23 / 58
2-9 取引
しおりを挟む
「ヤコブ・・・貴方、仮にもシェフなのでしょう?なのに何故あんな・・下働きの人間でも食べないような料理をこの私に出していた訳?」
「う・・そ、それは・・旦那様に命じられたからだ・・・。」
ヤコブはたかだかシェフのくせに私に横柄な口の利き方をする。
「ふ~ん・・お父様に命じられたの・・・。だけど、貴方はこの屋敷のシェフでありながら・・伯爵令嬢の私にカチカチのパンや冷めきった、具材も味も殆ど無いスープを出していたのね?」
「ああ・・そうだ。旦那様がこの俺を拾ってくれたから・・今の俺があるんだ。だから旦那様の命令は絶対なのだ。」
ヤコブは腕組みをしながら私を見下ろすと言った。
「あ、そう・・・。実はね・・私最近町でお気に入りのパン屋を見つけたのよ。そのパン屋の名前は『パネム』と言うのだけど、とっても人気でいつも行列が出来ているのよね・・・。安くて美味しいし、しかも種類が豊富となれば当然町の人達は買いに行くわよねえ?私もあんなに美味しいパンを口にするのは生まれて始めてだったわ。だってこの屋敷ではカビが生えかかったようなカチカチのパンしか出せないのですものねえ?」
「な・・何だって・・・?」
ヤコブの眉間にしわが寄り、顔が徐々に怒りの為か赤くなっていく。
「ライザ様は・・俺の腕を馬鹿にする気なのか・・・?」
「違うわ。馬鹿にする機などまったくないけれど・・・ああ。そう言えばこんな事もあったわ。実はねジュリアン侯爵様という方にお肉料理がメインのレストランに連れて行った貰った事があったの。その店はお客さんが多くてとても賑わっていたわ。それに出されたお肉もとっても美味しくて・・・。だから思ったのよ。この屋敷には私の為にまともな料理を作れる料理人がいないから、私が個人的に自分専用の料理人を雇おうかと思ってるの。ちょうどここに金貨100枚あるしね。」
私はわざともって来た金貨の袋をジャラジャラさせて中から1枚取り出して見せた。
「!そ、それは・・・!」
それを見た途端、ヤコブの顔色が変わった。それは当然の事だろう。父はとても強欲でケチな男だ。お金はあるくせに使用人達を安い給料でこき使っている。今目の前のシェフであるヤコブもそうだ。私が取り出した金貨1枚は彼等の給料の2ヵ月分に該当する。
「私はね、彼らを1カ月分の給料を金貨1枚分の賃金で支払おうかと思っているの。勿論私専属だから私の分だけ料理を作らせるつもり。彼等は町で人気店を作り上げているから楽しみだわ・・。それにもし、彼らの腕がこの厨房で認められれば、貴方のシェフの地位も危うくなるかもね?」
私は背の高いヤコブを睨み付けるように言った。
「クッ・・・!」
ヤコブは悔しそうに拳を握りしめると言った。
「・・・何が望みなんですか・・?」
「私にも・・お父様たちと同じ料理を出して頂戴。あんな料理・・食べれたものじゃ無いわ。大体この私を見れば分かるでしょう?」
私は両手を広げてヤコブに言った。
頬はこけ、やせ細った貧相な身体・・・。それは長年に渡り、栄養状態の悪い粗末な食事しか食べて来なかった結果だ。父は私を地味な女と言ったが・・・あんな人並み以下の食事ばかり与え続けられていては、肌の状態も悪くなるし、髪の艶も無くなる。何よりあばら骨が見えるような痩せ細った身体なのだから見栄えが悪くなっても仕方ない。
「・・・・。」
ヤコブは私をじっと見つめた。恐らくこれ程私を注視する事は無かっただろう。
「分かりました・・・。」
初めてヤコブの瞳に同情の色が宿った。
「ライザお嬢様にも・・・同じ食事を提供します。」
ヤコブは頭を下げながら言った。
「ありがとう、では今夜から私の部屋に持って来てくれる?もう家族と食事を取るのは辞めにしたから。私の部屋は今は南棟の3階、階段を登って手前から3つ目の部屋よ。隣はカサンドラの部屋だからすぐに分かるでしょう?」
そう、私はわざとカサンドラの隣の部屋の空き部屋を自分の部屋にしたのだ。もうこれ以上この屋敷で誰にも馬鹿にされない為に・・・!
「ああ~気分がいい!」
厨房を出た私は邸宅の中庭のベンチに座って伸びをした。一応、ヤコブには謝礼金として金貨3枚を渡した。1枚はヤコブの為に、残りの2枚は10人いる料理人達に分けるようにと、敢えて料理人を全員集めた所で私はヤコブに言いつけた。こうしておけばヤコブは金貨を独り占めする事は出来まい。
私は悪女のになると決めたが、きちんと筋は通すつもりである。父のような業突く張りな真似は決してしない。私の為に尽力を尽くしてくれた者にはそれなりの対価を与えるつもりだ。そしてその逆も然り。
もし私に言い訳も許されない程の理不尽な行為を働いて来た者に関しては、こちらも容赦しない。徹底的に仕返しをするまでだ。
18年間虐げられて生きて来たのだ。
「いい加減、私も我慢の限界よ・・・。」
私はそっと口に出して呟いた―。
「う・・そ、それは・・旦那様に命じられたからだ・・・。」
ヤコブはたかだかシェフのくせに私に横柄な口の利き方をする。
「ふ~ん・・お父様に命じられたの・・・。だけど、貴方はこの屋敷のシェフでありながら・・伯爵令嬢の私にカチカチのパンや冷めきった、具材も味も殆ど無いスープを出していたのね?」
「ああ・・そうだ。旦那様がこの俺を拾ってくれたから・・今の俺があるんだ。だから旦那様の命令は絶対なのだ。」
ヤコブは腕組みをしながら私を見下ろすと言った。
「あ、そう・・・。実はね・・私最近町でお気に入りのパン屋を見つけたのよ。そのパン屋の名前は『パネム』と言うのだけど、とっても人気でいつも行列が出来ているのよね・・・。安くて美味しいし、しかも種類が豊富となれば当然町の人達は買いに行くわよねえ?私もあんなに美味しいパンを口にするのは生まれて始めてだったわ。だってこの屋敷ではカビが生えかかったようなカチカチのパンしか出せないのですものねえ?」
「な・・何だって・・・?」
ヤコブの眉間にしわが寄り、顔が徐々に怒りの為か赤くなっていく。
「ライザ様は・・俺の腕を馬鹿にする気なのか・・・?」
「違うわ。馬鹿にする機などまったくないけれど・・・ああ。そう言えばこんな事もあったわ。実はねジュリアン侯爵様という方にお肉料理がメインのレストランに連れて行った貰った事があったの。その店はお客さんが多くてとても賑わっていたわ。それに出されたお肉もとっても美味しくて・・・。だから思ったのよ。この屋敷には私の為にまともな料理を作れる料理人がいないから、私が個人的に自分専用の料理人を雇おうかと思ってるの。ちょうどここに金貨100枚あるしね。」
私はわざともって来た金貨の袋をジャラジャラさせて中から1枚取り出して見せた。
「!そ、それは・・・!」
それを見た途端、ヤコブの顔色が変わった。それは当然の事だろう。父はとても強欲でケチな男だ。お金はあるくせに使用人達を安い給料でこき使っている。今目の前のシェフであるヤコブもそうだ。私が取り出した金貨1枚は彼等の給料の2ヵ月分に該当する。
「私はね、彼らを1カ月分の給料を金貨1枚分の賃金で支払おうかと思っているの。勿論私専属だから私の分だけ料理を作らせるつもり。彼等は町で人気店を作り上げているから楽しみだわ・・。それにもし、彼らの腕がこの厨房で認められれば、貴方のシェフの地位も危うくなるかもね?」
私は背の高いヤコブを睨み付けるように言った。
「クッ・・・!」
ヤコブは悔しそうに拳を握りしめると言った。
「・・・何が望みなんですか・・?」
「私にも・・お父様たちと同じ料理を出して頂戴。あんな料理・・食べれたものじゃ無いわ。大体この私を見れば分かるでしょう?」
私は両手を広げてヤコブに言った。
頬はこけ、やせ細った貧相な身体・・・。それは長年に渡り、栄養状態の悪い粗末な食事しか食べて来なかった結果だ。父は私を地味な女と言ったが・・・あんな人並み以下の食事ばかり与え続けられていては、肌の状態も悪くなるし、髪の艶も無くなる。何よりあばら骨が見えるような痩せ細った身体なのだから見栄えが悪くなっても仕方ない。
「・・・・。」
ヤコブは私をじっと見つめた。恐らくこれ程私を注視する事は無かっただろう。
「分かりました・・・。」
初めてヤコブの瞳に同情の色が宿った。
「ライザお嬢様にも・・・同じ食事を提供します。」
ヤコブは頭を下げながら言った。
「ありがとう、では今夜から私の部屋に持って来てくれる?もう家族と食事を取るのは辞めにしたから。私の部屋は今は南棟の3階、階段を登って手前から3つ目の部屋よ。隣はカサンドラの部屋だからすぐに分かるでしょう?」
そう、私はわざとカサンドラの隣の部屋の空き部屋を自分の部屋にしたのだ。もうこれ以上この屋敷で誰にも馬鹿にされない為に・・・!
「ああ~気分がいい!」
厨房を出た私は邸宅の中庭のベンチに座って伸びをした。一応、ヤコブには謝礼金として金貨3枚を渡した。1枚はヤコブの為に、残りの2枚は10人いる料理人達に分けるようにと、敢えて料理人を全員集めた所で私はヤコブに言いつけた。こうしておけばヤコブは金貨を独り占めする事は出来まい。
私は悪女のになると決めたが、きちんと筋は通すつもりである。父のような業突く張りな真似は決してしない。私の為に尽力を尽くしてくれた者にはそれなりの対価を与えるつもりだ。そしてその逆も然り。
もし私に言い訳も許されない程の理不尽な行為を働いて来た者に関しては、こちらも容赦しない。徹底的に仕返しをするまでだ。
18年間虐げられて生きて来たのだ。
「いい加減、私も我慢の限界よ・・・。」
私はそっと口に出して呟いた―。
78
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる