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13.話し合い

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----翌日----
国王の執務室には、ギルア・宰相・ガロン・シルビア・トト爺・サカトが揃っている。
みんな揃ってテーブルに着き、人数分の紅茶が並べてある。本来は臣下である宰相・側近ガロン・トト爺・護衛騎士サカトは後ろに控えて立っているべきだが、『何だか腰が痛いの~』というトト爺の呟きをウサギ獣人である宰相は聞き逃さなかった。すぐに臣下の分の椅子と紅茶を追加し、トト爺に着席を促した。『なんかすまんの。ホッホッホ』と言いながらちょこんと椅子に座る。
いったい何の弱みを握られているのかと宰相を見るが、聞くなと言わんばかりに目を逸らす。通りで国王の予定が漏れるはずである。

国王に呼び出されたシルビアは微笑みを浮かべて国王ギルアの言葉を待っている…待っている…。
---いつまでもあると思うな時間と金! by シルビア

いい加減どうしてやろうかと思っていると、またしてもトト爺が呟く、
「早く話さんかの~」
今度はギルアがびくりと反応する。…オーサン国の食物連鎖の頂点は草食動物で間違いないようだ…。

「正妃よ、財務課での改革を評価して新たな公務を頼みたい。その公務が終了するまでは財務課の仕事は一旦休んで構わん」
「正妃としての公務ならお受けしますので、内容をお願いします」
(上から目線は気に入らないけど、公私混同はしないわよ)

「後宮問題を解決する策を見つけてくれ」
「……」なんだか幻聴がする…。
「側妃達と自然消滅という角が立たない形で婚姻解消を望んでいる……」
「……」ここに馬鹿がいる。
(呆れてものが言えない!後宮を勝手に復活した挙句、側妃達が気に入らないから離婚したいだぁ~。寝言は寝て言え!) 

シルビアは極上の微笑みを披露し無言を貫く、ギルアも己の非が分かっているので強くは言えない。
誰も何も言わずにいると、『ズズズー』トト爺が紅茶を一気飲みしてから口を開いた。
「随分と勝手な言い分じゃな。それを解決したところでシルビア様に何のメリットがある?大方、ガーザの入れ知恵だろうな~。二人とも覚悟は出来ているんか……」
トト爺のつぶらな瞳が細められる、『仏のトト』出現である。トト爺の裏の顔を実体験で知っているギルアとガーザは覚悟は出来て…いないようだ、フサフサの尻尾と丸い尻尾はこれでもかと股の間に隠れている。
…誰が国王なのか、もはや謎である…。

頭の中で算盤を弾いていたシルビアの考えが纏まり、この公務を受けるメリットを見出した。
『時間稼ぎ有り難う!』シルビアは、考える時間が取れるように脅しを掛けてくれていたトト爺にこっそりウインクをする。

「この公務お引き受けします。ただし条件があります」 
「言ってくれ」
「後宮問題の解決策を見つけますが、実行する努力はご自分でして下さい」
(人を当てにばかりしないで自分で汗水垂らせ!)
「勿論だ!」
(なるべく頑張る…)
「でも後宮から側妃が居なくなったら、後宮は廃止され番様と結婚出来なくなりますがよろしいのですか?」
(後宮何のために復活させたか思い出せ!番のために復活させた後宮を潰したら意味ないじゃん、お分かり!)
「………っあ!」…忘れてた…。

「そこで提案です! 後宮を廃止した後に番様と結婚出来るようにしましょう♪」
「「「出来るのか(んですか)?!」」」
「出来ます。私と離縁すればいいのです!白い結婚が1年間続いた場合オーサン国では、女性側から離縁を申し出る事が出来ると聞きました、そうですね?」
「ああその通りだ」
「後宮廃止された暁には、私がその権利を行使して離縁します。なのでその後に番様との結婚は可能です。ただ離縁後もオーサン国に住む許可と商会を立ち上げる資金をお願いします」
(これでお互いウィンウィンよ、悪くない提案でしょ。さあ、即決して頂戴♪)
「……分かった条件をのむ。公務をよろしく頼む」
「かしこまりました♪」
とんとん拍子に話が纏まり上機嫌のシルビアは、トト爺やサカトと作戦成功と喜びながら部屋を出ていった。

一方ギルアは、意外な方向に話がいったが希望通りの結果に喜びを感じ…るはずなのに、感じていない。
それどころか、自分と離縁する事を喜んでいるシルビアを見ると複雑な気持ちになってくる。なんかモヤモヤしているが、この気持ちの意味は分からない。
ガロンに胸がモヤモヤすると話すと
「それは飲み過ぎだな~。昨日一緒に今日の交渉成功の願掛けで浴びるほど飲んだろう。ワッハッハ」
ギルアに芽生えたかもしれない小さな恋心をバカ犬が踏み潰していくのであった。


****************************

----話し合い後の腹黒同士----

「トト爺やってくれましたね?」
「何のことやらじゃ~」
「シルビア様の能力はオーサン国の宝ですのに、それを離縁など…!
何とか二人を近づけて名実ともに夫婦とする予定でしたのに…」
宰相がギルアに正妃への依頼を進めたのは問題解決の為ではない、正妃に見向きもしないギルアに接点を持たせるためだ。そして距離を縮めさせ、媚薬でも使って既成事実を作り、正妃の地位を盤石にさせようと考えていたのだ。
「お前さんの考えは宰相として正しい判断じゃ。だがな儂をはじめ離宮の者達はシルビア様の幸せの為に動くぞ~」
『仏のトト』に牽制されては、宰相も迂闊な事は出来ない。
「今のギル坊には、シルビア様は勿体無いでな~」
「ですがっ…」
トト爺の睨みに黙るしかない宰相。
「わしも鬼ではない。ギル坊が成長しシルビア様に相応しい男になったら邪魔はせんの~」
「………」
「亀の甲より年の劫じゃ~。ホッホッホ」

『ウサギ獣人の突然変異』VS『仏のトト』はトト爺に軍配が上がった。



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