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第50話 感じる気遣い
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ど、どうして…?
どうして私が刺繍をしたハンカチがフィリップの机の引き出しに入っているのだろう?
てっきり無くなってしまったかとばかり思っていたのに…まさかフィリップが持っていたのだろうか?
でも…持っていったとしたらいつなのだろう?
このハンカチは自室のテーブルの上に乗せておいたのに…。
「どうかしたのか?エルザ。インクは見つかったのか?」
「え?ええ、インクね」
インクは同じ引き出しに入っていた。
「ええ、あったわ」
引き出しからインクを取り出し、セシルに見せた。
「そうか、なら良かった」
「ええ、そうね」
何気ない態度を装いながらも、私はひどく動揺していた。インクを替える手が震えてうまく交換することが出来ない。
「エルザ」
セシルに声を掛けられて顔を上げると、こちらをじっと見つめているセシルの姿があった。
「な、何?」
「どうしたんだ?何だか顔色が悪いようだが…何かあったのか?」
「そんな事ないわ。大丈夫よ」
「だが…」
私を心配そうに見るセシル。
その姿を見てふと思った。
何故だろう?セシルは以前よりずっと優しくなったように見える。昔のセシルは何かと言えば私に意地悪なことばかりしてきたのに…。
ひょっとするとフィリップの妻になった私に気を使っているのだろうか?
だから私は言った。
「セシル、いくら私がフィリップの妻になったからと言って気を使うこと無いわよ?私と貴方は幼馴染同士なのだから」
「…」
するとセシルは妙な顔つきで私を見る。
「…どうしたの?」
「…別に…言ったわけ…な…」
「え?何か言った?」
セシルの言葉が小さくて所々聞こえなかった。
「いや、何でも無い。それよりインクの入れ替えは出来たのか?」
「ええ、出来たわ」
「そうか…でも、もうダイニングルームへ行く時間だ。今日の仕事はここまでにしよう」
壁の時計をチラリと見ながらセシルが言った。時計の針はそろそろ18時になろうとしていた。
「あ…本当ね。それじゃ行きましょうか?」
「ああ、そうだな」
そして私とセシルは一緒にダイニングルームへ向かった―。
****
ダイニングルームへ行くと、既にテーブルには料理の準備が出来上がっていた。
「お待ちしておりました、セシル様。エルザ様」
私達を迎えてくれたのはフットマンのロビンさんだった。
「ああ、今夜の給仕はロビン、君だったのか?」
セシルがロビンさんに声を掛けた。
「はい、それではごゆっくりお召し上がり下さい」
ロビンさんは頭を下げるとダイニングルームを去っていった。
「へ~…ここで出て来る料理は俺たちの食事内容とは全く違うんだな」
席につくなり、セシルは並べられた料理をを見て目を丸くした。
「…そ、そうなの?」
私もテーブルの上の料理を見てアッと思った。テーブルの上に並べられている料理は全て私が好きな物ばかりだったからだ。
じゃがいもを細切りにして丸く焼いたブルトンヌ、魚の香味焼き、キッシュ、野菜のクリームソース煮、チーズを挟んで焼いたホットサンド…。そしてデザートにはチェリートルテ…。
セシルが来ているのに私の好きな料理ばかり用意してくれているなんて…。私への気遣いに胸が熱くなった。
一方、セシルは珍しい料理に感心している。
「初めて見る料理が多いけど…どれも美味しそうだな」
「ええ、とても美味しいのよ?食べてみて」
「ああ、それじゃ頂こうかな」
「ええ」
早速セシルはじゃがいものブルトンヌを口にする。
「ん…。美味しい!何だ?これ…すごく美味しいじゃないか。後で厨房に言って料理内容を聞いて向こうでも作ってもらうように頼もうかな」
セシルはとても嬉しそうだった。
「そう?気に入って貰えてよかったわ」
こうして私とセシルの夕食の時間が暫くの間、続いた―。
どうして私が刺繍をしたハンカチがフィリップの机の引き出しに入っているのだろう?
てっきり無くなってしまったかとばかり思っていたのに…まさかフィリップが持っていたのだろうか?
でも…持っていったとしたらいつなのだろう?
このハンカチは自室のテーブルの上に乗せておいたのに…。
「どうかしたのか?エルザ。インクは見つかったのか?」
「え?ええ、インクね」
インクは同じ引き出しに入っていた。
「ええ、あったわ」
引き出しからインクを取り出し、セシルに見せた。
「そうか、なら良かった」
「ええ、そうね」
何気ない態度を装いながらも、私はひどく動揺していた。インクを替える手が震えてうまく交換することが出来ない。
「エルザ」
セシルに声を掛けられて顔を上げると、こちらをじっと見つめているセシルの姿があった。
「な、何?」
「どうしたんだ?何だか顔色が悪いようだが…何かあったのか?」
「そんな事ないわ。大丈夫よ」
「だが…」
私を心配そうに見るセシル。
その姿を見てふと思った。
何故だろう?セシルは以前よりずっと優しくなったように見える。昔のセシルは何かと言えば私に意地悪なことばかりしてきたのに…。
ひょっとするとフィリップの妻になった私に気を使っているのだろうか?
だから私は言った。
「セシル、いくら私がフィリップの妻になったからと言って気を使うこと無いわよ?私と貴方は幼馴染同士なのだから」
「…」
するとセシルは妙な顔つきで私を見る。
「…どうしたの?」
「…別に…言ったわけ…な…」
「え?何か言った?」
セシルの言葉が小さくて所々聞こえなかった。
「いや、何でも無い。それよりインクの入れ替えは出来たのか?」
「ええ、出来たわ」
「そうか…でも、もうダイニングルームへ行く時間だ。今日の仕事はここまでにしよう」
壁の時計をチラリと見ながらセシルが言った。時計の針はそろそろ18時になろうとしていた。
「あ…本当ね。それじゃ行きましょうか?」
「ああ、そうだな」
そして私とセシルは一緒にダイニングルームへ向かった―。
****
ダイニングルームへ行くと、既にテーブルには料理の準備が出来上がっていた。
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「ああ、今夜の給仕はロビン、君だったのか?」
セシルがロビンさんに声を掛けた。
「はい、それではごゆっくりお召し上がり下さい」
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「へ~…ここで出て来る料理は俺たちの食事内容とは全く違うんだな」
席につくなり、セシルは並べられた料理をを見て目を丸くした。
「…そ、そうなの?」
私もテーブルの上の料理を見てアッと思った。テーブルの上に並べられている料理は全て私が好きな物ばかりだったからだ。
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一方、セシルは珍しい料理に感心している。
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「ああ、それじゃ頂こうかな」
「ええ」
早速セシルはじゃがいものブルトンヌを口にする。
「ん…。美味しい!何だ?これ…すごく美味しいじゃないか。後で厨房に言って料理内容を聞いて向こうでも作ってもらうように頼もうかな」
セシルはとても嬉しそうだった。
「そう?気に入って貰えてよかったわ」
こうして私とセシルの夕食の時間が暫くの間、続いた―。
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