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第44話 ヒロインを庇う悪役令息

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 2時限目の数学の授業は前世の知識のお陰か、何とかなった。

3時限目の授業は地理だった。
その時初めて世界地図を目にし、やはりここは異世界なのだと改めて実感することになった。

そして4時限目。
この授業は古代文字とかいう訳の分からない授業だった。今まで一度も見たことも無い記号の羅列を目にした段階で、もうお手上げだと思った。
大体言葉にすればたったの2文字しか無い単語が、何故4つの記号で表したり、時には6つの記号で表したりするのだろうか?
全く持って法則が理解出来なかった……。


****

キーンコーンカーンコーン……

教室に午前の講義の終わりを告げる鐘の音色が響いていた。


「駄目だ‥‥このままでは……。悪役令息の上にすぐに女の子に声を掛け、挙句の果てに頭の出来が悪い男だなんて‥‥最低だっ……」

午前の授業が全て終了し、燃え尽きて?机の上に突っ伏していると悪友たちの声が頭上から聞こえて来た。

「どうしたんだ?アドルフの奴。大体悪役令息って何のことだ?」

「さあな~真剣に授業を受けて疲れたんだろう?」

「でも途中で顔面蒼白になっていたぞ?あれは中々見ものだった」

3人の悪友たちの会話を聞きながら僕は思った。
彼らは今のままの成績でも将来構わないのだろうか……?

「ほら、アドルフ。授業は終わったんだ。食事に行こうぜ」

ブラッドリーに肩を軽く叩かれ、顔を上げた。

「うん、それもそうだ!何しろ午後も2時間授業が残っているから、ここは一つ頭に栄養が行き届きそうな食事をとらないと!」

「何だ?また妙な事を言ってるぞ?」

「やっぱり頭の打ちどころが悪かったんじゃないか?」

エミリオとラモンがひそひそと話をしているけれどもここは聞こえないふりをした。

「よし、それじゃ急いで片づけるとしよう!」

最後の古代文字の授業のせいでカルチャーショック?を受けてしまって暫く僕は呆けていた。その為、まだ机の上には教科書やノートが出っぱなしになっていたのだ。

それらをカバンの中にしまっていると、不意にブラッドリーが話しかけて来た。

「なぁ、アドルフ。あの教室の入り口でビクトリア達と一緒にいるのって…ここからじゃ良く見えないけどひょっとしてエディットじゃないか?」

「え?」

その言葉に顔を上げて教室の入り口に視線を移すと、確かに今朝会話した女子学生達と一緒にいるのはエディットだった。

「へ~……エディットって、あの3人と友達だったのか?」

ラモンが興味深げに様子を見ている。

「知らなかったな。……でもそれにしては様子が変じゃないか?」

エミリオの言葉に僕は立ち上がった。違う!あのエディットの表情‥‥あれは怯えているんだっ!

「ごめんっ!皆っ!ちょっと行ってくるっ!」

「え?」
「お、おい!」
「アドルフ?」

呆気にとられる3人をその場に残して、僕は彼女たちの元へ駆け寄った。
こちら側を向いていたエディットは不安そうな顔を浮かべていた。けれども駆け寄ってくる僕をいち早く目にしたエディットに安堵の笑みが浮かぶ。

「エディットッ!」

僕の声に驚いて振り向いたのは派手目な女子学生ビクトリアとその一行。
…と言うか、誰がビクトリアなのか僕には皆目見当がつかないのだけれども。

「アドルフ様!」

エディットは嬉しそうに僕を見て笑うと、それが気に入らなかったのか彼女達は次々にエディットに文句を言い始めた。

「ほら、アドルフが邪魔だから帰れって文句を言いに来たわよ?」

「大体Aクラスの学生はCクラスに来ないでよ」

「私達を馬鹿にするために来たんでしょう?」


すると、エディットは必死になって首を振った。

「違います‥‥わ、私はただ…アドルフ様に会いに……」


「嘘言うんじゃないわよ!」

一番性格の強そうな、栗毛色の髪を縦ロールにした女子学生がまるでヤキを淹れるかのように叫んだその時――。

「ありがとう、エディット。迎えに来てくれたんだね?」

「え?きゃ!」

ビクトリア達からエディットを守る為に、僕は彼女の小さな身体を抱きしめた。

「ごめん、エディット。僕に抱きしめられて嫌かもしれないけど、少しの間我慢して」

僕はエディットの耳元で小声でつぶやいた。



「ちょ!ちょっと!アドルフッ!」
「何してるのよっ!」
「冗談でしょう?!」

僕の背後ではビクトリア達が激しく抗議してくる。それが嫉妬によるものだと言うことはすぐに分かった。

そこで僕は一旦エディットの身体を離し、今度はビクトリア達から庇うように背後に隠すと彼女達にきっぱり言った。

「僕がエディットにCクラスに来てくれるように頼んだんだ。だからあまり彼女を責めないで貰えないかな?それにエディットは君たちが考えているように、誰かを馬鹿にするようなことは絶対しない人だよ。それは僕が断言する」

「アドルフ様…」

背後でエディットが僕の名を口にする。

「な、何よ……アドルフ。貴方、本当に馬に蹴られたショックで頭がおかしくなっちゃったの?」

栗毛色の縦ロールの女子学生‥‥うん、多分彼女がビクトリアなのだろう。
何だかリーダー風をふかしているように感じる。

「そういう訳だから、ビクトリア。もうエディットにちょっかいは出さないで貰えるかな?よし、それじゃ行こう。エディット」

「は、はい……」

そして僕はエディットの手を繋ぐと、呆気にとられるビクトリア達と、恐らく悪友たちを残して教室を出て行った。

その直後にすぐに女子学生の声が背後で響き渡った。

「何よっ!私はビクトリアじゃないわっ!私はエレナよっ!」


‥‥どうやら、僕はまたしてもやってしまったようだ――。

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