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5-15 私とクロード
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眩しさのあまり、目を閉じるとエメラルドさんの驚きの声が聞こえて来た。
『アベル! アベルだわ‼ 本物のアベルよ‼』
「え⁉ 魔法使い⁉」
何とか眩しさに耐えて薄目を開けると、床の上に倒れている魔法使いを見つけた。いつものメガネはかけておらず、目を閉じたままで意識を失っているようだった。
「アベル! しっかりして!」
一瞬でドラゴンから人型の形態に戻ったエメラルドさんが床に倒れている魔法使いを揺すぶる。……けれど、全く無反応だ。
「う~ん……どうやら800年間も指輪の中に囚われていたからまだ意識が戻って来ないのかもしれないわね」
「ま、まさか……死んでいるなんてこと、無いですよね?」
振るえながらエメラルドさんに尋ねてみた。
「それは無いわね、だって息をしているもの」
「あ、あの~……話がさっぱり見えないのだが……」
そこへ父が遠慮がちに声を掛けて来た。そう言えばすっかり存在を忘れていた。
「あら、お父様、いたのですね」
「そ、そんな! さっきからずっといただろう⁉ いや、そんなことよりも君は一体何者なのだね⁉ それにここに倒れている人物は誰なのだ?」
父は私にではなく、エメラルドさんに尋ねてきた。
「いいわよ。説明してあげるわ……ところで、その前に」
エメラルドさんはクロードをチラリと見た。
「そこのあなた。サファイアに何か聞きたいことがあるんじゃないの?」
「え?」
驚いてクロードを振り返ると、彼はじっと私を見つめたまま頷いた。
「サファイア……だっけ? 少し2人だけで話がしたいのだけど……」
「は、はい……」
真剣な眼差しのクロードに私は思わず頷いていた――
****
私とクロードはふたりで城の園庭に出ていた。
先程からクロードは美しい月に照らされた花壇を黙って見つめている。その沈黙が重苦しく、私は恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの……」
すると――
「君と初めて会ったのは……城の花壇だったね」
え……?
「真っ白な身体に青い目の蛙姿……とても可愛かったよ」
振り返ったクロードは優し気な笑みを浮かべていた。まさか、クロードは私の正体に気付いたのだろうか?言葉を無くしたまま見つめていると、さらに彼の言葉は続く。
「あのペンダントは亡くなった母の形見だったんだ。母もとても身体が弱かった人でね……僕を生んですぐに亡くなってしまったんだよ。だから手元に戻ってきたときは本当に嬉しかった。サファイア、白いフクロウも君だったんだろう?」
「そ、それは……」
「僕の為に喘息に効果のあるハーブを摘んで来てくれたのに、てっきり君があの白蛙を食べてしまったのかと思って冷たい態度を取ってしまった。本当に悪いことをしてしまったね。白い猫のときは棚の下敷きになった僕の為に人を呼んできてくれたし……そ、それに……犬の姿の時は……僕達を助けるために……狼と闘って……」
いつの間にか、クロードの目には涙が浮かんでいた。
「ク、クロード……」
すると、彼は泣き笑いの表情を浮かべた。
「サファイア、やっと僕の名前を呼んでくれたね?」
「あ! す、すみません! 貴方は王子様なのに呼び捨てしてしまって……!」
しまった! いつもクロードと呼んでいたから、癖で言ってしまった!
「いいよ、クロードで。君には……そう呼んで貰いたいから」
そしてクロードは私に近付き……手を握って来た――
『アベル! アベルだわ‼ 本物のアベルよ‼』
「え⁉ 魔法使い⁉」
何とか眩しさに耐えて薄目を開けると、床の上に倒れている魔法使いを見つけた。いつものメガネはかけておらず、目を閉じたままで意識を失っているようだった。
「アベル! しっかりして!」
一瞬でドラゴンから人型の形態に戻ったエメラルドさんが床に倒れている魔法使いを揺すぶる。……けれど、全く無反応だ。
「う~ん……どうやら800年間も指輪の中に囚われていたからまだ意識が戻って来ないのかもしれないわね」
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振るえながらエメラルドさんに尋ねてみた。
「それは無いわね、だって息をしているもの」
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「そ、そんな! さっきからずっといただろう⁉ いや、そんなことよりも君は一体何者なのだね⁉ それにここに倒れている人物は誰なのだ?」
父は私にではなく、エメラルドさんに尋ねてきた。
「いいわよ。説明してあげるわ……ところで、その前に」
エメラルドさんはクロードをチラリと見た。
「そこのあなた。サファイアに何か聞きたいことがあるんじゃないの?」
「え?」
驚いてクロードを振り返ると、彼はじっと私を見つめたまま頷いた。
「サファイア……だっけ? 少し2人だけで話がしたいのだけど……」
「は、はい……」
真剣な眼差しのクロードに私は思わず頷いていた――
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私とクロードはふたりで城の園庭に出ていた。
先程からクロードは美しい月に照らされた花壇を黙って見つめている。その沈黙が重苦しく、私は恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの……」
すると――
「君と初めて会ったのは……城の花壇だったね」
え……?
「真っ白な身体に青い目の蛙姿……とても可愛かったよ」
振り返ったクロードは優し気な笑みを浮かべていた。まさか、クロードは私の正体に気付いたのだろうか?言葉を無くしたまま見つめていると、さらに彼の言葉は続く。
「あのペンダントは亡くなった母の形見だったんだ。母もとても身体が弱かった人でね……僕を生んですぐに亡くなってしまったんだよ。だから手元に戻ってきたときは本当に嬉しかった。サファイア、白いフクロウも君だったんだろう?」
「そ、それは……」
「僕の為に喘息に効果のあるハーブを摘んで来てくれたのに、てっきり君があの白蛙を食べてしまったのかと思って冷たい態度を取ってしまった。本当に悪いことをしてしまったね。白い猫のときは棚の下敷きになった僕の為に人を呼んできてくれたし……そ、それに……犬の姿の時は……僕達を助けるために……狼と闘って……」
いつの間にか、クロードの目には涙が浮かんでいた。
「ク、クロード……」
すると、彼は泣き笑いの表情を浮かべた。
「サファイア、やっと僕の名前を呼んでくれたね?」
「あ! す、すみません! 貴方は王子様なのに呼び捨てしてしまって……!」
しまった! いつもクロードと呼んでいたから、癖で言ってしまった!
「いいよ、クロードで。君には……そう呼んで貰いたいから」
そしてクロードは私に近付き……手を握って来た――
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