虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
35 / 58

3-9 会いに来た相手は 

しおりを挟む
 その日は突然やってきた。ジュリアン侯爵と会って、ちょうど1週間目の事・・・。

この日、私は自室で朝食を食べた後に食後の読書をしていた。すると屋敷内が急に騒がしくなったのだ。ドアの外ではバタバタと走り回る音が聞こえるし、フットマンやメイドの慌てふためく声が聞こえてくる。

「全く、何なの・・・?この屋敷の使用人たちは・・・・。」

こんな騒がしい屋敷ではゆっくり読書も出来ない。町へ出て公園で読書をしよう。
私は本を閉じて立ち上がると外出着に着替えた。そして上着を羽織り、ショルダーバックに今読みかけの本と、あと1冊まだ目を通していない新しい本をバックの中に入れると部屋を出た。

廊下では使用人たちがあわただしく、お茶の準備やら花の準備をしている。

「ふ~ん・・・誰かお客様が来たのかしら?珍しいわね・・・。」

我が家にはほとんど客らしい客は来たことがない。父はあのような性格なので人脈もないし、母は決して社交的とは言い難い気難しい性格である。噂によると女性同士のお茶会でも母が参加すれば、政治の話や学問の話になり、興ざめしてしまうらしい。
全くそのような話しか興味がないのなら初めから結婚などせず、学問や女性実業がの道でも目指せばよかったのに・・・。
私は首を振って、母や父の事を頭から追い出した。
そしてエントランスに続く長い廊下を歩いているとき、たまたま部屋の掃除をしていたメイドたちの会話が耳に飛び込んできた。

「そういえば本日いらした侯爵様・・・一体どちらのお嬢様を選ばれるのかしら?」

「カサンドラ様じゃないの?」

「まさかっ!ライザ様よ。第一あの旦那様がカサンドラ様を手放すと思う?」

「だけど、美しさでは絶対カサンドラ様よ・・・。」

私はその会話をうんざりする気持ちで聞いていた。どうやらここの使用人たちは噂話が好きで仕方がないようだ。・・・くだらない。
おまけにあのメイドたち・・・ずいぶんいい度胸をしている。明らかに全員私がいることを意識して会話をしているのが見え見えだ。何故なら彼女たちは全員、一度私の方を見たからだ。・・彼女たちは確信犯だ。私にわざと聞かせるためにこんな話をしている。だが・・・そんな話になど乗ってやるものか。独立できるだけのお金がたまれば、いずれ近いうちに私はこの屋敷を出るのだから。
そのまま部屋の前を通り過ぎ、エントランスへ向かった時背後から母の呼ぶ声が聞こえた。

「お待ちなさい!ライザッ!」

振り返った私は露骨に嫌そうな目で母を見た。母もその視線に気づいたのか、一瞬ビクリとなったが、とげとげしく言った。

「なんなんですか・・?ライザ。その目は・・・それが実の母に向ける目ですか?」

母?母らしいことなどほとんどしてくれた事などなかったのに?

「何故私がこのような目で・・貴女を見るのか・・聡明なお母様でしたらお分かりになりますよね?」

おもいきり侮蔑の視線で母をみると、自分が何のことについて言われたのか気づいたらしく、一瞬で母の顔が真っ赤に染まる。

「ラ・・ライザッ!お・・お願いよ・・・あの時の事はもう・・忘れて・・・。」

うつむきながら肩を震わせる母を一瞥すると言った。

「それよりご用件は何ですか?私に用事があったので引き留めたのですよね?」

「え、ええっ!そうよ!ライザ、貴女にお客様が来ているのよ。しかも相手の方は以前もいらしたジュリアン侯爵様よ。今客間でお待ちなのよ。早く向かってちょうだい。」

母は早口でまくし立てた。え?ジュリアン侯爵が・・・?一体何の用事があって屋敷いらしたのだろう?とりあえず私は急いで客間へと向かった。
客間へ行くとドアは開かれており、父とジュリアン侯爵が向かい合わせで座っていた。
私は深呼吸すると声を掛けた

「失礼致します。」

「ああ、ライザ。待っていましたよ?」

ジュリアン侯爵は笑みを浮かべて私を見た。一方父の方は正反対でイライラしながら私に叱責した。

「ライザッ!遅いっ!客人を待たすなっ!早く中へ入って、ここへ座りなさいっ!」

父は私を下座の席に座るように指で指示した。

「はい。」

ジュリアン侯爵の手前もあり、私は素直に席に座った。すると直後に、美しいドレスに身を包んだカサンドラが2人のメイドを引き連れて現れたのだ。

「失礼致します。お父様、ジュリアン侯爵様。」

「え・・?なぜ貴女がここに・・?」

ジュリアン侯爵は怪訝そうな顔をした。一方の父はカサンドラを見ると、焦り顔で言った。

「カ、カサンドラ!なぜここへ来たのだね?部屋へ戻りなさい。」

するとカサンドラは言った。

「いいえ、叔父様。ジュリアン侯爵様はこの屋敷に住む令嬢へ会いにいらしたと伺っております。そうなると本来この席に座るのはライザではなく私ですわよね?」
 
そして頬を染めて美しいジュリアン侯爵を見つめた―。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした <モンタナ事件から18年後の世界の物語> 私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。 「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」 「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」 悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。 (それって、一個人の問題どころか⋯⋯) 「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!? 「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」 呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり? 頑張ります。 「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」 ーーーーーー タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ ご一読いただければ嬉しいです。 R15は念の為・・

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...