4 / 58
1-4 意地悪なメイド達
しおりを挟む
「お母様。出掛けて来て宜しいでしょうか?」
紅茶を飲み終えると私は母に尋ねた。
「出掛けるって一体何処に?お金だってないくせに。」
紅茶を飲みながら本を読んでいる母はこちらを見ようともせずに言った。私は生まれて18年間、お小遣いと言う物を貰った事が無い。どうしても欲しいものがある時は父か母に買いたい物を伝え、何の為に、またどれ位の費用がかかるのかを説明しなければならない。ただし、父の場合はまともに取り合ってくれないので文書にまとめめ、執事に書類を頼む必要があるのだが私の希望が叶った試しは今迄一度も無い。本当に父に文書を手渡しているのか怪しいものである。なので私が今迄貰って来たお小遣いは全て母が父から貰っているお金を分けてもらっている様な状態だ。これだから母にも頭が上がらない。
だが、今回は違う。
「いいえ、お金は必要ありません。少し見学に行くだけですから。」
「見学?一体何を見学に?」
ここでは母はようやく顔をあげた。
「はい、今流行のドレスはどのようなデザインなのか調査しに行くのです。」
そして私は木綿で作ったお手製のバッグにスケッチブック、そしてカサンドラのおさがりの色鉛筆を入れた。
「そう、それで町の洋品店へ行ってドレスを見に行って来るのね?行くのは構わないけど、昼までに戻って来なければ昼食は抜きになるわよ。全く・・・あの娘が屋敷にやって来てからは、最近お前と同様、私までメイドに馬鹿にされてきているように感じるわ・・・私はこんなに才女なのに、それを活かす事も出来ないなんて・・・。」
母は悔しそうに爪を噛みながら言う。その姿を見ながら私は思う。そんなに自分が優秀だと思うなら、あんな父とはさっさと別れるべきなのに。
「では、遅くならないように急いで行ってきます。」
私は帽子を被ると、自室を後にした。
廊下を歩いていると、数人の使用人達にすれ違ったが、かれ等は一度も私に挨拶をした事が無い。それどころかこれ見よがしにわざと私を見ながら囁き合っているのだ。中には嘲笑している者もいる。それらを無視し、廊下の角を曲がろうとした時、突然ほうきの柄が飛び出してきた。
「!」
咄嗟の事で、よけきれず足を引っかけた私はそのまま無様に床に倒れてしまった。
「い・・いった・・・・い・・・。」
床に這いつくばったまま、見上げるとそこにはカサンドラ付きの3人のメイドがクスクス笑いながら立っていた。
「・・・。」
無言で立ち上がり、スカートについた埃を払い、彼女達を睨みつけた。
「何をするの?」
「ほうきで廊下の掃除をしていただけですよ?」
「ええ。そう。」
「そこへお嬢様が通りかかったんですよね?」
3人は互いに顔を見渡しながら意地悪い笑みを浮かべて言った。
「私、今このほうきで転んだのよ?」
「「「・・・。」」」
「何か言う事は無いのかしら?」
「ありません。勝手に転んだのはお嬢様ですから。」
すると中でも一番私に嫌がらせをしてくる黒髪のメイドが言った。
「・・・っ!」
恐らく、彼女達は私に悪い事をしたとは思ってもいないのだろう。屋敷の主から冷たい仕打ちを受ければ、使用人達もその相手を侮辱する・・それが貴族社会と言う物なのかもしれない。
しかし、それはあくまで使用人達の間の世界の話では無いだろうか?私は仮にもこの伯爵家の一人娘、なのに何故このような扱いを受けなければならないのだろう。
だが、こんな所で無駄な時間を取る訳にはいかない。これから私は今、貴族令嬢達の間で高い人気のあるデザイナーの店へ行き、リサーチしてこなければならないからだ。
「もう・・いいわ。」
私は立ち上がるとその場を後にした。
背後にメイド達の冷たい笑い声を聞きながら―。
紅茶を飲み終えると私は母に尋ねた。
「出掛けるって一体何処に?お金だってないくせに。」
紅茶を飲みながら本を読んでいる母はこちらを見ようともせずに言った。私は生まれて18年間、お小遣いと言う物を貰った事が無い。どうしても欲しいものがある時は父か母に買いたい物を伝え、何の為に、またどれ位の費用がかかるのかを説明しなければならない。ただし、父の場合はまともに取り合ってくれないので文書にまとめめ、執事に書類を頼む必要があるのだが私の希望が叶った試しは今迄一度も無い。本当に父に文書を手渡しているのか怪しいものである。なので私が今迄貰って来たお小遣いは全て母が父から貰っているお金を分けてもらっている様な状態だ。これだから母にも頭が上がらない。
だが、今回は違う。
「いいえ、お金は必要ありません。少し見学に行くだけですから。」
「見学?一体何を見学に?」
ここでは母はようやく顔をあげた。
「はい、今流行のドレスはどのようなデザインなのか調査しに行くのです。」
そして私は木綿で作ったお手製のバッグにスケッチブック、そしてカサンドラのおさがりの色鉛筆を入れた。
「そう、それで町の洋品店へ行ってドレスを見に行って来るのね?行くのは構わないけど、昼までに戻って来なければ昼食は抜きになるわよ。全く・・・あの娘が屋敷にやって来てからは、最近お前と同様、私までメイドに馬鹿にされてきているように感じるわ・・・私はこんなに才女なのに、それを活かす事も出来ないなんて・・・。」
母は悔しそうに爪を噛みながら言う。その姿を見ながら私は思う。そんなに自分が優秀だと思うなら、あんな父とはさっさと別れるべきなのに。
「では、遅くならないように急いで行ってきます。」
私は帽子を被ると、自室を後にした。
廊下を歩いていると、数人の使用人達にすれ違ったが、かれ等は一度も私に挨拶をした事が無い。それどころかこれ見よがしにわざと私を見ながら囁き合っているのだ。中には嘲笑している者もいる。それらを無視し、廊下の角を曲がろうとした時、突然ほうきの柄が飛び出してきた。
「!」
咄嗟の事で、よけきれず足を引っかけた私はそのまま無様に床に倒れてしまった。
「い・・いった・・・・い・・・。」
床に這いつくばったまま、見上げるとそこにはカサンドラ付きの3人のメイドがクスクス笑いながら立っていた。
「・・・。」
無言で立ち上がり、スカートについた埃を払い、彼女達を睨みつけた。
「何をするの?」
「ほうきで廊下の掃除をしていただけですよ?」
「ええ。そう。」
「そこへお嬢様が通りかかったんですよね?」
3人は互いに顔を見渡しながら意地悪い笑みを浮かべて言った。
「私、今このほうきで転んだのよ?」
「「「・・・。」」」
「何か言う事は無いのかしら?」
「ありません。勝手に転んだのはお嬢様ですから。」
すると中でも一番私に嫌がらせをしてくる黒髪のメイドが言った。
「・・・っ!」
恐らく、彼女達は私に悪い事をしたとは思ってもいないのだろう。屋敷の主から冷たい仕打ちを受ければ、使用人達もその相手を侮辱する・・それが貴族社会と言う物なのかもしれない。
しかし、それはあくまで使用人達の間の世界の話では無いだろうか?私は仮にもこの伯爵家の一人娘、なのに何故このような扱いを受けなければならないのだろう。
だが、こんな所で無駄な時間を取る訳にはいかない。これから私は今、貴族令嬢達の間で高い人気のあるデザイナーの店へ行き、リサーチしてこなければならないからだ。
「もう・・いいわ。」
私は立ち上がるとその場を後にした。
背後にメイド達の冷たい笑い声を聞きながら―。
73
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる