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第12話 眠れない夜
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部屋に戻ると、既に明かりが灯されて室内は明るく照らし出されていた。
「誰かが明かりを付けていってくれたのね…」
ゆらゆらと揺らめくオレンジ色の明るい光が少しだけ落ち込んでいた自分の気持ちを落ち着かせてくれる。
「本当なら結婚したばかりだから同じ部屋で過ごすはずだたったのに…。まさか結婚する前が一番幸せな時間だったなんて思いもしなかったわ…」
思わずポツリと言葉が口から漏れる。
昨日までの私は本当に幸せだった。優しい両親に囲まれ…もうすぐフィリップの妻になれる喜びで心が満たされていたのに、まさか結婚したその日にこんな辛い事が待ち受けていると思いもしなかった。
まさに天国から地獄へ突き落とされてしまったかのような気持ちだ。
「そんなに私と結婚するのが嫌だったなら…初めから断ってくれていれば良かったのに…」
少しは上向きだった気持ちが、再び落ち込んでくる。鼻の奥がツンとなり、目頭には涙が浮かび、辺りの光景を滲ませる。
「…」
私は無言で部屋の窓際に置かれた白いライティングデスクに目をやる。あの引き出しの中には今日フィリップから預かった離婚届が入っている。
『最低…そうだな。2年以内に離婚してくれればそれで僕は構わないよ』
フィリップの私に投げた言葉が脳裏に蘇ってくる。
「そんな…2年以内に離婚なんて出来るはずないわ。お姉様の駆け落ちで我が家の評判は落ちてしまったのに…この上、私がたった2年で離婚なんてしようものなら我が家はますます世間の不評を買ってしまうし、両親を悲しませてしまうもの…」
大好きな父と母を悲しませたくはなかった。その為には私はありとあらゆる努力をして、フィリップとの離婚を回避しなくては。
「だけど…私にそんな事が出来るのかしら…?」
でもやらなければならない。両親を失望させない為にも…そして何より私はフィリップの事が好きだから…。
私の中にはまだ、あの当時の優しかったフィリップの記憶が心に刻み込まれているから。
「とりあえず、これからの事は…明日、又考えましょう」
今は疲れが酷いので、妙案が浮かばない。
私は入浴する為にバスルームへ向かった―。
****
カチコチカチコチ…
今は真夜中、午前2時―
真っ暗な部屋の中、カーテンの隙間からのぞく一筋の月明りが部屋の中を青白く照らしている。
とても疲れているはずなのに…少しも眠気がやってこない。今日の結婚式の出来事と、離婚の話、食事の時のそっけない態度…そして結婚したばかりなのに別々の部屋でベッドに入っていると言う事実と、明日への不安でどうしても眠ることが出来なかった。
「寝なくちゃいけないのに…朝にはセシルが来るはずだから…」
セシルはずっと私とフィリップの結婚に反対していた。なのに、私はセシルの忠告を聞かずに、フィリップの上辺だけの結婚の誘いに応じてしまった。
セシル…。
私と同い年の彼は子供の頃からずっと私に対する当たりが強い人だった。小さい頃は良く彼に泣かされていたものだった。
そしてそんな私を慰めてくれたのが5歳年上のフィリップだったのだ。
私とセシルはよほど馬が合わなかったのか、彼はいつも何処か私に喧嘩腰だった。そしていつしか成長するにつれ、セシルは私に背を向けた。たまに顔を合わせる事があっても彼は私を無視し、そして私も自分から彼に話しかけるようなことは一切しなかった。
そして私とセシルの関係に変化が見られたのが…フィリップの結婚話が出た時の事だった。
「フィリップはセシルが私の事を気にしていたと言っていたけど…多分それは無いわね…」
だって彼は私を嫌っていたのだから…。
やがて、徐々に眠気に襲われ始め…気付けば私は眠りについていた―。
「誰かが明かりを付けていってくれたのね…」
ゆらゆらと揺らめくオレンジ色の明るい光が少しだけ落ち込んでいた自分の気持ちを落ち着かせてくれる。
「本当なら結婚したばかりだから同じ部屋で過ごすはずだたったのに…。まさか結婚する前が一番幸せな時間だったなんて思いもしなかったわ…」
思わずポツリと言葉が口から漏れる。
昨日までの私は本当に幸せだった。優しい両親に囲まれ…もうすぐフィリップの妻になれる喜びで心が満たされていたのに、まさか結婚したその日にこんな辛い事が待ち受けていると思いもしなかった。
まさに天国から地獄へ突き落とされてしまったかのような気持ちだ。
「そんなに私と結婚するのが嫌だったなら…初めから断ってくれていれば良かったのに…」
少しは上向きだった気持ちが、再び落ち込んでくる。鼻の奥がツンとなり、目頭には涙が浮かび、辺りの光景を滲ませる。
「…」
私は無言で部屋の窓際に置かれた白いライティングデスクに目をやる。あの引き出しの中には今日フィリップから預かった離婚届が入っている。
『最低…そうだな。2年以内に離婚してくれればそれで僕は構わないよ』
フィリップの私に投げた言葉が脳裏に蘇ってくる。
「そんな…2年以内に離婚なんて出来るはずないわ。お姉様の駆け落ちで我が家の評判は落ちてしまったのに…この上、私がたった2年で離婚なんてしようものなら我が家はますます世間の不評を買ってしまうし、両親を悲しませてしまうもの…」
大好きな父と母を悲しませたくはなかった。その為には私はありとあらゆる努力をして、フィリップとの離婚を回避しなくては。
「だけど…私にそんな事が出来るのかしら…?」
でもやらなければならない。両親を失望させない為にも…そして何より私はフィリップの事が好きだから…。
私の中にはまだ、あの当時の優しかったフィリップの記憶が心に刻み込まれているから。
「とりあえず、これからの事は…明日、又考えましょう」
今は疲れが酷いので、妙案が浮かばない。
私は入浴する為にバスルームへ向かった―。
****
カチコチカチコチ…
今は真夜中、午前2時―
真っ暗な部屋の中、カーテンの隙間からのぞく一筋の月明りが部屋の中を青白く照らしている。
とても疲れているはずなのに…少しも眠気がやってこない。今日の結婚式の出来事と、離婚の話、食事の時のそっけない態度…そして結婚したばかりなのに別々の部屋でベッドに入っていると言う事実と、明日への不安でどうしても眠ることが出来なかった。
「寝なくちゃいけないのに…朝にはセシルが来るはずだから…」
セシルはずっと私とフィリップの結婚に反対していた。なのに、私はセシルの忠告を聞かずに、フィリップの上辺だけの結婚の誘いに応じてしまった。
セシル…。
私と同い年の彼は子供の頃からずっと私に対する当たりが強い人だった。小さい頃は良く彼に泣かされていたものだった。
そしてそんな私を慰めてくれたのが5歳年上のフィリップだったのだ。
私とセシルはよほど馬が合わなかったのか、彼はいつも何処か私に喧嘩腰だった。そしていつしか成長するにつれ、セシルは私に背を向けた。たまに顔を合わせる事があっても彼は私を無視し、そして私も自分から彼に話しかけるようなことは一切しなかった。
そして私とセシルの関係に変化が見られたのが…フィリップの結婚話が出た時の事だった。
「フィリップはセシルが私の事を気にしていたと言っていたけど…多分それは無いわね…」
だって彼は私を嫌っていたのだから…。
やがて、徐々に眠気に襲われ始め…気付けば私は眠りについていた―。
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