母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
147 / 199

第6章 7 自覚した気持ち

しおりを挟む
 その手紙の主はヴィクトールからだった。『ベルンヘル』の運河の傍のバラックの一つに浮浪者の姿で小屋の中にスカーレットの父、リヒャルトが発見されたと書かれていた。今は自分の事も良く分からず、口も利けない状態らしいがスカーレットに会えば正気を取り戻す事が出来るかもしれないので、すぐに『ミュゼ』に向かうとの内容が書かれていた。

「なるほど…」

アリオスは溜息をつくと手紙を封筒に入れてスカーレットに返した。

「あ、あの…アリオス様。申し訳ございませんでした」

突如スカーレットが頭を下げて来た。

「え?何故謝るのだ?」

アリオスはスカーレットが何故突然頭を下げてきたのかが分らずに質問した。

「そ、それは…アリオス様の許可も無く、突然父たちが‥『ミュゼ』に…。で、ですが…」

スカーレットの目に涙が浮かぶ。

「どうした?スカーレット」

アリオスは涙ぐみスカーレットに戸惑った。

「い、いいえ…な、亡くなったっと思っていた父が実は生きていたことが…う、嬉しくて…」

顔を覆って泣くスカーレットにアリオスはどうすればよいか分らなかった。

「ス、スカーレット…」

アリオスはスカーレットの隣にすわり、ためらいがちにそっと肩に触れてみた。けれど拒絶される仕草が見られなかった。そこでアリオスはスカーレットの肩を引き寄せ、そっと自分にもたれさせた。そしてスカーレットが無きやむまでアリオスは黙って肩を抱き寄せていた。

やがて、ひとしきり泣いて落ち着いたのかスカーレットがアリオスの身体から離れると言った。

「あ、あの…申し訳ございませんでした。こんな…肩をお借りしてまで泣いてしまって‥」

スカーレットは頬を赤く染めた。

「いや、気にしないでくれ。亡くなったと思っていた父親が生きていたのだから嬉し泣きするのは当然だ。そ、それに…」

アリオスはスカーレットから顔を背けると言った。

「俺で良ければ…肩くらい、いつでも貸す‥から」

「アリオス様…」

アリオスの耳は赤く染まっていた。

「はい、ありがとうございます。アリオス様」

スカーレットは笑みを浮かべると立ち上がった。

「アリオス様。お仕事中お邪魔してしまい、申し訳ございませんでした」

スカーレットは立ち上がると礼を述べた。

「い、いや。気にしないでくれ」

「また父の事で手紙が届きましたら、アリオス様にご報告させて頂きますね。それでは失礼致します」

「ああ。それではまた夕食時に会おう」

「はい。分りました」

そしてスカーレットは再度頭を下げると、アリオスの執務室を後にした。



****

 執務室からスカーレットが出て行き、ひとりきりになるとアリオスは書斎机に向かい、肘掛け椅子に腰を下ろすと寄りかかり、天井を見上げた。

(スカーレットの父親が『ベルンヘル』で見つかり、もうすぐここへやって来る…。手紙によれば父親の正気は今は失われているが、もし元に戻ったなら…スカーレットはどうするのだろう?屋敷を取り戻すために『リムネー』に帰るのだろうか‥?だが、そうなるとカールの家庭教師の仕事も辞める事に…)

…行かないで欲しい。

アリオスの中に強い願望が生まれた。カールの家庭教師を辞めて欲しくないからではない。自分の傍にいて欲しい‥。

「俺は…どうやらザヒムの思っていた通り…スカーレットが好きなようだ‥‥」

アリオスはポツリと呟くのだった―。


しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

処理中です...