婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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第64話 悪役令息の密かな願い

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 頬を染めて僕を見つめるエディットの反応に、正直少し驚いていた。

てっきり『デート』と言う言葉を聞いて、嫌がられるのではないかと思ったのにそんな反応をされると、妙な気持ちになって来る。

ひょっとして、エディットは僕のことを好きなのではないだろうか……と?
だけどすぐにその考えを打ち消した。

駄目だ、もう彼女の運命の相手である王子が現れたんだ。
悪役令息の僕が出る幕では無いのだから。

原作よりも早い登場だったけれども、妹のサチが一緒なら頷ける。

ひょっとすると、サチが王子の背中を押しているのかもしれない。
何しろ、サチはエディットと王子のカップルを推していたのだから。

やっぱりどう考えても僕のような悪役令息にはエディットには勿体ない。
気立ても良くて、優しくて……こんなに可愛いらしい女性は僕にとって分不相応だ。

「あ、あの……アドルフ様…」

不意にエディットが頬を赤く染めながら声を掛けて来た。

「何?」

「先ほどから…その、私を見ておりますが…な、何か顔についてますか…‥?」

「え?あ!」

何てことだろう。つい自分の考えに没頭するあまり、僕は無意識にエディットを見つめていたのだ。

「ご、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだ。ただ…エディットが可愛らしかったからつい……見惚れちゃって……」

すると、ますますエディットの顔は真っ赤に染まっていく。
し、しまった!つい思っている言葉を口にしてしまった。

「あ、あの…エディット。い、今のは…」

う…き、気まずい。何か言わなくては……。

すると――。

「ア、アドルフ様こそ……」

「え?」

「アドルフ様の方こそ、とても素敵な方だと思います。優しくて、思いやりがあって……だから、私は…」

後の台詞は言葉としては聞き取れなかったけれど、妙に気恥ずかしい雰囲気が馬車の中に流れている。

駄目だ…。
エディットがサチと王子と一緒に学食に来ている姿を目撃してから、妙に彼女を意識してしまっている自分がいる。

「あ、あはははは…エディットからそう言って貰えるなんて光栄だな~」

その場の奇妙な雰囲気を払拭する為、僕は笑って誤魔化すと話題を変えることにした。

「ところでエディット、次は何処へ行きたいんだい?」

「はい、実は最近出来たばかりの喫茶店があって、そのお店で出されるケーキがとても美味しくて人気があるそうなんです。次はそこに行きたいのですが…宜しいでしょうか?」

ケーキかぁ…。
甘いものは苦手だけど…でも喫茶店なら僕はコーヒーを飲めばいいだけだし……。

「うん、いいよ。喫茶店だね?今日はどこでもエディットの行きたい場所に付き合うって決めてるんだから遠慮する必要はないからね?」

「はい、ありがとうございます」

エディットは嬉しそうに笑った――。



****


「ここがエディットの来たがっていた喫茶店なんだね?」

「はい、そうです」


その喫茶店は馬車で約10分程の場所にあった。
オレンジ色のレンガ造りの喫茶店はとても雰囲気があり、サチが見たら悲鳴を上げて喜びそうな店だった。

「それじゃ、早速中へ入ろうか?」

「はい」

ドアを開けてエディットを先に入れてあげて、僕も後に続いた。



 店内は平日の夕方ということもあってか、それ程混んではいなかった。

「アドルフ様、あの窓際の席に座りませんか?」

エディットが指し示した先にはえんじ色のボックス席があった。

「うん、いいね。あの席に座ろう」


そして僕達は着席すると、すぐにメニューを眺めた――。



 エディットが頼んだのは紅茶と苺のシフォンケーキのセットだった。
目の前で美味しそうにケーキを食べる姿を見つめながら僕はコーヒーを飲んでいた。

それにしても…本当にエディットはスイーツが好きなんだな。
嬉しそうな笑顔でケーキを食べている姿を見ていると、見ているこちらも幸せな気分になってくる。

その時…ふとエディットと目が合い、僕に声を掛けてきた。

「あの、アドルフ様」

「何?」

「コーヒーだけで宜しかったのですか?」

「うん。ちょっとお昼の量が多かったからね」

大体甘いものは苦手だからコーヒーだけで僕は十分だった。

「そうなのですか?」

「うん、だから僕のことは気にしなくていいからね。エディットが美味しそうに食べる姿を見ているだけで僕は十分だよ」

「ア、アドルフ様…」

途端にまた顔を赤らめるエディット。

僕の言葉1つで表情が豊かに変化するエディットを見ているのは飽きなかった。

もうエディットと王子は既に出会ってしまっているけれど……出来ることなら、もう少しこの関係を続けてもいいだろうか……?

エディットの話に相槌を打ちつつ、僕は心のなかで密かに願った――。

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