虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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1-5 私は画家?

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 私は馬車も御供する者も連れずに、歩いて20分程の下町へとやって来た。何故お付きの者が誰もいないか・・・そんな事は簡単だ。私には一度だってそんなものを父は付けてくれた事が無かったからだ。それなのに、父はカサンドラだけは別格扱いする。町へ行くともなれば立派な馬車を用意し、メイドにフットマンを付け、お金は湯水のように平気で使わせる。一体何故実の娘と従妹をここまで区別するのだろうか?私は本当に父の実の娘なのだろうか?その事を一度母に話した時、激しく頬を叩かれた事があるので、以来二度と母にはその疑問をぶつけないようにしていた。
 
 綺麗に舗装された石畳を鼻歌を歌いながらのんびり歩いていくと、やがてメインストリートに出る。その場所は一番人通りも激しく、当然立ち並ぶ店はどれも人気店ばかりだ。アクセサリーショップや、雑貨店。香水を扱う店もあれば、スイーツ店もある。そして、一番賑わっているのが、昨年オープンしたばかりの洋品店だ。
その名も『レディ・アート』。最先端デザインの洋服やドレスを扱う店である。中でも特徴的なのが、この店のブランドを意味する刺繍。美しい蝶が必ず衣装の端々に刺繍されているのだ。

「うまい具合に営業戦略を立てているわよね。」

私は店の前に立ち、ウィンドウを眺めながら呟いた。本来ならこの店の前でマネキンが着ているドレスを描き写したいが、そんな事をすればデザインを盗むライバル店の回し者と思われて掴まりかねない。私は抜群の記憶力を持っている。だからここに並ぶ服やドレスをじっくり目に焼き付けて、後で何処かでスケッチブックに描き写そう。

じ~っ・・・。

ウィンドウを眺める事、約20分。途中、店員がショーウィンドウ越しに気味悪そうに私を見ていたが、特に追い払われる事も無かったので、私は思う存分ドレスのデザインを脳裏に焼き付けると、その場を後にした。

「さて、どこで絵を描こうかな・・・。」

辺りをキョロキョロしてみると、おあつらえ向きに広場があり、そこに真っ白いベンチが等間隔に3台並んでいた。私は誰も座っていないベンチに腰掛けると早速袋の中からスケッチブックと色鉛筆を取り出すと、先ほどのショーウィンドウで見たドレスを記憶を頼りに描き始めた。何を隠そう、私は頭が良いだけでは無く、絵の才能も溢れているのだ。

「こんな感じのデザインだったよね・・・。」

あの店に並んでいたドレスの色はクリームイエロー。ツルツルしたサテン生地の様なベアトップのフレアーロングドレス。さらに上半身だけは五分袖のレースが縫い付けられ、ウエスト部分は太めのリボンが付いている。そして・・・一番の特徴はドレスの裾部分には美しい蝶の刺繍が施されている・・・。
私はシャッシャッと色鉛筆を夢中で走らせていたので、ちっとも気が付かなかった。いつの間にか私の周囲には人が集まり、私の描いているイラストを食い入るように見ていたと言う事に・・・。

「出来たわっ!」

ついに完成したイラストを掲げた時、一斉に拍手が起こった。

「え?え?」

慌てて周囲を見渡すとそこには10数名の人だかりが出来ており、皆が私のイラストを見て拍手喝さいを送っている。

「いや~なんて素晴らしい絵なんだっ!」

「本当・・素敵なドレスねえ・・・。」

「驚いたよっ!こんな僅かな色でこれほどの絵を描けるなんて・・・。」

誰もが尊敬の眼差しで私を見ている。今まで私は家の者達から蔑みの目でしか見られて事が無かったので、彼らの視線がとても眩しく、恥ずかしくなってしまった。

「あ・・・ありがとうございます・・・。」

思わず、礼を言うとますます拍手は大きくなり・・私は彼らにスケッチブックを直接手渡してイラストを見せて上げ、皆が感心しながら一人、また一人と去って行った。

「ふう・・・一体今のは何だったんだろう・・・。」

ため息をついた私はポツリと言った。

「そう言えば今、何時なんだろう・・・。」

すると、私の背後から男性の声が聞こえてきた。

「今は午後の1時半だよ。レディ。」

「え?」

慌てて振り向くと、そこには黒い髪に青い瞳の美青年が私をじっと見下ろしていた―。
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