私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
99 / 99

5-17 ずっとそばに <完>

しおりを挟む
 その後、魔法使いがポツリポツリと話してくれた。

800年前に王家に代々伝わる『魔封じの指輪』というものに、黒魔法を生み出した罰を背負わされた自分が封印されてしまったこと。
指輪の中は城の地下にある迷宮と繋がっていて、自分の力では抜け出すことが出来なかったこと。そして迷宮の中は……時間が停止していることを。

「でも、良く分かったね? あのギルバート王子が僕を封印していた指輪をはめていたってことに」

魔法使いが尋ねて来た。

「それは簡単よ。ここは小説の世界で、私はこの話を知っているからだって。私は悪女として描かれていたサファイアの身体に憑依してしまったって何度も言ってるじゃない」

「うん……。前もそう言っていたけど……果たして本当にそうなのかな?」

ズイッと魔法使いが顔を近付けて来る。

「な、な、何よ!ど、どういう意味なの?」

美しすぎる魔法使いに見つめられて思わず赤面してしまう。

「サファイアのお陰で封印が解けて、魔力が完全に戻った今なら分かるよ。君……無意識の内に自分自身に暗示をかけていただろう?」

「え……? 暗示……?」

一体、どういうことだろう?

「自分で暗示をかけていたことも気づいていないんだね。でもまぁ、確かにそうかもしれないね。ならいいよ。僕を助けてくれたお礼に、サファイアが自分でかけた暗示を解いてあげるよ」

そして魔法使いは突然私の額に自分の額をくっつけて来た。

「キャア‼ い、いきなり何するのよ!」

恥ずかしくて、思わず離れようとすると止められた。

「おとなしくしていて。暗示を解いてあげているのだから」

「え……?」

すると、私の頭の中に覚えの無い記憶が蘇って来た――



****

『イヤアアアアア‼ な、何! この姿は‼』

池に映る蛙姿の自分に絶叫した。

『嘘よ……こ、こんなのは……そう、これは夢の中の出来事に違いないわ。きっとここは物語の世界なのよ。そして私はその身体に乗り移ってしまった読者なのよ。このサファイアの身体に憑依した全くの別人……』

記憶の中の私は池を見つめながらブツブツと『自分はこの身体に乗り移った別人』と言い続けている。
やがて……意識が遠のき、私はそのまま気を失ってしまった――


****

「そう……思い出した……わ……」

私は両肩を抱きしめた。
小説を読んでいたのは自分の前世だった。蛙にされてしまった状況に耐えられず、無意識の内に暗示をかけて前世の自分が今の自我を上書きしてしまったのだ。
だからこの身体の記憶が全く無かったのであった。

「そ、そんな……それでは、私は初めから……サファイアだったのね……?」

俯きながら、ドレスをギュッと掴んだ。

「そうだよ、サファイア。……ショックだったかい?」

私の肩を抱いて声を掛けてくる魔法使い。けれど、不思議とショックは無かった。
むしろ……。

「ううん、ショックじゃないわ。だって……私は魔法使いと同じ世界の人間だった……ってことだから」

すると、魔法使いは笑った。

「アベルだよ」

「え?」

「魔法使いじゃなくて、アベルだよ」

「ア……アベル……?」

顔を赤らめながら、初めて魔法使いの名を口にする。

「そう、サファイアには……名前で呼んで貰いたい」

そして魔法使いが目を閉じて顔を近付けて来た。私も真っ赤になりながら目を閉じる。

 この日、私と魔法使いは初めてキスを交わした――



****


 その後ギルバート王子の蛮行は世間に広まり、彼は貴族からも平民からも猛烈なバッシングを受けた。

 私という婚約者がありながら、他の女性と恋仲になったこと。邪魔な私を消す為に封印していた魔法使いを脅し、呪いを掛けさせたこと。

さらに偉大な魔塔主であったアベルに言いがかりをつけて、今迄封印してきた罪を何故かギルバート王子が背負わされることになった。こうしてすべての罪を背負わされた彼は王族の身分をはく奪されて追放されてしまったのだった。




 そして――

「残念だったよ、サファイア。僕は君を自分の婚約者にしたかったのだけどね」

私の屋敷を訪れていたクロードが寂しげに笑った。

「申し訳ございません、クロード様。ですが、コーネリア様がいらっしゃるではありませんか?」

クロードと向かい合わせに座った私はにっこり笑った。

「彼女はただの幼馴染だよ。でも、本当に僕に乗り換えるつもりは無いのかな?」

すると――

「駄目ですよ、クロード王子。サファイアは僕のものですから」

隣りに座るアベルが私をギュッと抱きしめて来た。

「ちょ、ちょっとアベル……! クロード王子の前でやめてよ!」

恥ずかしくて顔が思わず赤くなる。

「何で? 彼の前で僕達の仲をみせつけてやればいいじゃないか」

「あはははは…‥ごめん。冗談だよ、少しからかっただけだから。だけど……」

クロードは私をじっと見つめた。

「時々は城に遊びに来てくれないかな? ベンもアビーもジャックも……皆、君に会いたがっているから」

「はい、いつか必ず遊びに行きますね」

私は大きく頷いた——



****


「サファイア、クロード王子の城に行くのはいいけど……条件がある」

クロードが帰った後、アベルが神妙な顔つきで話し始めた。

「条件? どんな?」

「それはね……僕と結婚してからだよ!」

「ふ~ん……そう。結婚……ええっ⁉ け、結婚!」

「ああ、そうだよ。クロードの目を見たかい? 彼は僕の魔法ですっかり身体が元気になってからというもの、足繁くこの屋敷に通っているじゃないか。それはね、まだサファイアを諦めきれていないからだよ! 不安なんだよ! 彼にいつかサファイアを取られてしまうんじゃないかと思うと、おちおち夜も眠れないよ!」

まるで捨てられそうな犬のように縋り付くアベルがおかしくて、笑ってしまった。

「アハハハハ……! や、やだ。何言ってるの? それは確かにクロードは格好いいけど…‥」

「ああ! やっぱり! 本当は僕かクロードにしようか迷っているんじゃないの⁉」

「馬鹿ね。アベルは。私が好きな人はね……自慢屋で笑い上戸の人だから」

「え?」

その言葉にキョトンとするアベル。全く仕方ないなぁ……

「あなたのことだって言ってるのよ」

耳元で囁くように言うと、途端に抱きしめられた。

「ありがとう、サファイア。愛してる、君のためなら、僕の全ての魔力を注いでこの世界を捧げたっていいよ?」

「そんなのいらない。ただ……ずっと、もうそばにいてね? 以前みたいに時々いなくなったりしないでよ?」

「しないよ。と言うか……もう、片時も僕は君から離れたくないから」

潤んだ瞳で私を見つめるアベル。

「アベル……」

そして、私達は互いを抱きしめあったままキスを交わした。



 その後私達は結婚した。

 勿論伝説の魔法使い、アベルの結婚が歴史に残されたのは言うまでもなかった――

<完>
しおりを挟む
感想 22

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(22件)

淡雪
2023.06.06 淡雪
ネタバレ含む
2023.06.06 結城芙由奈@コミカライズ連載中

感想ありがとうございます。コメディ風の恋愛小説でした

解除
ノコノコ
2023.06.04 ノコノコ
ネタバレ含む
2023.06.04 結城芙由奈@コミカライズ連載中

最後までお読み頂き、ありがとうございました★

解除
ノコノコ
2023.06.03 ノコノコ
ネタバレ含む
2023.06.03 結城芙由奈@コミカライズ連載中

感想ありがとうございます。続きをお待ちください。

解除

あなたにおすすめの小説

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!

みかぼう。
恋愛
地方を救おうとして『反逆者』に仕立て上げられ、断頭台で散ったエリアナ・ヴァルドレイン。 彼女の失敗は、有能すぎるがゆえに「独りで背負いすぎたこと」だった。 ループから始まった二周目。 彼女はこれまで周囲との間に引いていた「線」を、踏み越えることを決意した。 「お父様、私に『線を引け』と教えた貴方に、処刑台から見た真実をお話しします」 「殿下、私が貴方の『目』となります。王国に張り巡らされた謀略の糸を、共に断ち切りましょう」 淑女の仮面を脱ぎ捨て、父と王太子を「共闘者」へと変貌させる政争の道。 未来知識という『目』を使い、一歩ずつ確実に、破滅への先手を取っていく。 これは、独りで戦い、独りで死んだ令嬢が、信頼と連帯によって王国の未来を塗り替える――緻密かつ大胆なリベンジ政争劇。 「私を神輿にするのなら、覚悟してくださいませ。……その行き先は、貴方の破滅ですわ」 (※カクヨムにも掲載中です。)

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。