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24.夏祭り前③
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「これはどういうことだ!牛族の謀反と受け取るがいいのか!」
国王ギルアの声が謁見室に響き渡る。大声を出しているわけではないが、黒毛を逆立て覇気を纏ったその声に牛族の長ルーガンは頭も上げられずガタガタ震えている。
今、謁見室には国王ギルア・宰相・側近ガロン・正妃シルビア・側妃パトア・パトアの父である牛族長・重鎮数名がいるだけだ。今回、このような場を設けられた意味を知らないのはルーガンだけである、他の者は事前に知らされているのでルーガンに助け舟を出す者は誰もいない。
「国王様、それはどういう事でしょうか?我が一族は謀反など考えた事もございません。その証に娘のパトアが側妃として誠心誠意お仕えしております」
動揺し震える声で答えているが、ルーガンはギルアの言葉の意味が分からず困惑している様子だ。周りに助けを求めようとキョロキョロするが、誰からも助けの手は入らない。
「そのパトア妃が妊娠しているのです、医者の診察により六ヶ月目だと判明しています。牛族は他の種を仕込んだ娘を側妃として送り出しましたね?これがどんな意味と理解されるかお判りでしょう」
宰相が冷たく言い放った言葉に、驚愕の表情をして娘パトアの方を見るルーガン、『どうして?何故だ?』と小さな声でブツブツと呟いている。この様子を確認し、ギルア達は牛族の謀反はないと判断した。次に考えられるのは、単独の陰謀だ。
「パトア妃、単独の犯行のようだな。何か申し開きはあるか!」
ギルアは冷たく睨みつけながら、言葉を投げつける。
「も、申し訳ありません。どうしたらいいか分からなくて、うっうっう……」
パトアはギルアの問い掛けに暫くまともに答える事もなく、ただ泣き続けた。隣にいる父ルーガンに宥められて、ようやく事の顛末を話し始めた。
パトアは冬に隣領地の猿族長の次男ネイサンと深い関係になり妊娠したが、ネイサンに妊娠の事を伝えると連絡が付かなくなった。結婚前なので親にも言えず悩んでいると、国王の側妃の話が舞い込んできた。ネイサンからの連絡がない不安と周りからの祝福で、兎に角、結婚すれば万事上手くいくと考えてしまったということだった。
「はぁー、パトア様。妊娠期間はどう誤魔化そうと思っていたのですか?」
宰相が『貴方馬鹿ですか』というように尋ねると、
「それは、ちょっと早産だったと言い張るつもりでした」
「では生まれた子の容姿は?獣人の子供は、両親が同種族ではない場合どちらか片方の特徴のみが遺伝しますよね。狼と牛で、猿が生まれたらおかしいですよね!」
「そこまで考えていませんでした。あっ、でも『奇跡の子』ならいけますよね?」
「「「「………」」」
(((『奇跡の子』ってなんだよ…。お前、馬鹿牛だろ?他の牛獣人に謝れ!)))
残念な側妃パトアの話により、牛族謀反の疑いも完全に晴れ、単独陰謀説も消えた。
国王側としては、政治的陰謀がない事が確認できればあとは側妃からパトアを外せばいいだけである。
ルーガンは牛族の長としては安堵しているが、父としては茫然自失である。可愛い愛娘が幸せになると思って側妃として送り出したはずなのに、男に騙され妊娠までしてたのだ。そのうえ、娘のひたすら浅い考えに頭がついていけない。兎に角、隣のサル族へ報復をしなければと、それを国王に認めてもらおうとする。
「国王様、この度は誠に申し訳ございませんでした。今回の原因は我が娘パトアの浅慮でございますゆえ、牛族長としてどんな処罰もお受けします。ただ猿族ネイサンの行いは許し難いものです、どうか猿族との戦いはお許しください」
「お前は大事なことを忘れていないか。猿族への報復より先にパトア妃をどうするか考えるべきだろう。このまま側妃として後宮にいる事は許されん」
ギルアの言葉を聞き、娘の方を見ると、パトアは何か決心したような顔をしている。
「わ、私はまだネイサンを愛しています。お腹の子供の為にもネイサンと結婚したいです!」
「パトア!何を言っているんだ、あんな男と結婚しても幸せになれん。領地に戻って家族の元で出産しなさい」
「でもでも、後宮から追い出された女が領地に戻っても、居場所なんてないわ!」
「……」
確かにその通りだ。牛族の期待を背負い、祝福されて側妃になったのに、他の男の子を身籠って追い出されたパトアを、以前と同じ様に一族が受け入れるとは思えない。ルーガンも黙り込んでしまう。
今まで事の成り行きを静観していたシルビアが初めて口を開いた。
「ねえ、パトア様。猿獣人のネイサンを本当にまだ愛してますの?結婚出来たとしても、そんな頼り無い男とは苦労しますよ」
「あんな男でも愛しています。それだけは変わりません!それにこの子の父親です」
今までグズグズしていたパトアが、きっぱりと言い切った。
「ではこうするのはどうでしょう。【パトア様とネイサンは深く愛し合っていたが、側妃になる為泣く泣く別れた。その事を結婚後知ったギルア様は寛大な心で、お二人の愛を認め離縁し、ネイサンにパトア様を下賜されるのです。
お子様の誕生は少しずらして発表すれば問題ないでしょう。ギルア様のお墨付きがあるので、パトア様は領地に戻っても肩身の狭いおもいをせず、結婚も出来ます】いかがですか?」
「確かに正妃様の案は素晴らしいですが、ネイサンが大人しく娘と結婚するとは思えません。もし結婚出来たとしても幸せになれるかどうか…」
ルーガンは娘パトアの再婚が上手くいくと思えないので、正妃の案に頷けないでいる。
「今回の事は、パトア様の妊娠を知っていたネイサンの陰謀とも言えます、ねぇ宰相?」
「その通りです。ネイサンが陰謀を企んでいたとなれば、猿族の謀反とも捉えることが出来ます、ギルア様いかがしますか?」
「そこを丁寧に説明し下賜の了承で不問にすると文書を作りに、直ぐに猿族長に送れ。きっと猿族の総意によって、ネイサンはパトアの婿として牛族の領地に送り出されるはずだ」
シルビアの提案とギルアの即決即断により、ネイサンとの結婚は確定された。
ルーガン親子はびっくりすると同時に感謝の念が溢れてくる。呼び出された当初はもう駄目だと思っていたが、今は未来がほんの少し見えてきた気がする。
「パトア様、二度目の結婚はご自分で決めたものです。幸せになるのを待つのではなく、ネイサンを調教して自分自身の手で幸せを作り上げなさい。幸せは掴み取れるものです!それに婿入りですから、妻の味方はたくさんいますわ♪ね、ルーガン様!」
「その通りです、正妃様。ネイサンが娘と孫を傷つけたら我ら牛族は黙っていません!」
とてもいい流れで話が運び、このまま万事解決で終了かとほとんでの者が思っていると、パトアが嬉しさのあまり更に言葉を発した。
「ギルア様、寛大な処置有り難うございます。シルビア様、私、夜の調教より一層頑張ります!」
(((イヤイヤ、『調教』=『夫の言動の躾』であって、夜の話ではないから!)))心の声で、みんな一斉に間違いを指摘している。
「うふふ、『調教』ってそっちではなかったんですけど、まぁいいわ♪パトア妃の夜の調教の腕は国王も認めていますからね」
(((よくないだろう!!!)))デリケートな部分がそんな適当でいいわけがない…。そして、名前を出されたギルアに同情している、(((調教お疲れ様です…で合ってますか?)))。
折角いい話で終わるはずだったのに、最後の最後で変な方向に話が進んでしまった。ギルアは辛うじて立ってはいるが魂が抜けている。(何故、俺がこんな目に…?調教を受けていた前提とは…)
その後、国王の復活を待つことなく冷静沈着な宰相が今回の処遇を書面で確認し、謁見は無事終了となった。牛族長ルーガンとパトアは、今回の恩情に深く感謝し、ギルアに固く忠誠を誓った。
パトア妃の妊娠は箝口令が出され、シルビアの筋書き通りにトト爺が噂を流し、周囲の反発もなくパトア妃との離縁が成立となるのである。
---寛大な処置で国王としてのを株を上げたはずなのに、最後のやり取りで、『調教経験者』の烙印を押されてしまったギルア…やはり、神様は全部を見ているのである。
国王ギルアの声が謁見室に響き渡る。大声を出しているわけではないが、黒毛を逆立て覇気を纏ったその声に牛族の長ルーガンは頭も上げられずガタガタ震えている。
今、謁見室には国王ギルア・宰相・側近ガロン・正妃シルビア・側妃パトア・パトアの父である牛族長・重鎮数名がいるだけだ。今回、このような場を設けられた意味を知らないのはルーガンだけである、他の者は事前に知らされているのでルーガンに助け舟を出す者は誰もいない。
「国王様、それはどういう事でしょうか?我が一族は謀反など考えた事もございません。その証に娘のパトアが側妃として誠心誠意お仕えしております」
動揺し震える声で答えているが、ルーガンはギルアの言葉の意味が分からず困惑している様子だ。周りに助けを求めようとキョロキョロするが、誰からも助けの手は入らない。
「そのパトア妃が妊娠しているのです、医者の診察により六ヶ月目だと判明しています。牛族は他の種を仕込んだ娘を側妃として送り出しましたね?これがどんな意味と理解されるかお判りでしょう」
宰相が冷たく言い放った言葉に、驚愕の表情をして娘パトアの方を見るルーガン、『どうして?何故だ?』と小さな声でブツブツと呟いている。この様子を確認し、ギルア達は牛族の謀反はないと判断した。次に考えられるのは、単独の陰謀だ。
「パトア妃、単独の犯行のようだな。何か申し開きはあるか!」
ギルアは冷たく睨みつけながら、言葉を投げつける。
「も、申し訳ありません。どうしたらいいか分からなくて、うっうっう……」
パトアはギルアの問い掛けに暫くまともに答える事もなく、ただ泣き続けた。隣にいる父ルーガンに宥められて、ようやく事の顛末を話し始めた。
パトアは冬に隣領地の猿族長の次男ネイサンと深い関係になり妊娠したが、ネイサンに妊娠の事を伝えると連絡が付かなくなった。結婚前なので親にも言えず悩んでいると、国王の側妃の話が舞い込んできた。ネイサンからの連絡がない不安と周りからの祝福で、兎に角、結婚すれば万事上手くいくと考えてしまったということだった。
「はぁー、パトア様。妊娠期間はどう誤魔化そうと思っていたのですか?」
宰相が『貴方馬鹿ですか』というように尋ねると、
「それは、ちょっと早産だったと言い張るつもりでした」
「では生まれた子の容姿は?獣人の子供は、両親が同種族ではない場合どちらか片方の特徴のみが遺伝しますよね。狼と牛で、猿が生まれたらおかしいですよね!」
「そこまで考えていませんでした。あっ、でも『奇跡の子』ならいけますよね?」
「「「「………」」」
(((『奇跡の子』ってなんだよ…。お前、馬鹿牛だろ?他の牛獣人に謝れ!)))
残念な側妃パトアの話により、牛族謀反の疑いも完全に晴れ、単独陰謀説も消えた。
国王側としては、政治的陰謀がない事が確認できればあとは側妃からパトアを外せばいいだけである。
ルーガンは牛族の長としては安堵しているが、父としては茫然自失である。可愛い愛娘が幸せになると思って側妃として送り出したはずなのに、男に騙され妊娠までしてたのだ。そのうえ、娘のひたすら浅い考えに頭がついていけない。兎に角、隣のサル族へ報復をしなければと、それを国王に認めてもらおうとする。
「国王様、この度は誠に申し訳ございませんでした。今回の原因は我が娘パトアの浅慮でございますゆえ、牛族長としてどんな処罰もお受けします。ただ猿族ネイサンの行いは許し難いものです、どうか猿族との戦いはお許しください」
「お前は大事なことを忘れていないか。猿族への報復より先にパトア妃をどうするか考えるべきだろう。このまま側妃として後宮にいる事は許されん」
ギルアの言葉を聞き、娘の方を見ると、パトアは何か決心したような顔をしている。
「わ、私はまだネイサンを愛しています。お腹の子供の為にもネイサンと結婚したいです!」
「パトア!何を言っているんだ、あんな男と結婚しても幸せになれん。領地に戻って家族の元で出産しなさい」
「でもでも、後宮から追い出された女が領地に戻っても、居場所なんてないわ!」
「……」
確かにその通りだ。牛族の期待を背負い、祝福されて側妃になったのに、他の男の子を身籠って追い出されたパトアを、以前と同じ様に一族が受け入れるとは思えない。ルーガンも黙り込んでしまう。
今まで事の成り行きを静観していたシルビアが初めて口を開いた。
「ねえ、パトア様。猿獣人のネイサンを本当にまだ愛してますの?結婚出来たとしても、そんな頼り無い男とは苦労しますよ」
「あんな男でも愛しています。それだけは変わりません!それにこの子の父親です」
今までグズグズしていたパトアが、きっぱりと言い切った。
「ではこうするのはどうでしょう。【パトア様とネイサンは深く愛し合っていたが、側妃になる為泣く泣く別れた。その事を結婚後知ったギルア様は寛大な心で、お二人の愛を認め離縁し、ネイサンにパトア様を下賜されるのです。
お子様の誕生は少しずらして発表すれば問題ないでしょう。ギルア様のお墨付きがあるので、パトア様は領地に戻っても肩身の狭いおもいをせず、結婚も出来ます】いかがですか?」
「確かに正妃様の案は素晴らしいですが、ネイサンが大人しく娘と結婚するとは思えません。もし結婚出来たとしても幸せになれるかどうか…」
ルーガンは娘パトアの再婚が上手くいくと思えないので、正妃の案に頷けないでいる。
「今回の事は、パトア様の妊娠を知っていたネイサンの陰謀とも言えます、ねぇ宰相?」
「その通りです。ネイサンが陰謀を企んでいたとなれば、猿族の謀反とも捉えることが出来ます、ギルア様いかがしますか?」
「そこを丁寧に説明し下賜の了承で不問にすると文書を作りに、直ぐに猿族長に送れ。きっと猿族の総意によって、ネイサンはパトアの婿として牛族の領地に送り出されるはずだ」
シルビアの提案とギルアの即決即断により、ネイサンとの結婚は確定された。
ルーガン親子はびっくりすると同時に感謝の念が溢れてくる。呼び出された当初はもう駄目だと思っていたが、今は未来がほんの少し見えてきた気がする。
「パトア様、二度目の結婚はご自分で決めたものです。幸せになるのを待つのではなく、ネイサンを調教して自分自身の手で幸せを作り上げなさい。幸せは掴み取れるものです!それに婿入りですから、妻の味方はたくさんいますわ♪ね、ルーガン様!」
「その通りです、正妃様。ネイサンが娘と孫を傷つけたら我ら牛族は黙っていません!」
とてもいい流れで話が運び、このまま万事解決で終了かとほとんでの者が思っていると、パトアが嬉しさのあまり更に言葉を発した。
「ギルア様、寛大な処置有り難うございます。シルビア様、私、夜の調教より一層頑張ります!」
(((イヤイヤ、『調教』=『夫の言動の躾』であって、夜の話ではないから!)))心の声で、みんな一斉に間違いを指摘している。
「うふふ、『調教』ってそっちではなかったんですけど、まぁいいわ♪パトア妃の夜の調教の腕は国王も認めていますからね」
(((よくないだろう!!!)))デリケートな部分がそんな適当でいいわけがない…。そして、名前を出されたギルアに同情している、(((調教お疲れ様です…で合ってますか?)))。
折角いい話で終わるはずだったのに、最後の最後で変な方向に話が進んでしまった。ギルアは辛うじて立ってはいるが魂が抜けている。(何故、俺がこんな目に…?調教を受けていた前提とは…)
その後、国王の復活を待つことなく冷静沈着な宰相が今回の処遇を書面で確認し、謁見は無事終了となった。牛族長ルーガンとパトアは、今回の恩情に深く感謝し、ギルアに固く忠誠を誓った。
パトア妃の妊娠は箝口令が出され、シルビアの筋書き通りにトト爺が噂を流し、周囲の反発もなくパトア妃との離縁が成立となるのである。
---寛大な処置で国王としてのを株を上げたはずなのに、最後のやり取りで、『調教経験者』の烙印を押されてしまったギルア…やはり、神様は全部を見ているのである。
応援ありがとうございます!
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