50 / 58
4-8 待ち遠しい夜
しおりを挟む
今夜は夜7時からモンタナ家で盛大なカサンドラの誕生パーティーが開催される日だ。
カサンドラは・・大丈夫なのだろうか?あの日、私がカサンドラ付きのメイドに呼ばれてモンタナ家へ戻った時・・カサンドラは離れの家に閉じ込められたうえに足かせをはめられ、逃げられないように足かせから伸びたチェーンを支柱にくくり付けられていた。
あんな情緒不安定なカサンドラを果たして近隣一帯の貴族たちの集まる誕生パーティで人々の前に姿を現すことが出来るのだろうか・・?
「どうしたんだい?ライザ。」
ジュリアン侯爵に声を掛けられ、私はハッと我に返った。私の向かい側のテーブル席には侯爵が座っている。今は2人で朝食を取っている時間なのだ。
「い、いえ。少し考えごとをしておりました・・・。申し訳ございません。せっかくのジュリアン様との朝食の時間に考えごとをしてしまって・・。」
私はハムステーキを切り分けながら言った。
「いや・・気にしなくてもいいよ。今ライザの頭の中を占めているのは今夜開催されるカサンドラの誕生パーティーについての事だろう?」
ジュリアン侯爵は美しいテーブルマナーで食事をとりながら語る。
「はい、そうです・・・。カサンドラは・・完全に正気を失っておりました。あんな状態で貴族の方々の前へ出ても大丈夫なのだろうかと少し、心配になってしまって・・・。」
「そうか・・・。それならどうする?ライザ。今ならまだ間に合うからもう一度聞くよ?今夜のカサンドラの誕生パーティ・・・ぶち壊すかい?それとも・・・このまま開催させるかい?ただし、ぶち壊してしまえば・・カサンドラの不幸は減るし、母君の不幸も減る。しかし誕生パーティーをそのまま開催させれば・・カサンドラとモンタナ伯爵夫妻の苦しみは増える。・・・さあ、どうする?」
ぶち壊す・・・およそ上品なジュリアン侯爵様らしくも無い言葉使いを聞きながら私は思った。昨日知った衝撃的な事実・・・。私はつい最近まで戸籍に名前を入れてもらえていなかった。そして皮肉な事に私を戸籍に入れるきっかけとなったエンブロイ侯爵への私の身売り・・・。結局私は父からも母からも娘とは認められていなかったのだ。そのことは18年間虐げらて来た生活が全てを物語っている。我々はお前を娘と認めないと言われていも同然の仕打を今迄ずっと受けてきたのだ。しかも養女として引き取られてきたカサンドラにさえ―。
「ジュリアン様・・・。」
私はフォークを片手に尋ねた。
「何だい?ライザ。」
ジュリアン侯爵は頬杖をついて、私をじっと見つめている。
「ジュリアン様は先程おっしゃいましたよね?カサンドラの誕生パーティーを開催させれば・・・父も、母も、そして・・・カサンドラの苦しみも増える・・・と。」
「言ったよ?」
笑みを浮かべながら私を見つめるジュリアン侯爵。それなら私の考えは決まっている。
ザクッ!
私は先程カットしたハムステーキにフォークを突き立てると言った。
「もちろん、誕生パーティーは開催させてあげたいと思います。おそらく準備をするのに相当手間暇をかけてきたと思いますから。それをぶち壊してはあまりにも気の毒ですので。」
そしてハムステーキを口に入れて飲み込んだ。うん、とても熟成された・・完璧な味だ。
「ライザ。君なら・・・必ずそう言ってくれると思っていたよ。食事が終わったら、衣裳部屋へ行こう。君の為にいろいろな種類のドレスを用意してあるんだよ?そして・・美しく着飾ったライザをモンタナ家に見てもらおうじゃないか?今の君は・・以前の君に比べて、本当に格段に美しくなったよ?」
「ありがとうございます、ジュリアン様。」
「いいんだよ、ライザ。それよりも今夜は最高の夜になるだろう。今からとても楽しみだよ。」
ジュリアン侯爵は朝日の下で爽やかに笑う。
「はい、私もとても楽しみです。」
ああ、待ち遠しい。
早く夜にならないだろうか―
カサンドラは・・大丈夫なのだろうか?あの日、私がカサンドラ付きのメイドに呼ばれてモンタナ家へ戻った時・・カサンドラは離れの家に閉じ込められたうえに足かせをはめられ、逃げられないように足かせから伸びたチェーンを支柱にくくり付けられていた。
あんな情緒不安定なカサンドラを果たして近隣一帯の貴族たちの集まる誕生パーティで人々の前に姿を現すことが出来るのだろうか・・?
「どうしたんだい?ライザ。」
ジュリアン侯爵に声を掛けられ、私はハッと我に返った。私の向かい側のテーブル席には侯爵が座っている。今は2人で朝食を取っている時間なのだ。
「い、いえ。少し考えごとをしておりました・・・。申し訳ございません。せっかくのジュリアン様との朝食の時間に考えごとをしてしまって・・。」
私はハムステーキを切り分けながら言った。
「いや・・気にしなくてもいいよ。今ライザの頭の中を占めているのは今夜開催されるカサンドラの誕生パーティーについての事だろう?」
ジュリアン侯爵は美しいテーブルマナーで食事をとりながら語る。
「はい、そうです・・・。カサンドラは・・完全に正気を失っておりました。あんな状態で貴族の方々の前へ出ても大丈夫なのだろうかと少し、心配になってしまって・・・。」
「そうか・・・。それならどうする?ライザ。今ならまだ間に合うからもう一度聞くよ?今夜のカサンドラの誕生パーティ・・・ぶち壊すかい?それとも・・・このまま開催させるかい?ただし、ぶち壊してしまえば・・カサンドラの不幸は減るし、母君の不幸も減る。しかし誕生パーティーをそのまま開催させれば・・カサンドラとモンタナ伯爵夫妻の苦しみは増える。・・・さあ、どうする?」
ぶち壊す・・・およそ上品なジュリアン侯爵様らしくも無い言葉使いを聞きながら私は思った。昨日知った衝撃的な事実・・・。私はつい最近まで戸籍に名前を入れてもらえていなかった。そして皮肉な事に私を戸籍に入れるきっかけとなったエンブロイ侯爵への私の身売り・・・。結局私は父からも母からも娘とは認められていなかったのだ。そのことは18年間虐げらて来た生活が全てを物語っている。我々はお前を娘と認めないと言われていも同然の仕打を今迄ずっと受けてきたのだ。しかも養女として引き取られてきたカサンドラにさえ―。
「ジュリアン様・・・。」
私はフォークを片手に尋ねた。
「何だい?ライザ。」
ジュリアン侯爵は頬杖をついて、私をじっと見つめている。
「ジュリアン様は先程おっしゃいましたよね?カサンドラの誕生パーティーを開催させれば・・・父も、母も、そして・・・カサンドラの苦しみも増える・・・と。」
「言ったよ?」
笑みを浮かべながら私を見つめるジュリアン侯爵。それなら私の考えは決まっている。
ザクッ!
私は先程カットしたハムステーキにフォークを突き立てると言った。
「もちろん、誕生パーティーは開催させてあげたいと思います。おそらく準備をするのに相当手間暇をかけてきたと思いますから。それをぶち壊してはあまりにも気の毒ですので。」
そしてハムステーキを口に入れて飲み込んだ。うん、とても熟成された・・完璧な味だ。
「ライザ。君なら・・・必ずそう言ってくれると思っていたよ。食事が終わったら、衣裳部屋へ行こう。君の為にいろいろな種類のドレスを用意してあるんだよ?そして・・美しく着飾ったライザをモンタナ家に見てもらおうじゃないか?今の君は・・以前の君に比べて、本当に格段に美しくなったよ?」
「ありがとうございます、ジュリアン様。」
「いいんだよ、ライザ。それよりも今夜は最高の夜になるだろう。今からとても楽しみだよ。」
ジュリアン侯爵は朝日の下で爽やかに笑う。
「はい、私もとても楽しみです。」
ああ、待ち遠しい。
早く夜にならないだろうか―
91
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる