王女ゆえに逃げることも許されず、辛かったはずじゃな」
「前向きで明るいから人族の幸せな王女だとばかり…」
何事にも前向きで明るいシルビアからは一切陰を感じることがなかった。1人遠方の国に嫁いで来たのに、それは逆におかしな事なのだと今になって気づいた。
「そもそも年頃の王女が婚約者もおらず、今回輿入れしてきたのはおかしいと思わんか?
普通なら婚約者がいて多少なりともごたつくもんじゃ」
「そういえばそうね、ごたついてたのはオーサン国側だったわ。シルビア様の婚約者はどうしたのかしら」
「元からいなかったんじゃ。王女の幸せを許せない王妃が縁談を悉く潰してた。
今回の政略結婚が成立したのは、『獣人の嫁=不幸』だと人族の王妃が考えたからじゃよ」
聞けばシルビアはあの美貌と魅惑の微笑みで『微笑みの王女』と言われていたらしい。どんな時でも微笑みを絶やさず完璧な王女だったのだ。
真実を知った今では、それが鎧だったと分かる。隙を見せず、完璧に演じなければ死が忍び寄るから。
3人の剣術稽古はまだ続いている、真剣だがどこか楽しそうに剣を合わせるシルビアの表情は笑顔だ。でもその笑顔は偽りでないように見える、獣人国でやっと仮面を外せたのだと思いたい。
サーサはシルビアを笑わそうと決めた、そして一緒に笑っていこうと。
剣が激しく交わる音と蹴り倒され、体が地面に転がる音が響いている。かれこれ一時間も剣の稽古は続いている。
シルビアとダイとサカトの3人で、交代しながら一対一の剣術稽古をするのはもう離宮の日課である。
最初は護衛騎士である2人が仕事の合間に行っていたのだが、それを見たシルビアがドレス姿のままが飛び入り参加し、今日に続いている。
専属侍女のサーサは剣を扱うことが出来ないので、いつも木陰でひとり椅子に座り様子を眺めている。
(正妃が剣術稽古で侍女がお茶してるっていいのかしら?普通逆よね)と思いながらお茶を飲んでいると、トト爺がいつの間にかひょっこり隣りに座っている。
「もうびっくりしましたよ、トト爺」
「すまんな、長年の癖でつい気配を消してな~」癖で気配を消すのはトト爺くらいである。
「それにしても見事な剣術だの。ダイ坊など苦戦しておるわ、ダイ坊は正攻法の剣術だからシルビア様の体術を巧みに雑ぜた剣は苦手なんじゃな~。ホッホッホ」
実力の有る者しか専属護衛騎士にはなれない、もちろんダイやサカトはかなりの腕前を持っている。その2人と互角に稽古をしているシルビアもかなりの実力者といえる。
「なんであんなにお強いのかしら?ニギ国では王女も剣術の英才教育を受けるの?」
「いや、受けんよ。帝王学は学ぶが、剣術は普通嗜み程度よ」
でもあれは嗜み程度の実力ではない、サーサが不思議な顔をしているとトト爺が質問してきた。
「なんで人は剣を学ぶと思う?」
「剣術を活かした仕事に就くためや趣味や何かを守るためかしら」
「では王女が剣を学ぶ理由は?」
(王女は剣術を仕事にしない、趣味ではあんな実力にはならない、では守るため? 何を…?)
サーサは正しい答えが分かってきたような気がした、だが信じたくなかった。
「お前さんが考えている通りじゃ。シルビア様は暗殺から自分自身を守るために強くなるしかなかったんじゃよ」
ニギ国の前王妃は10年前に暗殺され、9年前に国王と現王妃が再婚し翌年王子が誕生した。シルビアは前王妃の子で、前王妃の忘れ形見である王女を国王は溺愛していた。それが現王妃には我慢ならなかった。
それからシルビアの地獄が始まった。現王妃は母として表面的には可愛がっていたが、裏では幾度となく暗殺を企てた。
小国であるニギ国の王権は強くないので、国王は有力貴族の後ろ盾がある王妃を止める力はなかった。出来る事といえば娘を愛していないように振舞うことだった。幼い王女には国の内情など分からなく、父王の拒絶に絶望した。それ以後は笑顔という仮面を被り続け、自ら剣術を鍛えて生き延びるしかなかったのである。
「周辺国がきな臭くなってきた2年前に一応ニギ国の内情も調査したんじゃ、その時シルビア王女の状況も把握した。王族にはよく有る事だが、王女ゆえに逃げることも許されず、辛かったはずじゃな」
「前向きで明るいから人族の幸せな王女だとばかり…」
何事にも前向きで明るいシルビアからは一切陰を感じることがなかった。1人遠方の国に嫁いで来たのに、それは逆におかしな事なのだと今になって気づいた。
「そもそも年頃の王女が婚約者もおらず、今回輿入れしてきたのはおかしいと思わんか?
普通なら婚約者がいて多少なりともごたつくもんじゃ」
「そういえばそうね、ごたついてたのはオーサン国側だったわ。シルビア様の婚約者はどうしたのかしら」
「元からいなかったんじゃ。王女の幸せを許せない王妃が縁談を悉く潰してた。
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聞けばシルビアはあの美貌と魅惑の微笑みで『微笑みの王女』と言われていたらしい。どんな時でも微笑みを絶やさず完璧な王女だったのだ。
真実を知った今では、それが鎧だったと分かる。隙を見せず、完璧に演じなければ死が忍び寄るから。
3人の剣術稽古はまだ続いている、真剣だがどこか楽しそうに剣を合わせるシルビアの表情は笑顔だ。でもその笑顔は偽りでないように見える、獣人国でやっと仮面を外せたのだと思いたい。
サーサはシルビアを笑わそうと決めた、そして一緒に笑っていこうと。
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